ため息。
ある日、私が修道院に行こうと自室を出たら、廊下で妹のエリーが専属侍女と共に立っていた。
「あら、エリー。どうしたの?」
「リリーお姉さま、今日はどちらへ行くの?」
「以前話したことがあるでしょう? ドネリー町にあるモットレイ修道院よ」
そう答えるとエリーは涙目になって私を見上げる。
「……たくさん子供がいるのですよね」
「そうよ、可愛い子ばかりよ」
「私よりも?」
「エリー?」
振り絞るようなエリーの声に私は慌てて駆け寄る。
「何を言っているの? エリーは世界で一番可愛いわよ」
「でも、全然一緒にいてくれないわ」
「それは……」
確かに魔物討伐やモットレイ修道院のことばかりにかまけていて、エリーと過ごす時間は減っていた。
「あ、ごめんなさい、私わがままを……」
エリーは本音を隠すようにグッと口元を引き締めた。
声を我慢した分、涙がポロポロ溢れていく。
私はたまらずエリーを抱きしめた。
「さみしい思いをさせてしまったのね。ごめんなさい、エリー」
私たちはエリーが生まれてからずっと、主に私の個人的願望により共に過ごすことが多い。
だけど最近は確かにモットレイ修道院にばかり気がいっていた。
「エリー、よく聞いて。私はあなたより大切なものはないわ」
「リリーお姉さま」
「だけど、領内に飢えて痩せている子がいるのも辛いの。私にできることはしてあげたいわ」
「はい……」
「誰かに指示を出して任せてしまうのが正解かもしれない。けれど毎日ちゃんと食べてるか確認したくて」
腕の中でエリーが「お姉さまはやさしすぎます」とつぶやく。
「リリーお姉さま、私も連れて行ってください」
「エリー、あなた午後のお勉強は?」
「もう終わらせました。お母さまから外出の許可もいただいています!」
よく見ると私と同じような、少し地味な外出着になっている。
エリーはあまりわがままを言わない子だ。けれど今は絶対私についていくという意思が見えた。
「……しょうがないわね。じゃあ、一緒にいきましょうか」
「わぁ! ありがとう、リリーお姉さま!」
頬をバラ色に染め、喜ぶエリーに私の表情もゆるむ。
アンナに先導されて馬車に乗る後ろ姿は弾むような足取りだ。
エリーを守るっていう気持ちが先走って、さみしい思いをさせていたのかもしれない。
「それは本末転倒ね、反省しなくちゃ」
「……ふぅ」
漏れ出た独り言にデイビッドのため息が重なる。
「なぁに? デイビッド」
「いえ、失礼しました」
振り返ると感情を一切表さない貴族の顔をしたデイビッドがいる。
「何か言いたいことがあるの?」
「何もありません。さぁ、遅れたら子供達がさみしがりますよ」
「リリーお姉さま! 早く!」
玄関ホールで待っていたエリーが私の手を取り、しがみついてくる。
「もう、エリーったら。はしゃいじゃって」
「だってリリーお姉さまとお出かけなんですもの」
こんなに喜んでくれるならもっとたくさん一緒にお出かけしたいな。
そう考えた私の背後でまたデイビッドの小さなため息が聞こえた。




