決意をした日。
十一年前、妹のエリーが生まれた時に私は前世を思い出した。
前世では平凡な女子大生で両親と弟、それに友達がいて、明日に不安のない日本でのんびり暮らしていたと思う。
中学生の弟が大のまんが好きで、少年漫画雑誌を毎週購読していた。
私も貸してもらって読んでいたが、掲載されていたまんがに出てきたキャラクターの一人がエリー・ホールズワース。
今世の妹と同じ名前だ。
魔物の増えた世界。田舎町に住む少年ロックが人々を守るために戦い、やがて魔王と呼ばれる存在を倒し、世界に平和が訪れるというストーリー。
冒険、仲間、戦いと絆。成長する少年ロックとヒロインのティナ。
その周囲で少年に懸想し、結果当て馬にされるライバル令嬢エリー。
(え、うそ、待って! まさかエリーが当て馬キャラっ……!? そう言えばカウンタベリーという国名や中世ヨーロッパ風の時代描写がまんがの設定と一緒かもっ)
私は愕然と生まれたばかりのエリーを見つめた。
私の視線が強すぎたのか、少し眉を寄せて「あぅ」と声を上げる。
小さなくちびるから出てきたかわいらしい声に私の胸がきゅんとなった。
まんがの中のエリーは居丈高な態度でヒロインの邪魔をし、主人公ロックにベタベタとすり寄る。
しかもその報いで必ずバチが当たる様子が、コミカルに描かれていた。
時には魔物にやられてぼろぼろになったまま置いていかれたり、池に落ちてびしょびしょのまま放置されたり。
そう、そう言えばヒロインが少年の夢を体現したようなスタイルだったけど、エリーは小さな胸に悩むというようなストーリーもあった。
男性目線で悩む姿を笑われ、ヒロインには無意識マウントを取られ……今思えばデリカシーのない差別的な表現だ。
(エリーが将来そんな目に遭うなんて……)
まんがのストーリー通りなら将来、わがままな令嬢になり、他人から馬鹿にされたりイヤなことをされたりする。
待ち受ける未来に幸せしか与えたくないのに。
(エリーを守らなくちゃ……!)
私の心にボッと決意の炎が灯った。
その日以来、私は勉強をし知識を蓄え、魔法を人並み以上に使えるようにした。それだけではなく剣の訓練もして、貴族令嬢としては異例ながら、冒険に出て魔物を討伐したりしている。
魔物が増えないようにすること。
ヒロインのティナや主人公のロックとの関係を良好なものにすること。
エリーが不幸になるこれらの要素はすべて私が潰すのだ。