3. 管理者、指揮官になる
地上に帰還した僕たちを待ち受けていたのは、凄惨な光景だった。
数時間前入った時と比べて激しく荒れた周囲の遺跡痕。積み上げられていた石壁の一部が、異常な曲線を描いて崩れている。
もちろん、遺跡痕だけではない。
周囲の木々もまるで抉り取られたかのように綺麗に、しかし現実ではありえないような形状の切り口になっている。
「私たちは夢でも見てるんですか、、、?」「なんて不気味な、、、」
僕でさえこのような状況には初めて出会った。二人が困惑の声を上げるのも当然だろう。
「今日のここはやっぱりおかしい。急いで街に帰ろう。周囲の警戒は怠らないで」
僕は索敵魔法を発動させつつ、急ぎ足で街へと向かう。道中二人は気付かなかったようだが、この周辺にはいない、さらに言えば他のダンジョンに生息しているはずのモンスターが時々フィールドに出現していた。
余計な心配をさせないためにも、あえて報告はせずに、足早にその区域を離れた。
そして、幸いなことに何事もなく町まで帰り着くことができた。
「今から僕はこの状況を冒険者協会に伝えようと思う。二人は先に宿に戻って休んでおくんだ。帰りが遅ければ、適当に何か食べてくれ」
そう言い残し、僕は冒険者協会に向かう。協会の周囲は、心なしかざわついているように感じられた。
中に入ると、冒険者協会はまるで災害でもあったかのような騒がしさだった。
「ダンジョンに取り残されている人は!」「洞窟が崩落しただと!?」「新たに3つのダンジョンでの被害を確認!」「記録班!早く被害をまとめろ!」
推測だが、僕らの前で起こったような出来事が他の場所でも、そして広範囲で確認されたのだろう。
そして、その被害は僕の想定よりも大きいらしい。
僕は近くにいた受付嬢に声をかける。
「ある程度の状況は察している。情報を整理するべきだと思うんだが、会長を呼んでくれないか?もちろん僕も情報を提供する」
「クロムさん!現在、報告に対する状況把握ができていません。今は会長もこの処理をされていますので、もう少し待たないと話はできないかと思われます」
「分かった。でもこれだと効率が悪い。この場所、僕が仕切っても大丈夫か?」
「え、えぇ、今は緊急事態です。名のしれている人が指揮を執った方が効率が上がるでしょう」
僕は声を張り上げ、指示を飛ばす
「みんな聞いてくれ!僕はクロムだ!この落ち着きのなさでは場の収拾がつかない!一度場を整理させてくれないか!」
しかし、騒ぐものの勢いは止まらない。仕方ないよな。こんな時に冷静になれるほうがおかしい。
僕はある一つの特技を発動させる。
「ー黒の覇気」
「「「っ!?」」」
黒の覇気。相手を恐怖の波動で委縮させ、こちらに注目させる特技だ。本来なら魔物への牽制やヘイト管理に使う。本来人間に使っていいものではないが、今回は仕方ない。
「みんな落ち着け。これじゃいつまでたっても対策が立てられないだろう。協会担当者は、3つに分かれて。記録、受付、救護だ。報告があるものは受付に並んで。受付は得た情報を記録に報告。今回の事象で怪我をした者は救護に。それ以外は一度帰るんだ。明日には情報がまとめて公開される。迅速な対応のために協力してくれ!」
みんなを鎮静、注目させて話したこともありすぐに作業に取り掛かることができた。
一通りの報告が終わると、得た情報を整理し、公開する情報の作成、被害に対する救助部隊の編制、これからの日程などが定められ、数時間後にようやく落ち着いた。
「今回は助かったよクロム君。君がいなかったらこの速度で終わることはなかっただろう」
「いえ、僕自身が早くことを知りたかったという側面もありますし、お礼を言われると何とも複雑な気持ちになります」
冒険者協会長のゲイルが声をかけてきた。彼とはクエストを個人的に依頼されることもある中だ。
僕の実力でも難しいクエストを個人で依頼してくるので、時々困ってもいるが。。。
「まぁ、いろいろ話したいことはあると思うが、もう今日は遅い。話をするのは明日にしないか?」
「賛成です。僕もさすがにダンジョン探索からの陣頭指揮は疲れましたから。」
「流石のウルフ様でも厳しいことってあるんだなぁ。ともかく今日は帰って休め」
ゲイルと別れ、宿に戻った。本当は帰りに軽食でも取りたかったが、空いている店はもうなかった。
仕方がないのですぐに寝て空腹を紛らわすことにした。
ー痛い、熱い、、、ここはどこだ、、、、?
目の前には巨大な燃え盛る鳥。まるで不死鳥だ。奴が僕を殺そうとしていることが痛いほど伝わってくる。
でも。それでもここで死ぬわけにはいかなかった。僕は動かない体を無理やり起こし、魔法を放つ。
魔法に反応した不死鳥が、僕に向かい獄炎を放つ。魔法と炎のぶつかり合い、激しく発光し、前が見えなくなった。
「ん、、、なんだ、夢か。朝からひどく縁起の悪いものを見た気がするぞ、、、」
にしてもやけに痛みや熱が伝わりやすい夢だったな、、、
「おはようございます、クロムさん。昨日はずいぶん帰りが遅かったですが、どうなりましたか?」
「あぁ、そのことについて今日、もう一度冒険者協会に行こうと思うんだ。二人も遭遇したことだし、一緒に来ても問題ないと思うけど、どうかな?」
「あれが何だったのか、できるだけ詳しく知りたいです。ぜひ連れて行ってください!」
そういうことで、3人で冒険者協会に向かった。
協会に入ると、受付嬢がこちらに気づき、声をかけてきた。
「クロム様、昨日の件で会長がお待ちです。どうぞこちらに」
「分かった。二人も一緒で大丈夫かな?」
「はい。もちろん問題ありません」
そう言われ、奥の部屋に案内された。
「思ったよりも早起きだな、クロム。昼頃に来るかと思っていたぞ」
「今は二人の優秀な仲間が規則正しい生活を送らせてくれていますから」
「後ろの二人か。いい仲間じゃないか、大事にしろよ」
「もちろんです。それで、まとまった情報はどうなりましたか?」
「今から説明する。後ろの二人もよく聞いておくんだ」「「は、はい!」」
ゲイルさんは自分の見解を話し始めた
昨日、町の外で起きた事象は原因不明の空間接続だったそうだ。
どこからどこへ繋がっているか分からないゲートが近くに無数に発生し、本来いないはずのモンスターが出現するという事態になったそうだ。
また、そのゲートの出現は、極めて短時間であり、ゲートが消滅した際に転送途中だったものが多く、周囲の物が抉れていたり、ダンジョン内部が崩壊したりしたそうだ。
「そんなことが起こっていたんですか。でも、よくそこまで考察できましたね」
「お前が帰った後、禁書庫を探していたんだが、面白い文献が見つかってな。これをもとに考察してみただけだ。だがこれは3000年前の出来事を記したものだ。あくまで神話程度の資料がソースだということを覚えていてくれ」
ゲイルさんはそう言って僕たちに古い石板を渡した。そこにはこう書かれていた
ー空が赤き夕日に染まるころ、その[扉]は急に現れた。[扉]は無数に表れ、やがて世界を覆った。
世界に広がった[扉]は、急に開きすべての世界を混沌へと導いた。
ありとあらゆる物質を吐き出し、吐き出した分はこちらから吸い込んでいった。人も、獣も、物も、すべては[扉]によりかき混ぜられた。[扉]が閉じたとき、そこに残った物は扉により吐き出された無数の異国のモノと、吸い込まれた残骸であった。
これを後世に、「扉の悪夢」として伝える。
私たちに扉を閉じることはできない。だが、後の世代が、いずれ開く扉を閉じることを願う。
冒険者協会に禁書庫がある理由、それは冒険者協会という存在が、この町が発展する前から存在していたからである。
どうも、桜樹です。毎度不定期な更新で申し訳ありません。
今回はクロム君が指揮を執るという新しいセンスを見せていましたね。
(半ば強引に注目を集めさせられたみんなは反感を覚えましたが、その後の指揮が的確だったので、あまり文句は出なかったとか)
まぁ、怖そうな特技ではありましたが、現実で言うところのマイクのハウリングで注目を集めたようなものだと思ってください。
さて、伝承のように語り継がれる[扉]のお話、3000年前はもっと被害が大きかったそうですが、クロム君は何を考えるんでしょうね、、、!
考察も是非お待ちしておりますよ!
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これが本当に最後になりますが、感想も随時お待ちしております!つまらない話であったり、誤字が激しかったりした際は、ぜひ一言、喝を入れていただけると助かります。
それでは!次回のお話で合いましょう!