出発。
そんな決意を胸に魔物を減らす日々はそれなりに忙しい。
起床後は剣と魔法の修行をし、学園に通い、放課後は自宅でマナーのレッスンを受ける。
学園が休みの日は朝から魔物討伐をしているが、今日の行き先はいつもと違う。
「アンナ。デイビッドはまだかしら」
「もう間もなく……、あぁ来ましたわ」
アンナの声にノック音が重なり。低い声が聞こえる。
「リリーさま、馬車の用意ができました」
「では行きましょう」
部屋を出ると私の侍従兼護衛のデイビッドが黒いスーツに身を包み恭しく私を待っていた。
「リリーさま、お供します」
「ありがとう、デイビッド。今日もよろしくね」
はい、と頷きかけたデイビッドの視線が横へ向けられる。
釣られて振り向くと、妹のエリーが自分の部屋から顔を出していた。
生まれた時からかわいかったエリーは十一歳になっても、もちろんかわいい。
ふくふくのほっぺと、形の良いまゆげに長いまつげ。芸術作品のように完璧な配列の目鼻立ち。
ゆるいウエーブがかかった白金の髪と赤紫の瞳は、くもりのない宝石みたいに美しい。
「まぁ、エリー。どうしたの?」
「リリーお姉さま。お出掛けですか?」
「えぇ、ちょっと」
頷くとエリーは私に駆け寄ってくる。私の元まで数歩もないのに足をもつれさせて転びかけた。
「きゃ!」
「危ないわ、エリー」
「ありがとう、リリーお姉さま」
手を伸ばして受けとめると、腕の中ではにかんだ笑顔を浮かべる。けれどすぐに憂い顔に変わった。
「いつも迷惑かけてごめんなさい」
「いいのよ」
エリーはこう言っては何だがちょっとどんくさい。
注意力や体力が無い訳ではないが、素早く動くのが苦手で、咄嗟の場合に反応が遅れてしまう。
私からするとそんなところもかわいいのだが、本人はかなり気にしている。
「リリーお姉さま、私も一緒に行きたいです」
「ごめんね、今日はお買い物じゃなくて、お仕事なの」
魔物討伐服を着用していない私を見て、街へ買い物に行くのだと思ったらしいエリーにそう答えると、彼女はしょんぼりと肩を落とした。
「また今度ね。いってきます」
「はい……。いってらっしゃいませ」
ぎゅっと抱きしめて頭を撫でると、エリーは同じようにハグを返してくれた。もうそれだけで愛しさに胸が熱くなる。
名残惜しくもエリーと別れ、私は出発した。
行き先は我が侯爵領と隣の伯爵領の間にあるモットレイ修道院。
デイビッドに調べてもらった情報によると、ここにティナがいる。
「さぁ、いよいよヒロインとのご対面よ」
ポツリと零した独り言は馬車の走行音にかき消された。




