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痕跡探しの途中で。



 翌日からは森の中に入り、魔物の痕跡を探していく。マイケルが早速地面にしゃがみ込んだ。


「ここに大きめの足跡がありますね」

「魔物じゃない、ただのクマだな」

「確かに。魔素を感じません」


 デイビッドの答えに納得してマイケルはまた周辺を見回す。


「いるとしたらもう少し奥だ。目撃証言が多かった場所へ向かう。リリ、先頭だ。俺がしんがりにつくからマイケルはその間に入ってくれ」

「はい」


 私たちは木の幹や地表に残された魔物の痕跡を丹念に記録しつつ、一時間ほど歩く。


「事前の証言通り齧歯類型の痕跡が多いですね」


 マイケルは知的好奇心に満ちた視線を周囲に送りながらつぶやいた。

 齧歯類型はリスやネズミから変化した魔物だろう。


 小型魔物が通ることで魔力の残滓がついた道ができ、それを追って、それより大きい中型の魔物が現れる。

 ネズミサイズの魔物であれば、少し腕に覚えのある一般人でも駆除できるが、野犬サイズの中型くらいからはやはり軍人や冒険者の仕事だ。


 早い段階で小型の魔物を退治すれば良いのだが、最近は数が多すぎて手が追いついていない。


「今回の調査では魔物のサイズ変化の時系列も重要なチェックポイントになってるんです」

「小型が現れてから、どのくらいで中型や大型が来るのかってこと?」

「そうです。昔でしたらそう頻繁に魔物が出なかったので比較する情報がないのですが」


 マイケルが自分の書いたノートに目を落とした。


「二、三年前から小型の目撃、討伐情報があって大体十日ほどで中型が現れてます」


 しかも人里近くでの目撃情報が増えている。

 今後の被害を予想し、国も本腰を上げて動き出すのも道理だなぁ。


 私は森の中を進みながら前世の記憶を思い出す。

 大ゴマで現れる魔物と逃げ惑う人たち。襲われるシーンはあまり詳細に描かれていなかったが、今は嫌でもそれを間近で見てしまう。


 漫画ではモブでも、この世界で生きる人にとって大切な存在なのだ。気の毒ね、で終わらせてはいけない。


 魔物にも生きる理由があるだろうけど、私はやはり彼らを討伐しなくては……。

 そんなことを考えていたら、高い金属音が聞こえてきた。


「剣の音だわ」

「誰かが戦っているんでしょうか」


 マイケルが身をすくめるのを庇うように私は剣を抜く。


「沼の側だな」


 デイビッドが眼光鋭く木々の向こうを見つめた。やがて金属音に混じって切羽詰まった叫び声も聞こえてくる。


「行こう」


 デイビッドに続いて沼へ向かうと、ネズミサイズの魔物に襲われている男性が三人いた。


「くそう、来るな! 来るな!」

「いて! 足を齧られた」

「ちょこまか動き回るから、剣が当たらない!」


 あ、アイザック殿下たちだ。


 足場の悪いじめじめした地面を泥を跳ね上げながら逃げ回っている。

 逃げるついでに剣を振るうが雑な動きなので、十数匹ほどの魔物は減る気配がない。

 結果、疲労させられている。あのままでは、動けなくなったところを齧られて死んでしまうだろう。


 私がデイビッドを見上げると、彼は肩をすくめて、もう一度「行こう」と足を踏み出した。




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