4. 管理者と旧友
「あの歪みが扉だとすると、今回はかなり小さい規模になるみたいですね」
「あぁ、3000年の間に扉を開く力が弱まった。もしくは私たちが扉の解放を抑えられる力を得ていたってことも考えられるがな」
石板に書かれていたことは、規模は違えど大半の事象が似たものであった。
しかし、全世界であの歪み、、、[扉]が開けば混乱どころの話ではないだろう。おそらく3000年前より人口は増え、文明も発展している。原始的な生活ができるものも昔よりは減っているだろう。
「今後何も起こらないといいですね。このレベルの災害は、おそらく今の生活を破壊するには十分すぎるでしょうから」
「全く持ってその通りだ。とりあえず、しばらくはダンジョンは封鎖、迷宮も町のもの以外は封鎖しよう」
「町の迷宮は封鎖しないんですか?」
「あぁ、この町は一切歪みが起こらなかったからな。この町の付近で扉が発生すれば、また対策を考えるよ」
そういうことで、町の外のダンジョンはすべて閉鎖されてしまった。二人を迷宮に行かせるのは少々不安だが、二人の意向を聞いたところ、
「できるだけ早く慣れて、クロムさんと戦えるくらいになりたいです!」
「だいぶレベルの高い相手とも戦ってるから、少しずつなら大丈夫だと思います」
と、このようにやる気満々であった。
少々不安は残るが、明日から迷宮を探索することにしよう。今日は休息と迷宮の解説、攻略の準備を行おう。
そうして翌日から、迷宮攻略が始まった。
このまちの中心部にある<封印の迷宮>は、全90階層からなる大規模迷宮だ。中央都市にある迷宮の次に大きいとされている。
例の封印竜を討伐したことを最後に、真面目に迷宮には潜っていなかったため、僕自身も久しぶりの迷宮探索である。
敵とのレベル差を見ながら層を進めていき、レベル差が開き始めたら、僕が援護しながら二人のレベルを上げていく。慣れるまでは上層と呼ばれる30層までで戦闘をするようにした。
二人は連携もさらにうまくなり、僕が合わせるのも大変になって来ていた。
数日潜れば、かなりの層を進むことができた。
「スパイラルソード!連鎖アッパーブレイド!」
「付与パラライズ!」「セイント・レイ!」
15階層のボス、スカルビーストを討伐する。
バントレットが先陣を切り攻撃、僕が援護をして、リリが追撃をかける。相手が特殊行動をする際は<管理者>が警告を出すので、それを報告、僕ができる限り抑える。
パターン化して戦闘を行うことで、対ボスであっても、少ない被弾で戦うことができた。
「二人とも立ち回りの上達が想定よりも早いな。流石だよ」
「いえ、二人の援護があるから僕は安心して前に出れるだけですよ」
「私も、二人が意識を私からそらしてくれるから攻撃できるの、だから、ありがとう」
3人での戦闘回数も重なり、パーティとしての仲も深まりつつあった。いい兆しだろう。
「さて、今日はもう遅いし、そろそろ撤退しようか。ボスの討伐記念にご馳走にしよう!」
「よっしゃ!」「やった!」
迷宮内でも時間の管理を忘れてはいけない。疲労を重ねれば戦闘にも支障が出る。どこまで進むかを決めながら攻略するのも大事な要素だ。
「それじゃあ15層攻略記念に、乾杯!」「「乾杯!!」」
二人で町中の酒場に来ていた。酒場とはいっても普通の料理も提供する、若者でも安心な店だ。
「あの爪めっちゃ尖ってて攻撃するときひやひやしたんだよー」「あの雄叫び、耳が痛かった、、、」
「二人とも見せないだけで思ったより怖がってるんだな。本当によく頑張ったよ」
「「そういうクロムさんは何を考えてたんですか!」」
「えぇ、そうだな、、、敵の特殊行動にどう対応しようか、とか?」
「そういうのじゃなくて、、、いえ、もう大丈夫です」
なにか変なことを答えてしまったのだろうか?かなり二人にあきれられているようだった。
そんな様子でしばらく料理を楽しんでいると、一つのパーティに声をかけられた
「おぉい、天下のウルフさんよぉ?なぁに魔法遣いなんかになって、雑魚のガキのお世話なんかしてるんだ?俺を恐れたのか?なぁ?何とか言ったらどうだ?」
「ほら、答えてあげないんですか?ウルフさん?素直に言ってもいいんですよ、ソロプレイが怖くなったって」
あぁ、思い出した。かつて僕を目の敵にしていたパーティ、トリプルレイピアだ。全員剣使いという異端なパーティではあるが、その実力はかなりのもので、封印の迷宮の70層までは攻略しているそうだ。
「なんですか、この感じ悪い人たちは」
「まぁ、僕がなぜか恨まれてるから仕方ないかも。酔いも回って余計にたちが悪くなってるだけだよ」
「なんだ?冷静気取りか。これだけ罵倒してやってるのに反応しないなんて、失礼だとは思わないのか?」
ー流石に面倒くさいな。どうあしらうべきか考えていると、声を上げたのはリリだった。
「いい加減にしてください!クロムさんは私たちのためにパーティを組んでくれてるんです!意味の分からない理由でクロムさんを侮辱するなら、私、あなたたちを許しません!!」
「リ、リリ?僕は大丈夫だから落ち着いて。」
「嫌です!こんな奴らにクロムさんを侮辱させたままなんて許せません!謝罪してください!」
、、、かなりご立腹なようだ。だが、それを火ぶたに奴らはリリを詰め始める。
「言ってくれるね嬢ちゃん。俺らの子と何も知らないくせに謝罪しろだぁ?偉そうな口きいてんじゃねぇ!クソガキの分際で!死にてぇのか!」
「まずい!リリ、下がれ!」
拳が振り上げられた瞬間、僕はリリの前に出る。そして、殴られると目をつむった。
「幼い子供に何をしている!お前たちには冒険者としての矜持がないのか!」
「っ!お前は、、、、」「クソッ、レディアントか!お前ら、引くぞ!」
そういってトリプルレイピアは去っていった。
「大丈夫か?嬢ちゃん。それに、久しぶりだな。クロム」
「、、、あぁ、久しぶり。さっきは助かったよ」
レディアント。この町で最強と言われているパーティだ。声の主はそのリーダー、カインだった。
「元気にしてて何よりだ。まさか唐突にギルドを作るとは思ってもみなかったよ。それに、、、、もう一度誰かと戦おうとしてくれて嬉しいよ」
「そう、だな。今はパーティを組まないと戦えない体になっちゃったからね。仕方なく始めたけど、今は割とうまくやれてるよ。」
「パーティを組まないと、、、?どういうことなんだ」
心配するような顔で僕を見つめるカイン。しかしまだ、彼には説明しようと思えなかった。
僕は言葉を濁して答える。
「また、今度話すよ。自分でもまだわからない部分が多いんだ」
「そうか。分かった。それと、また俺たちとパーティを組むつもりはないか?」
僕が答えたくないと分かっていて聞いているのだろうか。「あの」地獄を、もう一度味わえというのか?
冗談じゃない。
「まぁ、考えてはおくよ。僕たちはこれで帰らせてもらうよ。行こう、二人とも」
「えっ、あ、はい!」「待ってくださいよ!カインさん、でしたっけ?失礼します!」
「あぁ、またな。帰りに気をつけて」
そう言って足早に出ていくクロムたちを見つめながら、カインは
「クロム、僕はまだ許されてないんだな、、、」
そう、悲しそうにつぶやいていた。
皆さん仕事納めは終わりましたでしょうか。どうも桜樹です。
今回はついにウルフことクロムが周囲に絡まれましたね。
有名人って恨まれるものなんでしょうか?
リリが大声で怒るシチュはいかがでしたか?そこまで人格を見せていないのでそこまで響かないかもしれませんが、、、
クロム君は有名そうなパーティと何か因縁がありそうですが、今後どう絡んでいくんでしょうね!
考察お待ちしております!
今回出てきたパーティを補足しておきましょう!
トリプルレイピア
全員が剣メインの装備の異端パーティ。しかし、そんな中でもしっかり役割が分担されているので、実は結構強かったりする。
しかし性格はあまり良くないため、町中でのトラブルが絶えない。
メンバーは、ユッケ、アダン、マリア。アダンが男、それ以外は女です。
レディアント
町中最強のパーティ。その勇敢さにあこがれ冒険者になる人も多いとか。
迷宮最下層到達経験のある数少ないパーティ。
4人パーティで、リーダーはカイン。男二人、女二人のパーティ。
こんなところでしょうか?
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それでは次のお話でお会いしましょう