そして。
それから……私たちはお父さまたちに報告し、婚約をした。
隣国にあるデイビッドの実家の方には手紙で知らせて、戻ってきたら改めて二人で挨拶に行くつもりだ。
その後、デイビッドは魔物討伐へ出発した。
どこへ行くにも私に付き添ってくれていたデイビッドがいないと、さみしい。
ついぼんやりしたり、無意識にデイビッドの姿を探したり、名を呼んでしまったり……。
朝の鍛錬はワットたちと一緒に続けている。
最近そこにエリーやティナが参加するようになった。
「戦えなくても魔物から逃げられる体力をつけなくちゃ」
あの森でのことは二人にかなり影響を与えたようだ。
ワットに一から教えてもらい、走る訓練をしている。
エリーもティナも大きくなってきて、もう私とほとんど変わらない。
ティナはホールズワース家の養子となり、貴族教育のかたわら私の魔物討伐に付き添ってくれる。
デイビッドが言っていた通り、ティナと私は相性が良く補い合って戦えていた。
でも……主人公ロックの旅に付き添わなくていいのかなぁ。
魔物を斬る際に折れた枝に引っかかって切れた私の頬に治癒魔法をかけるティナを見ながら、ため息をつく。
「リリーさま、どうかされましたか? 痛みますか?」
「平気よ、ありがとう」
「何か難しい顔をしていますが……」
不調があれば全部治すつもりらしい強い瞳で私をのぞき込むティナの髪をそっと撫でる。
「ティナの治癒魔法を私の傷くらいで使っていいのかしらと考えていたの」
「え? ご迷惑でしたか?」
私の言葉を聞き、青ざめ、間髪入れず涙を浮かべたティナに慌てる。
「ちがうのよ、治してくれるのはうれしいし、助かっているわ。だけど、治癒魔法を必要としている人は他にもたくさんいるし……」
「……旦那さまにもそう言われました」
「お父さまにも?」
「はい。ケガや病に苦しむ人にその力を分け与えてくれないかと」
ティナは生真面目な顔で続ける。
「もちろん私を必要としてくれているなら喜んで駆けつけたいです。けれどそのためにはもっと魔法の使い方を学ぶ必要があるみたいです」
「そうなの?」
私が毒にやられた時も、エリーが鍛錬で筋肉痛になったり、風邪をひいて発熱したりした時に苦もなく治してくれていた。
だから学ばなくてもいいのかと思っていたのだが……。
首を傾げるとティナは恥ずかしそうに苦笑いをした。
「どうやら私はリリーさまたちなら簡単に治せるみたいです」
「私たちなら?」
「この前、紹介された魔法の先生の見立てだと、ホールズワース家の人たちと魔力の相性が良いから、魔法がすんなり通るらしく……。だけど相性の合わない人だと魔法の効き目が弱くて」
要は魔法の発動に波があるということだ。
「その点を克服しないと治癒魔法師として働けないようなのです」
「そうなのね……」
マンガでは誰でも気軽にほいほい治していたのに……現実はこうなるのか。
ティナはお父さまと話し合い、治癒魔法師を目指して勉強を始めたところだそうだ。
「独り立ちするまで、お世話になります」
ティナはぺこりと頭を下げた。私は慌ててその頭を上げさせる。
「ティナはもう私の妹よ。そんな風に気を使わなくていいの」
「でも……」
「ホールズワースはあなたの家よ。私たちは家族。何をしてもどこにいてもそれを忘れないでね」
「……はいっ」
ティナは泣き笑いしながら私の胸に飛び込んできた。




