ポンニチ怪談 その77 ネト・ウヨイへのコメント
冬の寒い日に一人の部屋に帰ったネト・ウヨイ。一息つく間もなく立ち上げたパソコンで彼が見たのは…
ニホン国一月。寒さに震えながら、部屋に戻ってすぐ、ネト・ウヨイはパソコンの電源をいれた。ネットを立ち上げ、あるSNSにアクセスする。
“ヤマダノ議員が現地入りして支援活動。それなのにキジダダ総理はさあ”
“チンジロウが募金だって。はあ?庶民から金を集めるより国会を開いて支援の特別法を成立させるとか、大企業から寄付募るとかいくらでもやれるだろうアイツ、ひい爺さんは地元の災害で、現地入りしてやることやってたのにさあ、何ボケてんだよ”
そこには、最近起きた大地震への政府の遅れがちな対応を批判するコメントであふれていた。いまだになされない激甚災害指定、他の災害では数日以内で現地入りしたのに財界や派閥内の新年会に明け暮れる総理、今までより遥かに少額の対策費に、海外メディアのほうが詳細な現地情報。
もちろん政府擁護のコメントもあるが、大半的外れ。迅速対応だという意見が多いというアンケートや議員の募金活動を宣伝する記事もあったが、国民の不満はくすぶっていた。もっともネト・ウヨイは
「チクショウ、なんだって、批判ばかりするんだよお。ちゃんとやってるじゃないかあ」
政府擁護のようで
「現地入りして、人の聞き取りなんてしたって邪魔になるだけだろ。政府はちゃんとやってるんだよ、何もしてないわけじゃないんだ」
とつぶやき、さらに
『被災地いりなんて、邪魔になるだけ。政府の言う通りやってりゃいいんだ』
と書き込んだが、途端に
“そうでもないだろ、臨時国会開くとか”
“海外のメディアなんてドローン飛ばして、被害状況伝えているのに”
“いまだに新聞紙と段ボールで暖をとれってさあ。ニホン国は自然災害大国。しょっちゅう地震が起きてるんだから、日ごろから備えとくべきだろ、ミサイル買うよりそっちの国防のが優先”
批判のコメントが殺到。
「な、なんだよ。いつもは俺のコメントなんか、こんなに返信来ないのに。さてはサヨクとかリベラル連中のいやがらせだな。くそう、倍返し」
と次のコメントを投稿しようとすると
“そんなことやってる場合なのかよ、ちっとはマシなことしろよな”
“やってる人間の批判ばっかりしてさ、自分はぬくぬくと安全なところで暇つぶしみたいにコメントしてんだよね、卑怯者”
“こういうやつはさ、自分が動こうとしないで、上のいいなり。いうこと聞いておこぼれ貰ってりゃいいやつだからさ。声上げて改善しようとしない奴の典型、情けないやつ”
“だから、声を上げる人間叩くんだよ。政権擁護にみせかけた自分擁護なんだよねえ。苦しんでる人を見殺しにしてる人でなしって自覚したくないからさあ”
“救おうと奮闘する人を非難して自分を正当化するわけですね。そういう心理状態ってどういうんでしたっけ、認知的不協和の解消とか?”
“難しいことはわかんないけどさあ、それって酷い目に遭ってる人を見捨ててることをさ、言い訳っていうか、コーテイ?したいんじゃないの。職場で話そうものなら、白けて相手にされないもんね、ま、もっともそんなに密な話する人もいないみたいだけど”
“そうだよね、ロクなことしない政府をかばうのって自分をかばってるんだよ、ボランティアもしない、政府を動かすための声もあげない、寄付すらしない自分をさあ。まあ一人暮らしの中年男がネットに貼りつくのはしょうがないけど”
“できない人もいるのは仕方がないけどさ、開き直るような真似はやめようや。ましてや、頑張ってる人を叩くなんて、そりゃ孤独な人生になるのも仕方ないよ”
「なんだよ、これ、このコメント」
自分の実際の姿、生活を知っているかのような書きぶり。
“あ、本当のこと言われて、ビビってるのかな”
“帰ってから、すぐパソコン見て書き込みなんてさ。お茶ぐらい飲めば?あ、そもそも自炊もしてないのかよ。じゃ、ガスが通らない不便さもわかんないかな”
“コンビニ飯が食えるだけいいよ、被災地は酷いよね。電気とおってないし、スマホもダメ。それもわかんないで、スマホで情報とか言ってる大臣とかバッカじゃないかと思うけど。でも、コイツも同類だよね、似たようなアホコメントしてたもん”
“想像できないし、前の震災のこと忘れてるんだろ、そんなアッタマの悪いことだから、寂しい生活なんだろ”
「チクショウ、なんなんだよ、これじゃ、まるで」
書いてる相手がこの部屋にいるような…
「そ、そんな、馬鹿な」
ウヨイは思わず振り返った。
いつもの薄暗い部屋
だが、ぼんやりした影が一つ、二つ、いや
いくつも、いくつも、いくつも!!
「うわあああ」
“アンタみたいな、言うだけで身の有ることをしようとしない輩がいっぱいのせいで、いっつも対応が遅れるんだよ”
“政府のぬるさを批判して改善しようとしないから、被災地支援が向上しないし、被災時の道具やり方が昭和のまんまなんだよ。そっちに金かけて災害関連の開発が進まないし、訓練やらもロクにしないから二次被害が一向に減らないんだよ”
“他人事だと思ってるからだろ、自分だけは大丈夫とか、アノ震災のことすら忘れてるような過去に学ばない奴だからだよ”
“いや、アノ震災に遭ったくせに、すぐ忘れちまって、備えを怠るような政府だの擁護してるからだよ”
“政府も悪いけどそれを放置どころか助長させてる方が酷いよな、お前らのせいだよ”
“そうだよ、お前らのせいだ”
直接、頭の中に響くコメントの嵐
迫りくる白い影、影、影
「う、うわあああ」
ウヨイは思わずたじろぐが、声はさらに続く。
“私が、僕が、俺が”
“死んだのはあああ!!!”
絶叫とともにウヨイの意識は永遠に途切れた。
まあ、何にせよ、あーだ、コーダというより身の有りそうなことをしなきゃとは思いますよ、といいつつ、なかなかできませんけどね。