序章4 ー管理者一行、出発するー
「ほぉ、クロムが狼、ガキ二人が牙で銀狼の牙、ね。いい名前じゃねえか」
工房に帰り、協会でのことを話すと、バルフェルドさんはそう言った。受付嬢がそこまで考えていたかはわからないけど、自分たちでも結構気に入った名前だった。
「バルフェルドさん、二人に一人前になってもらうために、まずは装備を整えさせてあげたいんだけど、頼んでもいいかな」
「そういうと思ったぜ。もちろん、二人のことも俺に任せな、いい装備を作ってやる。まぁ、お前の持ってる素材を使わせてもらうけどな!」
二人は街に出てきてから一度も武器を新調していないという。バントレットの剣や鎧は傷や凹み、欠けがひどく、リリのローブも端がボロボロになっている。これを機にすべての装備を整えてあげるのが得策だろう。
「それじゃあ、お前らの戦闘スタイルと、何ができるか、今後どういうスタイルで戦うかを聞かせてくれ。クロム、お前も転職したんだ。カスタムしてやるからある程度の事情を聞かせてもらうぞ。」
バルフェルドさんに二人の装備の新調をお願いしている間に、僕は工房近くの倉庫に向かう。
二人の装備のための素材と、僕の新しい戦闘スタイルに合った武器を探すためだ。
ちなみに僕は管理者の影響で前衛が務まらなくなったので、魔法遣いに転職した。別に転職に報告の義務はない。
だが、決意を固めるため、僕は魔法職として、冒険者協会に登録しなおした。
魔法職に会う装備と、二人分の素材を見繕い、工房に帰ると、二人はバルフェルドさんの作業に見とれていた。
「おう、帰って来たか。二人の戦闘のコンセプトを基に、しばらく使える装備を考えた。あとはお前が持ってきた素材で作るだけだ」
流石はバルフェルドさん。作業が早い。
そしてバルフェルドさんは、僕に向き直って、真剣なまなざしで話しかけてきた。
「さて、次はお前が話す番だ。何があったかしっかり聞かせてもらうからな」
「もちろんだよ。二人はどうする?僕に何があったか、聞いておくか?」
「はい!何がったのか、ぜひ聞かせてもらいたいです!」
本当は二人には話したくない。でも、彼らはギルドの一員だ。聞く権利はあるだろう。
僕は、あの封印竜を討伐した日からのことを話した。
「ふぅむ、管理者、ねぇ。聞いたこともない能力だ。恐らくかなり高位のスキルだろうな。しかし近接特技が封じられるとはお前も可哀想に。だが、しばらくこの二人といることは、お前にとっても無駄じゃないかもな」
「そうだね、人と一緒に戦うのも、ましてや補助を中心とするのもかなり久しぶりだからね」
「それじゃ、装備見せてみろ。お前に合うように加工してやる」
倉庫から持ってきた装備と素材を一通り渡すと、バルフェルドさんは夕食を出してくれた。
彼は料理も得意で、昔はよく食べさせてもらっていた。
「おいひいれふはるへるほはん!(訳:美味しいですバルフェルドさん!)」
「ほらリリ、食べながら喋らない。バルフェルドさん、夕食までご馳走してもらって、なんてお礼を言えばいいか、、、」
「気にすんなって。こいつがガキの頃はほぼ毎日出してやってたんだからな。毎日勝てもしない相手と戦ってボロボロになって帰って来てたのに、子供の成長ってのは早いもんだな」
「もう、昔の話はよしてくださいよ。でも、相変わらずのおいしさですね。ありがとうございます。」
そんな他愛もない話をしている間に、みんな満腹になったようだ。
「今日は部屋も用意してある。三人分の装備となると三日くらいはかかるな。その間はオフだとでも思って英気を養うんだな」
ということで三日間は休むことになった。
寝室はしっかり一人ずつ割り当てられていて、広さも十分だった。少しくらいお金を払いたいと申し出たが、バルフェルドさんに突っぱねられてしまった。
休みの間に、装備以外の準備と、冒険者の心得を、二人に教えよう。
そう三日間の計画を立てて、僕は眠りについた。
「ーさん、クロムさん!起きてください!バルフェルドさんが朝ごはんできたって言ってますよ!」
「んぇ、もうそんな時間だったか、、、?」
、、、リリに叩き起こされた。しかも早い時間でもなく、僕が寝坊しただけだった。
なんか年上として悔しい。
「ガッハハハ、ガキに起こされるいい年したクロムか、なかなか傑作だな!」
バルフェルドさんには大笑いされてしまった。ここに来るとどうも安心して気が緩んでしまう。
気を取り直して冒険の準備をしなきゃな。三日間で準備をして、冒険をスムーズに始めたいところだ。
まずは魔法の鞄の購入だ。アイテムを見た目とは比べ物にならないくらいに収納することのできるアイテムだ。素材収集にも消費アイテムを携帯するのにも便利な一品で、冒険者で持っていない人はいないくらいだ。
まぁ、そんなことも二人は知らなかったみたいで。沢山の道具をそのままの大きさ、重さでずっと持ち歩いていたらしい、、、
他にもよく使う消費アイテムを買っておいた。僕がいないときのために僕のカバーできる範囲の物も持たせるようにした。いずれは僕なしでも立派に戦うようになってほしいしね。
次に戦力分析を行うことにした。僕のスキルは二人に共有してあるので話が通りやすい。はじめは嫌だったが、伝えておいてよかったかもしれない。
[バントレット 戦士 Lv18]
・固有スキル 未所持
・基礎スキル 剣術、防衛術
・継承スキル 未所持
[リリ 回復術師 Lv16]
・固有スキル 慈愛の心
・基礎スキル 障壁術、回復術
・継承スキル 未所持
バントレットは、主に剣を使った戦闘を行う。レベルの割に体力と防御力が高いため、前衛で戦闘を行うスタイルを目指すようだ。固有スキルに目覚めていないのと、剣術や体術もまだまだなので、可能性の塊だ。
リリは既に後方支援を得意としている。固有スキルは周囲の回復力を上昇させるというもの。初めて出会ったとき、傷の割に回復が早かったのはこのスキルのおかげだった。バントレットを支えたいという強い希望から、攻撃魔法は聖属性のみ教えることにした。
僕は二人の司令塔になり、二人の穴を埋めるように立ち回ることになった。パーティでの戦闘も久しぶりなので、うまく立ち回れるか正直自信がない。だが、僕のせいで二人が負けるなんてことはあってはいけない。気を引き締めていどむことにしよう。
戦術が決まったところで、二人には先頭の基礎を教えた。
「まず、相手との実力差がある程度分かるようになるんだ。でないとこの前みたいに強い相手に無謀な勝負を挑むことになる。勝てる戦いと勝てない戦いを見極めるんだ」
「後方支援役は前衛に守られているだけではだめだ。何かあった時のために自分の防御策も用意することが大事だ。それとむやみに飛び出さない。いくら前衛がピンチでも、後方支援を主軸にした人では基本は邪魔になる。前衛を支えて、前衛に負荷のかからない配置で戦うんだ。」
初めて戦っていた時の事を参考に、二人に指導をしていく。僕自身も二人にどう動くかを教えてもらい、動きのパターンをつくる。2人が素直気に聞いてくれるおかげで、戦闘でも安心しながら戦えそうだ。
そんなことを続けていたら、いつの間にか三日が経過していた。
「ほら、お前たちの装備が完成したぞ。最終調整するから早く装備しな」
そう言われ、僕たちは完成した装備を身に着ける
「これ、すごく体に合います!動きやすいうえに、前の物よりも丈夫です!」
「このローブ、すごく綺麗、、、ありがとう!バルフェルドさん!」
二人とも大喜びだ。僕の装備も、丈が合わせてあったり、細かい部分を調整してもらっている。
「素材はクロムが出してんだ。こいつにもお礼を言っときな」
「「ありがとうございます!」」
「いやいや、実際作ってくれたのはバルフェルドさんだし、僕は何もしてないよ」
「そんなこと言って、お礼されて嬉しいんだろ?素直にどういたしましてって言えよ?」
「だからそういうのやめてくださいって!」
二人ともすっかりバルフェルドさんに懐いている。若いうちは場になじむのが早いものなんだな、、、
「さぁ二人とも、そろそろ出発するぞ。今日やることが終わらなくなってしまう。それじゃあバルフェルドさん、久しぶりにお世話になりました」
「おう、用事がなくてもいつでも来いよ!」
そう別れを告げ、僕たちは町の近くのダンジョンへ向かった。比較的危険が少ない、初心者向けのダンジョンだ。しばらくはそこで二人を慣らそうと思う。
さて、序章も終わりを告げたようです。これから、クロム、バントレット、リリの初めての戦いが幕を開けます。これからの3人の動向も見ていただけると幸いです。
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