人間の小説、なお売れる【1000文字未満】
オレの子供の頃、創作は人間の特権だった。今はAIが作る時代だ。純文学なんぞに興味のないオレはただひたすらAIについて勉強し、こいつに小説を書かせて稼がせてもらっている。
今日は小説家の友人と会う予定だ。自動運転の車が行き交う街を行き、野暮な恰好でカフェに入る。手作りが売りの店。接客用のロボットに通され座る。大昔、こういうロボットは人型だと想像されていたものだ。だが、たった今キッチンに入ったあれはタイヤと円筒、かわいいボイスに猫みたいな柄。人型とは意外にも不合理なのかも。
友人が来た。オレと同じようにカフェでは少し恰好が悪い姿。
「やぁ、売れているかい?」と、友人。
「ボチボチね」
二人でコーヒーを飲みつつ、作家らしくない金の話で語り合う。
「キミのAI小説、どうだい? その界隈はレッドオーシャンだと聞くよ」
「オレのは売れている。どいつもこいつもAIを使えば文豪と同等の文章になるからな。使わない手がない。なのに、お前はどうして自分の手で書くんだ」
そう、オレの友人は未だに自分の手で文章を書いている。キーボードに向き合って、AIが数秒で書きだすものを1日かけて作り出していく。資本主義にふさわしくない手作りの理由を彼は教えてくれないのだ。正直、時代遅れと見下していた頃がオレにはあった。
「フム、キミもAIの勉強を終え、作品もそれなりに売れている。おかげで前みたいにカリカリせず余裕がある。教えても問題ないだろう」
「なんだ、前は教えられなかったのか」
「冷や水は浴びせたかったからね」
コーヒーをおかわり。ついでにサンドイッチも頼む。
「知っているかい」コーヒーをひと口飲んだ友人が語りだす。「このサンドイッチは人間の手で作られている。パンもレタスもハムもバターも全部工場から送られてきたものだが、最後はキッチンで人間が挟む。だから、人が作っていると言われる」
「なんだ、哲学か?」
「手作りというだけで、人の手が入っているというだけで魅力を感じる人がいるのさ。だから、ボクも同じ看板を掲げている」
ため息。これは確かに冷や水だ。こんな話を聞くと、オレがわざわざAIを勉強した意味がない。
「オレも自分の手で書くべきだったかな」
「いや、AIを使ったほうがいい。実は、ボクもAIで書いているからね」