7.ヒーリング・ビューティー
「私の名はサナリィ。郷に案内するからついてきて」
ダークエルフの少女はそう言うと、ユニコーンの背に跨って進みだした。
「良い子ね。あっちよ」と語りかけると、ユニコーンはやさしげにいなないて彼女の指示に従った。
どうやら月神さまとやらのおかげで、僕に対する心象はだいぶ良くなったようだ。
金なし水なし食料なしの哀れな迷い人だとアピールすると、ダークエルフの集落に連れて行ってもらえることになった。この先どうなるかは分からないが、ひとまず友好的な人(ダークエルフ?)とコンタクトを取れたのはありがたい。
それにしても、あのユニコーン――。
あれほどの怪我を負っていたのに、こんなに元気になるなんて。
軽やかな足取りでステップを踏む姿を眺めながら、僕は驚嘆とも感動ともつかない思いを抱いていた。
「ねえ、サナリィ」と僕は初めて彼女の名を呼んだ。「それは一体どうやったの? ユニコーンを治療した、その力は一体――」
「魔術のこと? 貴方だって、さっき使っていたじゃない」
この人は何を言っているのかしら、という表情をサナリィは浮かべた。
彼女は今しがた、僕の目の前で重傷を負っていたユニコーンを回復させた――わずかな時間で、人を乗せて歩き回れるほど元気に。
この時の僕には分からなかったが、サナリィが使った魔術は「ルルペラ・キーン」と「リリ・レネレータ」の2種類だ。痛み止めの魔術を使ってから矢を引っこ抜き、傷口の細胞を再生させるというシンプルな工程で、ソラルナでは割とメジャーな治療方法として広まっている。
サナリィが手を当てるとユニコーンの全身が薄く発光し、みるみるうちに傷が塞がっていったが、その光景は大層神秘的なものとして僕の目に映った。
サナリィは馬上からこちらの方へ顔を向けると、「おかしな人」と言った。
彼女の反応から察するに、この世界で魔術はとりたてて珍しいものではなさそうだ。
そして、僕も魔術を「さっき使っていた」?
あの5人組を飲み込んでいった水流、あれは僕が発現させた魔術ということなのだろうか。自分自身で、何故あのような現象が発生したのか分からない。どのような原理か、再現性があるのか、どのように応用できるのか、嗚呼まったく興味が尽きない。
サナリィに聞きたいことは山ほどあったが、今は彼女の乗ったユニコーンを追いかけるので精いっぱいだ。
サナリィに跨られてはしゃいでいるのか、あの獣はやけに足取りが軽い。おまけに僕が近づくと露骨に不機嫌になり、距離を取るように小走りになる。
まったく、何という助平な四つ足だ。
こっちは、あの力を消費しすぎて、疲れでへとへとになりかけているのに。
「ねえ、ユーリ」とサナリィは振り返った。「あの5人組が追ってこないとも限らないし、急ぎましょう。それに、そろそろ日が暮れてしまうから危険だわ」
彼女の言うことはもっともだったので、僕は肩をすくめて「了解」と答えると、ユニコーンを追いかける足を速めた。