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第31話 核の時代より


1950年代アメリカ軍の核兵器搭載システムは、有人戦略爆撃機こそが唯一確実な核兵器運搬方法で有ると考えられていた。


対するソビエトは、戦略爆撃機の開発に早々に見切りを付けるとロケットの開発に力を注ぎ、1957年スプートニック1号の打ち上げに成功する。


スプートニックショックである。


即座に対抗しようとしたアメリカはバンガード計画を実行するが惨憺たる結果で大失敗し、技術力の格差に愕然とする。ソビエトとのロケット技術に大きなギャップが発生している事にアメリカは恐怖した、いわゆるミサイル・ギャップである。


ソビエトは圧倒的な量のICBMを持っていて、ソビエトの先制攻撃で反撃の手もないままに一方的にやられる。そうしたアメリカの不安を後押しするように、ソビエトの指導者ニキータ・フルシチョフは挑発的な発言を繰り返す。


「世界中任意の場所に核爆弾を輸送し何時でも爆発させることができる」と。


アメリカは莫大な予算を投じてロケット開発に邁進する事と成る。

幾多の失敗巨額の資産を投入し、万が一成功しなかった場合の絶望的状況を打破するために実験を繰り返した。


初めに開発されたアトラスやタイタンⅠ型ICBMは、発射直前に液体燃料の液体酸素と液体水素を注入する必要が有り、この作業には数時間から数日を要する作業だったため、飛来する敵のICBMに対する反撃能力として致命的であった。


しかも、無線誘導によるコントロールは、核爆発下での通信障害による誘導に支障を来す恐れがあった。


そこで、革新的なICBMタイタンⅡが登場する。


タイタンⅡミサイルは、核攻撃に備えて強化された地下のミサイルサイロから直接発射されるように設計された。


ロケットエンジン用の燃料である四酸化二窒素とメチルヒドラジンの組み合わせは、いずれも常温常圧で液体である。このため長期間貯蔵可能で発射直前に燃料を補給する必要がなかった。


誘導システムは無線誘導を使わずカルーセルIV IMUとマジック352コンピュータによる独立した慣性誘導システムを採用していた。


これは、アメリカが敵の核先制攻撃を乗り切り、第2次攻撃で報復できるようにするためのものであった。


タイタンⅡは液体ロケットエンジンを搭載した2段式の機体と再突入機で構成されており、第1段目ステージⅠは加速、2段目ステージⅡは軌道保持である。大気圏内に核弾頭を運ぶ再突入機はMark-6であった。


W-53弾頭を搭載した3,690 kg のMark-6再突入体は、長さ約3.1 m、直径2.3 m で、ミサイルのインターフェイスのスペーサー上に搭載されていた。


タイタンⅡミサイル

長さ: 31.3 m

直径:3.05メートル

打ち上げ重量:149,700kg

エンドスピード:24,000km/h

到達範囲: 4000 - 15000 km

高度:約1200km.

精度/CEP: 誤差 1000 ー 1500m



第308戦略ミサイル航空団は、アーカンソー州リトルロック空軍基地の戦略空軍司令部に所属していて、その指揮下に2つの戦略ミサイル飛行隊が有った。


第373戦略ミサイル飛行隊および、第374戦略ミサイル飛行隊はそれぞれ9基の戦略ミサイルサイト発射施設を管理していた。


アーカンソー州リトルロック空軍基地を中心とする半径100km圏内に、ランダムに18基のタイタンⅡミサイルが配備されていた。


タイタンⅡロケット発射基地複合施設は、ICBMを格納するサイロ本体(深さ約46m、直径約15m。)と、地下深くの3階建ての堅牢な防爆構造のドーム施設とそれを繋ぐ連絡通路からなる。


3階建ての地下ドームは地下3階が発電機や排水機器などの機械室、2階が通信機器や発射オペレーションのための管制室、最上階がクルーのための居住区に割り当てられており、常時士官2名と下士官2名からなる4名のミサイル戦闘員が24時間警戒に当たっていた。




1980年9月19日、アーカンソー州ダマスカス近郊374-7核ミサイルサイロは、猛烈な振動を受けバリバリと大地を引き裂く様な轟音に包まれていた。


ミサイル戦闘クルー司令官リチャードソン中尉は、ミサイル施設技術者のスミス軍曹と当直任務についていたが、あまりの振動で飲んでいたコーヒーのカップを落としてしまうほどの揺れだった。


この辺りは地殻が安定していて地震などありえない場所であった。



一瞬停電が発生し、照明が瞬いたが発電機とバックアップシステムが活動して電源が保たれている。


居住区に居た2名の隊員も急いでコントロールルームに降りてきて、無駄口を叩くことなくそれぞれが決められた配置に付いた。


4人のメンバーは、コンソールに示される状況をチェックリストに沿って、黙々と自分の担当区分を確認していく。


深い沈黙の中、中尉は今朝交代前のブリーフィングの事を思い出していた。


ワルシャワ条約機構の第五打撃軍第11戦車軍団がオーデル川を越えて集結中であり、第9狙撃軍団が国境線付近に移動中であるとの情報からNATO軍が警戒態勢に入っている。


アメリカ欧州派遣軍のバーナード・ロジャート大将は危険な挑発を止めるようにソ連に対して警告した。


在アメリカソ連大使は、直ちに声明を発表し、危険な行為を行っているのは、アメリカ側だと非難した。


世界はずっと前から核戦争直前の緊張の中に有った。


中尉は心の中でこう呟いていた。


「なんで・・よりによって俺の当直の時に始めやがった!」





核兵器運用の通信システムは、超低周波(VLF)と低周波(LF)回線を利用し、核爆発による電波の劣化を最小限に抑えられるもので、戦略空軍司令本部やカリフォルニアのバックアップからサイロに発射コードが送られる。


その信号は、35文字の暗号を音声で伝えるものであった。


緊張を破るように突然スピーカから通信システムの音声コードが流れ始める。


「ノーベンバー・チャーリー・フォクスロッド・タンゴー・ウイスキー・デルター・ズールー・ロメオ・・・・・・・・」。


4人全員が聞き耳を立て、各人が即座に暗号コードをノートに記録し始める。


音声コードを伝えてきたスピーカは35文字のコードだけを伝え終わると、それ以上の音を発することは無かった。


士官二名は互いの記録を比較確認し、念のため4人全員が同じコードで有ることを確認した。


リチャードソン中尉とブラウン少尉の二人のオペレーター士官は、やけに目立つ場所に置かれている真っ赤に塗られた金庫に歩み寄る。


この赤金庫には、ダイヤルキーが2個付いていて、オペレター士官はそれぞれ片方の番号しか知らされていない。


二人は赤金庫に歩み寄り、それぞれに知らされているダイヤルロックの番号を合わせて解錠し素早く赤金庫を開けた。


赤金庫の中には、2つの文字が書かれた紙の封筒が何枚も入っていた。


先ほどの35文字のコードには7桁のサブコードが埋め込まれていて、サブコードの初めの2桁が、どの封筒を開けるかの指示に成っている。


該当する封筒を素早く探し出し開封すると、中にはプラスチックのカードが入っている。


これを少し力を入れて中ほどの切込みで割ると、パキリ!とプラスチックが切断され中から赤い紙が出てくる。


これを開くと5桁の数字が書かれており、この数字がサブコードの残りの5桁と一致する。


リチャードソン中尉は、落ち着いた声で全員に話しかける。


「これは訓練ではない。」


そう言って、中尉と少尉はそれぞれのオペレーションデスクに戻り、赤い紙に書かれていた6桁の暗号を入力すると、コンソールの表示は、ミサイルロックからミサイルロック解除に切り替わった。


残りのコードから解読した発射時刻は即時発射と成っている事から、中尉と少尉は胸元から発射キーを取り出し、コントロールパネルに挿しこんで、お互いの顔をみて中尉がやけにゆっくりとカウントダウンを始めた。


「3,2,1,GO!」


二人は同時にキーを捻りその状態をしばらく保持した。




発射キーは2秒以内に2つのキーを捻って、5秒以上保持しなければ発射シーケンスは起動しない、一人では発射キー間の距離が有って操作出来ない様に作られていた。


ここまでの段階に至るとミサイルは自動で発射シーケンスを進めて行く、すでに人間の出番はない。


リチャードソン中尉は放心したようにコマンド席に座ると、コンソールの表示が変わって行くのをジッと眺めている、誰も口を開く者はいない。


屋外では重さ780tのサイロの閉鎖扉が20秒かけて開放されていく、開放した扉が発射圧で動くことが無いように油圧シリンダーで固定される。


発射中のミサイルの音の抑制と保護のために毎分34000Lの減衰水と、火炎偏向器から水の噴出が始まる。


コントロールセンターの送風機が停止し、誘導開始ランプが点灯して、スラストマウントがロックする。


エンジン点火ランプが点灯し、第1段エンジン始動カートリッジが点火してターボポンプが回転し、エンジンは急速に全推力になる。


2本の排気ダクトを通った、ミサイルの排気と火炎偏向器からの吸入空気は、カスケードベーンを通して地表に巨大な火炎を噴出させると、圧力センサーがリフトオフに十分な推力に成った事を検出し、ミサイル固定用の爆発ボルトが点火して、ミサイルは目標に向かってゆっくりと離床していく、排気ダクトの地上噴射口からは、猛烈な煙と炎が斜め上に噴き上がり、巨大なV字型の炎と煙の壁を形成している。



その谷の中央から頭を出したミサイルは、煙と炎に包まれて、31.3mのミサイル全体が地表を離れるまで、たっぷり5秒は掛かる様なゆっくりとしたスピードで真っすぐに上昇していく。


コンソールのリフトオフランプが点灯し、全てのシーケンスが終了した。


キーターンからリフトオフまで58秒を要したのだった。




モスクワ南方のチェーホフ/シャラポボ地区にあるソ連の大深度地下シェルター、ソ連軍参謀本部の戦時司令部を目標としていたこのミサイルは、地表を貫通して爆発エネルギーの多くを地中に送り込むための、初期のバンカーバスター兵器として、表面爆風で地中に衝撃波を伝え、目標を崩壊させることを意図していた。


当時精密誘導のシステムが存在しない時代に有って、ピーポイントで最小限の被害に止めて目的を達成すると云った考えは一切無く、数km単位で的から外れても目的を達成するための巨大高威力化の最終到達点の兵器であった。


この日召喚されたタイタンⅡ大陸間弾道ミサイル発射基地374-7は、魔王城の西南西約9000kmの位置にある名もない島の平地部分に忽然と現れ、ICBM発射直後に現れた時と同じように忽然と姿を消した。


ICBM発射時に発生する大規模な火炎と轟音は、周囲数十キロメートルの範囲で観測できるほどで、真直ぐに直上方向に立ち上がる白い煙がいつまでも天に向かっていたが、それを見ていたのは野生動物だけだった。





1980年9月19日、アーカンソー州のタイタンⅡサイロでICBMの燃料漏れが発生し、タイタンⅡが爆発したと空軍よりの発表があった。


W-53核弾頭が少し離れた場所に投げ出されたが、この兵器には安全対策が組み込まれていたため、起爆や放射性物質の放出はなかったとのことだった。


この事故により4人が死亡し、2人が負傷したと発表された。



地元紙による報道では1980年9月19日、大型ソケットレンチのソケットがプラットフォームから転がり落ちて落下し、ミサイルの下段燃料タンクに穴を開け、燃料漏れを引き起こし、大爆発が発生した。

ハイパーゴリック推進剤を使用していたため、数時間後にミサイル全体が爆発し、空軍の士官であるリチャードソンら4人が死亡し、アーカンソー州ダマスカス付近のミサイルサイロ、374-7が破壊され、閉鎖される見込みと後日新聞に報じられた。





タイタンⅡミサイルは発射から28分後、エンジンが四酸化二窒素とメチルヒドラジン燃料を使い終わり、1段目の切り離しが終わると、2段目エンジンに無事点火した。


独立慣性誘導システムは2段目エンジンのコントロールで方向を修正しながら最高高度1200kmに到達すると、Mark-6再突入体を分離した。


W-53の核弾頭9メガトンの威力は、米国の歴史上ICBMに実戦配備された核弾頭としては最高威力の核出力であった。


W-53弾頭を搭載した3,690 kg のMark-6再突入体は、惑星の重力に引かれて自由落下を開始し、大気圏突入時の摩擦に耐えきるとマッハ23の高速で、目標の魔王城に向かって一直線に落下していくのだった。


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