ドネリー町で買い出し。
「食料を買いに行ってきます。戻ったら厨房を貸してください。みんなに栄養満点のスープを作ってあげたいの」
「ホールズワースさまが料理をなさるんですか?」
「そう、得意なの」
貴族子女は厨房に近づかず……なんて言う人もいるが、私はそんなの気にせずガンガン料理をしている。
「それと……そうね。荷物持ちにティナもついてきて」
「わ、私ですか?」
「えぇ。私はドネリー町に詳しくないから案内してほしいの」
小首を傾げてお願いと言えば、ティナははにかんで頷いた。
デイビッドとアンナ、それにティナと一緒に、ドネリー町の八百屋や肉屋を周る。
子供五人とシスター二人の分を、今日の夕食と明日の昼までとして……結構な量だ。
町の雰囲気を知りたいからと馬車ではなく歩きで来たのは失敗だったかもしれない。
「リリーさま、重い物は私に」
「これくらい平気よ。日頃から私が鍛えているのを知っているでしょう、デイビッド」
「しかし……」
じゃがいもって腕にずっしりくるわよねぇ。
でもデイビッドにはキャベツと玉ねぎとニンジンを持ってもらってるし、アンナには小麦粉などをお願いしている。
「ホールズワースさま、私も持ちます!」
「ありがとう、ティナ。じゃあティナはお肉を持ってくれる?」
「は、はいっ」
健気に言ってくれるティナにお肉の包みを渡す。
細くて折れそうなヒロインちゃんに重い物を持たせるのも心苦しい。
私は内心ふぅふぅ言ってるのを淑女教育のたまものの笑顔で隠した。
ティナは私と目が合うと安心したように微笑む。
マンガのストーリー通りならば、魔物に襲われていた時、ティナは主人公ロックに助けられる。
自分のせいでけがをしたロックを助けたくて覚醒し、治癒魔法が使えるようになる。
そしてロックに頼まれ、一緒に旅をする。そんな流れだった。
今世で得た知識によると、体力と魔力は相関関係にある。
栄養状態の悪い今なら魔力を作り出すこともできないだろう。
魔物に襲われても逃げる体力すらなさそうだ。早く栄養を摂ってもらわなくちゃ。
今後のことを考えてこぶしを握ると、アンナのお腹がくぅと鳴った。
「あ、失礼しました」
「お腹が空いたの? 食いしん坊アンナ」
アンナは食べることが大好きだ。
私より四歳年上の二十歳だが、照れくさそうにしている姿は少女めいてかわいい。
「屋台からいい匂いがしているので……つい」
「確かにおいしそうな匂いね」
町の端々に出ている小さな屋台はそれぞれ自慢の料理や菓子を食べやすい大きさにして売っている。
「みんなのおやつに何か買っていきましょうか。ティナ、何がいい?」
「え、え……と」
ティナは屋台を見回し、決めかねておろおろしている。
私の方をちらちらうかがう目には遠慮の色が見てとれた。
「リリーお嬢さま、甘〜いお菓子はいかがでしょう?」
「いいわね。ではアンナとティナで選んできて」
「かしこまりました」
戸惑うティナを引き連れてアンナが屋台へと向かう。
私とデイビッドはその背中を笑いながら見送った。
「アンナに任せたら、たっぷり買い込んできますよ」
「それでいいのよ。私もだけど、アンナも子供たちにお腹いっぱい食べさせたいんだわ」
「そうですね、アンナのことだから今日だけじゃなく日持ちするお菓子も買ってきそうです」
デイビッドはそう言いつつ、さりげなく私の周囲に気を配っている。
「デイビッド、こんなのどかな町なんだから、そんなに警戒しなくてもいいんじゃない?」
「リリーさまをお守りするのが仕事なので」
デイビッドはそう言うと不敵に笑む。
「そんな悪だくみしてそうな笑顔、子供たちの前ではしないでね」
「もちろんです。普段はなるべく紳士の皮をかぶってますから」
「たまに漏れでてるわよ」
「リリーさまの前だけです」
「誰もいない時は呼び捨てでいいわよ、ウェイン隊長」
「そうやって呼ぶのは魔物退治に出ている時だけにしてくれよ、リリ」
デイビッドと私は二年ほど前、魔物討伐中に知り合った。
去年から私の侍従兼護衛として我が家で働いてくれているが、ギルドに冒険者登録をしているので、依頼があれば魔物退治にも行く。
私も一緒に行動することもあり、その時はデイビッドの部下として振る舞う。
そんな気安さで軽口を叩いていると、満足そうな笑顔のアンナと、戸惑いつつもうれしそうなティナが戻ってきた。
案の定、二人の手には屋台で売られていた揚げ菓子や飴がたくさん入った袋がある。
「やっぱりな」
「ね」
私とデイビッドは目を合わせて噴き出した。