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第1話:模型から始まる異世界転移

異世界転移先がSF世界だったら、で描いてみました。

これから話しを膨らませていければと思います。

読み辛い箇所があったので、一部修正しました。

また、表題を章から話に変更しました。

貴志たかしは毎晩のように同じ夢を見ていた。漆黒の宇宙を切り裂く巨大な戦艦。その甲板に立ち、星々の光を背に、敵艦隊と対峙する自分。耳をつんざくような爆発音、艦橋に響くクルーの叫び声、そして手に汗握る戦術の応酬。夢の中の彼は、まるで英雄だった。

だが、目が覚めると、そこにあるのは薄暗いワンルームマンションの天井と、枕元に転がるスマートフォンのアラーム音だけだった。


「はぁ、またか…」


貴志はため息をつきながらベッドから這い出し、スーツに袖を通した。30代半ばのサラリーマン生活は、夢とは程遠い現実だった。

エクセルとにらめっこし、上司の小言を聞き流し、終電間際の電車に揺られる日々。宇宙戦艦どころか、自分の人生すら思うように操縦できない。そんな毎日が、彼を少しずつ疲弊させていた。


ある土曜日の午後、いつものように近所の模型店に足を運んだ。そこは貴志にとっての小さなオアシスだった。子どもの頃から好きだったプラモデルが並ぶ棚を眺めていると、心が少しだけ軽くなった。ふと、店の片隅に置かれた見慣れない箱が目に入った。


『銀河艦隊 駆逐艦ハイペリオン 1/500スケール』


懐かしさがこみ上げた。銀河艦隊は、学生時代に夢中で読んだSF小説であり、アニメも繰り返し見ていた。駆逐艦ハイペリオンは地味ながらも、その無骨なデザインが好きだった。値札を見ると、意外と安価だった。


「たまにはこういうのもいいか」

そうつぶやいて、貴志はその模型を手にレジへ向かった。


自宅に戻り、狭いダイニングテーブルに模型のパーツを広げた。接着剤の匂いと、カッターで切り出すプラスチックの感触が、貴志を少年時代に戻した。コツコツと組み立てること数時間。深夜を過ぎた頃、ついに駆逐艦ハイペリオンの模型が完成した。


「悪くないな」

貴志は満足げに模型を手に持ち、部屋の明かりの下で眺めた。その瞬間だった。模型が突然、青白い光を放ち始めたのだ。


「えっ、何だこれ!?」

驚く間もなく、光は部屋全体を包み込み、貴志の視界が真っ白に染まった。頭がクラクラし、意識が遠のいていく。

そして、次に目を開けたとき、彼はそこにいた。


「艦長、起床確認。状況報告をお願いします」

聞き慣れない声が耳に届いた。柔らかく、それでいて凛とした女性の声だった。

貴志は目をこすりながら周囲を見回した。

そこは狭いながらも金属的な光沢を帯びた部屋。いや、艦橋だった。天井には無数のモニターが埋め込まれ、壁には複雑な配線とスイッチが並んでいる。そして目の前には、巨大なコンソールと、宇宙の星々を映し出す大型スクリーンがあった。


「艦長? 私? 何!?」

貴志は慌てて立ち上がろうとしたが、身体が重く感じられた。見下ろすと、彼は見慣れない灰色の軍服を着ており、胸には階級章らしきものが縫い付けられていた。そして何より驚くべきことに、彼が座っていたのは艦長席だった。


「状況を再確認します。艦長の覚醒を確認。現在、本艦は未知宙域に漂流中。エネルギー供給は安定、戦闘準備は整っています。指示を待機中です」


声の主は、コンソールのスピーカーから流れていた。貴志は混乱しながらも、目の前の操作パネルに目をやった。そこには、見覚えのあるシルエットが映し出されていた。


「これ…ハイペリオン?」

そう、まさに彼が組み立てた駆逐艦の模型と同じ形状だった。ただし、今は模型ではなく、本物の宇宙戦艦として目の前に存在している。貴志は震える手でコンソールを触った。すると、スクリーンに新たなメッセージが表示された。


『全システムAI制御。艦長認証:貴志(仮)。艦名未設定。命名を要請します』

「命名って…俺が?」

貴志は呆然とつぶやいた。すると、AIの声が再び響いた。


「はい、艦長。この艦はあなたの指揮下にあります。私は本艦の中枢AIとして、あなたをサポートします。艦名は、私たちのアイデンティティとなります。どうか、素敵な名前をお願いします」


その口調には、どこか人間らしい温かみが感じられた。貴志はしばらく考え込んだ。夢の中で何度も見た宇宙戦艦。銀河艦隊の影響は強いが、ここは全く別の世界だ。ならば、新しい名前を。

「…『アストラリス』。どうだ?」


貴志がそう言うと、AIは一瞬沈黙した後、明るい声で応えた。

「『アストラリス』――星々の旅人を意味する、素晴らしい名前です。艦長、ありがとうございます。私、アストラリスのAIとして、あなたと共にこの宇宙を航行することを楽しみにしています」


スクリーンに艦名が刻まれ、艦橋全体が微かに振動した。まるで、アストラリスが喜んでいるかのようだった。

「とりあえず…状況を教えてくれ。ここはどこなんだ?」


貴志はまだ混乱していたが、艦長として振る舞うしかないと腹を括った。アストラリスAIが答えた。

「現在位置は特定できません。転移直後の座標データが欠落しています。周囲に敵性反応はありませんが、未知の星系内に漂流中です。提案:周辺宙域のスキャンを開始し、生存可能な惑星や他の艦船の存在を確認しますか?」


「うん、それでいい。やってくれ」

貴志の言葉に、アストラリスは即座に反応した。艦橋のモニターにスキャンデータが映し出され、星図が徐々に構築されていく。貴志は艦長席に深く座り直し、目の前の宇宙を見つめた。

「異世界転移か…まさか俺がこんな目に合うなんてな」


彼の心には不安と興奮が混在していた。だが一つだけ確かなことがあった。

ここから、彼の新しい物語が始まるのだ。

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