第19話 現世利益?
「私は・・・いっそ死んでしまいたい!」
ぼろぼろと彼女の頬を伝って涙が落ちる。
彼女の心はとてつもなく傷ついてしまったのだろう、想像も付かないような恐ろしく悲惨な目に合ってしまったのだ、こんな酷いことする奴らを絶対に許しては置けない!
「そんな悲しい事を言わないで下さい!
なんのためにあなたを救出したのか、だったら僕の為に生きてください!
僕があなたを全力で守ります!」
あっ!なんか勢いで変なこと言ってしまった。
彼女も涙の溜まった目のまましばし固まり、その後微笑んで、
「ありがとう、でも何も返せるものが無い・・」
消え入るように発した言葉の途中から割り込んで、
「だったら、だったら、まずはしっかり休養して、
回復したら、ご飯作ってください!
その・・・、君の味噌汁が飲みたいです。」
「・・・・はい!」
といって彼女は微笑んだ。
まるで昭和のプロポーズみたいに成ってしまったが、20歳の彼女は何のことか分るまい。
「十分に休んで体力の回復が最優先です!
安全そうな病院も探さなければなりません。」
なんだかここに居て顔を合わせているのが無性に恥ずかしい。
まずはレンタカーを使って当面必要な物を買いに行かねば成らない。
そして、当面の生活のために資金を調達する必要がある。
何年も寝かせてある戸棚の中の通帳と印鑑を探し当てて、冷蔵庫の中身も確認する。
「これから買い物に行ってきます。
当面必要な物を買って来ようと思います。」
玄関先で靴を履きながら、彼女を振り返って、
「絶対に外に出ないで下さいね、すぐに帰ってきますから。」
彼女は寂しそうにしながらも、「はい」と言った。
何だか引きとめられているような悲しげな雰囲気だが、
扉をゆっくりと開けて周囲を伺ってから注意深く外に出て、そっと振り返って声を掛ける。
「では、行ってきます。」
「いってらっしゃい、気を付けて・・・」
彼女の声も小さくなっている、扉をゆっくりと閉めて鍵を掛ける。
まずは銀行からだ!通帳と印鑑と免許証が有れば何とかなるはず。
10年近く記帳していないが、残高の印字は9年前の50万円が印字されている!
当面の資金としては心もとないが、これで何とかするしかない。
この銀行の支店横の駐車場に車を止めて、銀行に入ると警備員と女性の案内係がいらっしゃいませと声をかけて来るが、自分はATMの列に並んで通帳記帳を行う事にした。
ATMの列の最後尾に立って順番が来たら通帳を入れて、何となく覚えているパスワードを入力すると、
印字が始まって暫くジリジリと印字が進む。
過去の数年分は記録なしで印字されないはずだがやけに長い、
ようやく完了して通帳の残高を見てうろたえる。
後ろの人間に場所を譲り、もう一度通帳の残高を確認してみるが未記帳分合算と書かれた所に、間違い無く0が8個ある。
何度も通帳を見ている行動が不振だったのか、銀行の総合受付にいるベテランそうな女性行員が声を掛けてくる。
「お客様、いかがなさいましたか?」
「印字間違いかもしれないので確認してもらえますか?」
通帳を差し出して中身を確認してもらうように印字部分を開いて女性行員に差し出すと、それを一瞥した女性行員は、笑顔で「こちらへどうぞ」と一番奥の投資信託相談カウンターに誘導した。
「こちらにお掛けに成ってお待ちください」
と言って出て行った。
半個室に成った一角で木目調の落ち着いた雰囲気の衝立で囲われている、投資信託や定期預金、住宅ローンや海外投資のパンフレットが並ぶ特別な空間だ。
革張りでひじ掛けのある少しリッチな椅子に落ち着きなく座っていると、カウンターの向こう側に背広姿の銀行員が現れて丁寧に話しかけた。
「通帳を拝見させてい頂いてもよろしいでしょうか?」
通帳を渡たすと、行員は手元の端末を叩いてから、何かを印字された紙をこちらに差し出した。
未記帳分の明細を印字してくれたようで、9年前と7年前と5年前に纏まった金額が入ってきて、翌年所得税がゴッソリ抜かれる状態が繰り返されている。
入金先は「カミサマキンユウ」と成っている。
これはぷぷるん案件だな!
その後、投資信託や定期預金の説明が始まったが、今日は急ぎの用事があるので後日と言って、現金を50万円降ろして退散した。
近くのユニク□に立ち寄って、彼女に似合いそうな物を適当に購入した。
セルフレジなので、女性ものでも何でも一緒くたにカゴごと精算だから、あまり周囲を気にせず買い物が出来て助かる。
とりあえず似合いそうな服でサイズはMぽいのを、マネキンや飾ってあるポスターを参考にガシガシ購入し、肌着は勢いで構わず入れていく。
ドラッグストアーで傷や痣などの薬と、シップの類とシャンプーリンス、歯磨きセットを購入し、ビタミン剤や栄養関係のサプリも買い込む。
食糧は、米、味噌、醤油に野菜肉魚果物、缶詰、レトルト、パスタに麺類と冷凍食品を適当に買って一旦アパートに戻る事にした。
アパートの扉をノックして、「伊藤です、伊藤琢磨です、只今帰りました!」
と声を掛けてから玄関を開けると。
「お帰りなさい。」
やはり、帰った時に誰かが笑顔で出迎えてくれるのは何だかうれしい。
「適当に買ってきたので使ってください」
彼女にユニク□の買い物袋を渡すと、その量に驚いていたが全てが女性ものだと分かるとさらに驚いていた。
「サイズや好みが分からなかったもので・・・適当に選んできました。」
頭をかいて笑ってごまかす。
「ありがとうございます」と答える彼女と一緒に冷蔵庫に食材を詰めていく。
「何か必要なもの在りますか?」
と聞くと今は無いと、首を振るので、
「レンタカー戻してきます。」
と言って玄関を出る。
レンタカーを返却する前に、ガソリンスタンドに寄って給油だ、レンタカーは基本ガソリン満タン返却だ。
セルフのガソリンスタンドに入って給油しながら車の周囲を見ていると、山道の落ち葉や泥跳ねが目立つ様な気がしてきた。
ガソリンスタンド併設のコイン洗車に入れて山の汚れも取っておく方がよさそうな気がするし、水気をふき取りながら傷の有無も確認しておくべきだろう。
レンタカーの営業所に持ち込んで、車の確認とガソリン満タンでの返却が済んで営業所を後にする。
結構大きな出費だったが、今は気にしないで家さっさとに帰る。
道すがら町の個人経営の小さな洋菓子屋さんが目に入る、時々家族連れやカップルが利用するケーキ屋さんでショーケースには多種多様なケーキ類が並んでいる。
これまでこの手の店に一切の関係を持たなかった伊藤琢磨だったが、意を決してケーキ屋の門をくぐるのだった。
ショーケースに並ぶケーキの種類は多種多様で種類のあまりの多さに選ぶことが出来ないでいると、ショーケースの向こうから店員のおばさんに話しかけられる。
「何かの記念ですか?」
突然話しかけられて動揺してしまったが、そのお陰でこれを持って帰る彼女は歯も前歯が無くてこれまでケーキ類も食べられない環境に置かれていた事を思い出した。
シンプルなイチゴのショートケーキを2個選んで、箱に入れてもらい家路につく。




