序章3ー管理者、ギルマスになるー
[バントレット 戦士]
そう書かれた文字が僕の目には映っていた。
「あの、僕の顔に何かついていますか?」
「いや、すまない、なんでもないよ。」
どうやら僕以外にはこの文字は見えていないようだ。
「明日のことは僕で考えておくよ。君は早く体を休めて、妹さんを安心させてあげなきゃ。」
「そうですね、それではお先に失礼します。今日は本当のありがとうございました。」
そう言うと、彼は眠りについた。
寝静まった彼を確認して、僕は彼頭上に浮かんだ文字をよく観察しようと集中して見つめた。
すると、先ほどの簡潔な情報とは比にならないほどの情報が描かれた文字が浮かび上がった。
僕の目には名前、職業、性別、種族など、様々な情報が映っている。僕は一つずつ確認してみることにした。
装備、今装着している武器の情報が書かれている。
ステータス、この情報の下に攻撃、体力、精神力などの情報が並んでいる。これは彼の戦闘力をジャンル別に数値化した物だろう。
レベル。これは何かわからない。18という数字が横に書かれているので、何らかの力を数値で表していることは分かった。
そしてスキル。これは恐らく僕たちが持っているスキルが書かれているのだろ。彼の場合は[剣術]のみだった。持っているスキルが増えれば、ここに映るようになるのだろう。
スキルを注視すると、そのスキルの内容も見ることができた。この能力の使い方がだんだん理解できてきたかもしれない。
そういえば、自分の能力も見えるのだろうか。僕は自分の右手を見つめてみた。
[クロム 剣士 Lv.99]
僕はその文字を注視する。すると、詳しい情報が僕の目に映った。やはりさっきの表示と形式は同じだ。
違うのは数値とスキルの数と種類だった。
戦闘の基本スキルから、モンスターから手に入れたスキル。
とんでもない数のスキルが並んでいて、正直自分でも引いてしまった。
「うわ、こんなに、、、普段使わないものも多くて全部把握できてなかったな」
これはかなり便利な能力だ。スキルの整理・理解がしやすくなる。
そして、ついに[管理者]の表示を見つけた。
僕は息をのみ、[管理者]と書かれている部分を注視した。
スキル 管理者
・自他のステータスが表示、閲覧できる
・スキルや固有の能力に関しては、詳細を閲覧できる
・スキルの吸収、奪取、複製、譲渡ができる。これにはスキル保持者のLvによりできるものとできない
ものがある。これを行う場合、スキル保持者の精神力(MP)を消費する。
・近接攻撃系統のスキルが封印され、使用不可となる
・このスキルは譲渡できない
・相手の権限がこちらより上の場合、名前以外を閲覧することはできない
つまり、自分と他人の戦闘能力が見えて、スキルを自由に移動させられて、その代償として近接攻撃が封じられた。ということだ。
そしてまた、権限というワードが出てきた。これに関しては、何の情報も得られていない。
試しに、権限の文字を注視してみたが、何も見えなかった。
分からない部分もまだあるが、[管理者]について、かなりの情報が手に入った。
「いろいろ分かったことだし、僕もそろそろ休むか」
そう思い、僕は宿に戻った。
翌日、病院に二人を迎えに行くと、二人とも出発する準備を終わらせていた。しかもすごく緊張しているようだった。
「二人とも、もう少し肩の力を抜いたらどう、、、?」
「い、いえ、命の恩人の前でだらしない姿なんて見せられません」
謎に恩を感じられてしまっている、どうにかしてもう少し柔らかい対応をしてもらいたいんだけどな、、、
「とりあえず、僕よりも街とか冒険者に詳しい人がいてね、そこを訪ねるつもりなんだけど、いいかな?」
「大丈夫です!」
「う、うん。それじゃあ僕についてきて」
、、、なんかやりずらいなぁ
そんなことを思いつつ、町の外れにある工房にやって来た。
「バルフェルドさん、いる?」
「おう、クロムじゃねぇか、久しいな。それに、人を連れてくるのはもっと久しいじゃねぇか」
「成り行きでしばらく一緒に行動するようになったんだ。バントレットとリリだよ」
「よ、よろしくお願いします」
バルフェルドさんは、僕が昔から利用してるこの工房の親方をしている。新米の頃から装備だけでなく、冒険に関するアドバイスもしてもらい、かなりお世話になった人だ。
バルフェルドさんに、今回の事情を話して、どうするべきかを相談した。
「初心者狩りに狙われやすい、か。お前が守ってやることはできないのか?」
「僕の事情を知ってて言わないでくださいよ?それに僕にも目的ができたので、そばに置いておくには危険なんです」
「そうはいっても、こっちでも流石に当てがなくてな」
バルフェルドさんでも、初心者狩りに会う冒険者を間接的に助ける方法は知らないみたいだった
しばらく二人で考えていると、バルフェルドさんが口を開いた。
「あのガキを守れるかは分からんが、抑止力程度にはなることなら思いつく。ただし、お前にも多少の負荷がかかることだ。それでも聞くか?」
「うん、聞かせてくれないかな」
「お前が、ギルドを設立して、マスターになるんだ」
「え?僕が?」
バルフェルドさんが言うには、僕はこの町でウルフとして名前が浸透している。そのウルフが作ったギルドに加入しているとなると、報復を恐れて手出しできなくなるのではないか。というものだった。
確かに僕はこの町でそこそこ有名になった。でも、そんなもので彼らを守れるのだろうか。
「確証はない。だが確率は下がると思うぞ。少なからずお前はこの町の冒険者から恐れられてるからな。それに、お前の人間恐怖症も、多少は和らぐかもしれないぞ」
「そ、それは別にー」
「治さなくていいと思ってるのか?心のどこかでまだ治したいって気持ち、あるんじゃないのか?」
「、、、分かった。やってみるよ。ギルマス。どこまでやれるか分からないけど、初めてみることにしたよ」
「よし、流石はウルフだ。いや、流石だな、クロム」
久しぶりにバルフェルドさんが僕を名前で呼んだ。何か大事な時以外、呼ばれるはなかったのに。
なんだか少しこそばゆく感じてしまった。
「さてクロム、そうとなったら二人にこのことを伝えてこい。準備とバックアップはこの俺と工房でやってやる」
「うん、ありがとうバルフェルドさん。二人に伝えてくるよ」
そう言って二人の元へ向かった。
二人は工房でいろんなアイテムを見ていた。ここには様々な武器やマジックアイテムが置いてある。
物珍しいのか、二人とも工房の品に見入っている。
「二人とも、少し話がある。これからのことだ」
「は、はい!」
少し残念そうな顔をしながらも素直にこちらに来る二人。帰りにでも何か買ってあげようか。
「僕は、ギルドを設立することにした。そこで、君たちにも加入してもらいたい。」
そう言って、バルフェルドさんとした話を伝えた。二人は多少の戸惑いを見せたが、最後には頷いてくれた。
「でも、ギルドって、パーティを組むものじゃないんですか?クロムさんは一人ですよね?どうするんですか?」
、、、痛いところを突かれた。どうこたえようかと迷っていると、後ろから声がした。
「しばらくの間、クロムはお前らの教育係になるんだ。いつまでも初心者狩りに負けてるようなへなちょこじゃあギルドにも負担ってもんだ。」
「バルフェルドさん、もう準備が整ったんですか?」
「あぁ、バッチリだ。あとは冒険者協会に行って手続きを済ませればギルドの設立完了だ」
「ありがとうございますっ!僕たち、早くクロムさんの負担にならないようになります!」
なんとも威勢のいい二人だ。さっそく冒険者協会に行って手続きを済ませよう。
僕は二人を連れて、冒険者協会に向かった。
境界につくと、周りがやはりざわついた。しかし今回は手続きが必要なので顔を隠すことはできない。
仕方ないがこのまま受付へ向かうしかない。受付につくと、すぐに声がかけられた。
「クロムさん、お疲れ様です。今日はどのようなご用件で?」
「ギルドの設立をしたくて来たんだ。手続きの用意を頼めるかな。それとついでに登録職業の変更もお願いしたい」
「はい、ギルド設立ですね、、、ってギルド!?」
受付嬢は裏返った声で叫んだ。周りも何事かとこちらを見ている。
そりゃ驚かれるよね、ずっとソロでやってきたんだからギルドなんて無縁のものだし。
「ちょっと事情があってね、ギルドが必要になったんだ。それで職業も変えておきたくてね」
「は、はい。一応の事情は把握しました、それでは手続きをしますので、奥の部屋へどうぞ」
奥の部屋で手続きを済ませて、ギルドを設立が完了した。ギルド名を考えていなかったのだが、受付嬢の提案で、[銀狼の牙]と名前を付けることにした。
ギルドメンバーは3人と少ないため、もう少し増やすように忠告されたのは少し痛いが、事前にバルフェルドさんに言われていたため、慌てることはなかった。
「それでは、今後の活動とメンバー集め、頑張ってくださいね」
冒険者協会から出る時にまでくぎを刺された。優しいのにしっかりしてる受付嬢だと改めて思う。
「さて、今日やることも終わったし、一度工房へ戻ろう。ギルマスとして、君たちの装備を整えなきゃだしね」
「え、新しい装備!?ありがとうございます!」
「私たちのためにそこまでしてもらって、大丈夫なんですか?」
喜ぶリリと心配するバントレット。リリはすっかり馴染んで素直になったが、バントレットはまだ少し力が入っている。というか遠慮しているようにも見える。
「まぁ、ギルドに入ってもらった以上は、君たちにも強くなってもらわないとだしね、将来のための投資だよ」
そんなことを適当に言って納得させる。装備を整えたら、メンバーを集めながら、二人の育成をしなきゃな。
そんなことを考えつつ、工房に戻った。
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