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第8話 本当の天然水


断崖絶壁というべき急傾斜の下まで降りてくることが出来た。


小さい子供の体は急斜面で細いパラコードを伝って降りるのが楽だった。


上から下の状態を観察していた時には、木や茂みの葉が邪魔をして見えなかったが、やはり小さな沢が水を伴って流れている音がする。


獣道を伝って沢の近くに移動してみるのが良さそうだが、幼女の姿では荷物を持って移動するのは厳しそうだ。


かなり密集した茂みの中に入ってきて、「ぷぷるん、変身を解いてくれ!」


一瞬で大人の体に戻り、服装も変身前の姿に戻っている。


薄汚れていた膝の泥はねとか、汗臭さが無くなって、洗たく仕立ての様だ。


そういえば、手の豆も無くなっている。


首の後ろにいるぷぷるんに話しかける。


「ぷぷるん、擦り傷とか手の豆が無くなっているのだが何で?」


「変身の際に肉体は纏っていた服ごと変換されます。

 そして情報が異世界に送られて再構成されるのですが、こちらに戻るときにまた同じような事が起きていて、その再構成プロセスのどちらかで、異物やエラーの排除が実施されていると思われます。」


「向こうの世界でも、おっさんの姿で出現しているってこと?」


「本来はあちらとこちらの世界間で互いに干渉出来ないのです、向こうの世界の状態を観察する事はできませんが、あちらの神様が齟齬(そご)の起きない様に処理されていると思います。」


「魔人はその干渉できないことを曲げて何かしているって事だな!

 それを神様同士で情報のやり取りをしながら事に対処してるって感じか!」


成るほど複雑な処理をしているようだが、原状復旧特性が働いていて傷治るなんて、これってうまく使えば無敵なんじゃないの?


どこまでの傷なら行けるとか、徐々に範囲を確かめていこう。


リュックに結んだパラコードを少し独立した木に結んで、目立つように的を取り付けておく。


崖上の的を目指して近くに来れば、この的が目につくと思う。


突然のイノシシとの出会いが怖いので、ラジオのスイッチを入れるが、電波の感度が悪い。


MP3プレーヤーも兼ねているので、適当な音楽を掛けると、懐かしいJ-POPがテンポよく流れてくる。


リュックを背負って足元を見れば獣道が何本か通っている。


恐らく頻繁に使われている道は水場に続いている気がするので、幅が広めで落ち葉の堆積が少ない道に足を踏み入れる。


獣道はそこを通る動物の肩幅ほどの横幅と、角を含めた高さ分は空間がある。


この道は高さが有るので鹿が通っているのだろう、所々頭を屈めなければ成らない場所もあるが、基本的には歩きやすい。


傾斜の急な所を避けて、地盤のしっかりした場所を通っているが、獣道は目的地がどこなのかが分らないのが不安だ。


イノシシも鹿も二本の爪跡が判で押したように交互に続く、粘土質の土の上でよく見ると後ろに少しだけ小さい蹴爪跡(けずめあと)が付くのがイノシシ、蹴爪跡がない二本だけなら鹿だで、この道はイノシシと鹿が両方使っている様子だ。


鹿の(ふん)が時々落ちている。直径1cm位の球状又は豆の様な粒で、濃い緑又は黒っぽい色をしている。表面が艶々な時は最近のお通じだ。


ガサゴソと茂みの先で音がしたと思ったら、ピーッと汽笛の様な音がして、数匹のシカが逃げて行くのが目に入った。


女性の悲鳴のような音で「ピーッキッ!」と直近で鳴かれると、ドキリとして心臓に良くない。


茂みの薄い傾斜地を登って行く鹿は、尻が白くてハート型に見える。


それらがぴょんぴょん跳ねながら遠ざかって行く。


ああいった大型の動物が数メートルまで接近していると少し恐ろしいが、基本的に野生動物は臆病なので向こうが先に逃げてくれる。



イノシシの中には、突撃してくる気の荒いやつもいる。


イノシシは猪突猛進なんて言葉から、突撃が主な武器だと思っている人も多いが、すれ違いざまの短い牙がとても危険だ。


10cmほどの牙は、剃刀の様に鋭く研ぎ澄まされていて、大人の体だと高さが丁度太ももあたりに当たって切り込みを入れてくる。


これが大腿部(だいたいぶ)の太い動脈を切断して致命傷に成ることが多い、山の中で大量出血してしまうと、近くに誰もいなければアウトだし、誰か居ても止血や搬送を適切に行わないと助からない。


日本でも毎年数名の命が失われている。


今は狩猟が目的ではないので、杖代わりに長い枝を持って周りの藪を盛大に突きながらガサガサ音を立てて歩いて行く。


音楽プレーヤーの音以外にも存在感アピールして進む。


森の中ではダニも怖い、噛まれると感染するウイルスがあるらしく、ダニには注意して長袖長ズボンで肌の露出を控えている。


下生えの草が少ない所に出ると、沢が流れていた。


大雨のときは川幅が広がって、土を流してしまうので、沢の両岸は草が少なく、石や岩がゴロゴロしている。


沢は水が流れていて透明度が高い、石や木の葉を退けると沢蟹が取れそうだ。


水深は深いところで10cmほどで、ひとまたぎで渡れてしまう幅だ、魚の姿はは見えない。


少し広めに水が流れている場所に空のペットボトルを差し込んで、水を入れて頭上にかざして透明度を見てみる。


どこぞの天然水と変わらないクリアーな感じだ。


だが、上流で鹿やイノシシが糞便をしているかも知れないし、沢蟹には寄生虫がいるので直接飲むのは控えたい。


寄生虫の旋毛虫に脳や内臓を食われたりC型肝炎に成るのも怖い、湯を沸かして加熱してから利用する目的で採取していく。


昔、天然水の湧水が岩の割れ目から流れている所が有って、観光客とか通り掛かった人が、ペットボトルや水筒に汲んでありがたがっていたが、その上流の沢では病気で死んだ鹿が腐っている状態を見たことがある。


あの腐汁エキスが湧き水に含まれていると思うと恐ろしい、山での飲食は慎重に行きたい。


森林限界線より上なら安心できそうだが、この辺は動物が多いので気を付けなければ成らない。


本当の天然水は寄生虫も細菌もウジャウジャなのだ!


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