調査前。
昼食を終えると私たちはまずギルドへ行き、アイザック殿下のことを伝えておく。
「うへぇ、尊きほうからの客か。なるべく無傷で帰ってもらわなくちゃな」
ギルドマスターは面倒なことだと苦笑いして、隣に控える事務員に何事か耳打ちした。
十中八九、アイザック殿下に隠れて手練れの冒険者を配置するのだろう。
「他の調査員は?」
「まだ到着してない。今晩か、明日になると思う」
「そうか。ではギルドに上がってきている魔物の情報を全部教えて欲しい」
「わかった」
デイビッドはギルドの応接室を借り、討伐数や場所などまとめた書類を読み込んでいく。
「今、分かってる部分の報告書を作ってしまおう。リリは書式に従って数字を書き写して欲しい」
「了解」
すぐに現場に出るのかと思ってたけど、書類仕事か。こういうのも嫌いじゃないからなんだか楽しいな。
うん、やっぱり年々討伐される魔物の数が増えている。ここ二年ほどの増え方は月を追うごと、という感じ。
ますます原作の状態に近づいてきている。けれど漫画ではこんな風に国の調査が入ってるなんて描写なかったよなぁ。村人の説明くさいセリフであったかもしれないけど。
そんなことを思いながら数値報告書を作っていくと、気付けば夕暮れになっていた。
ふと目を上げれば室内が窓から差し込む夕日に照らされ、オレンジに染まっている。
デイビッドは書類に集中していた。うつむく額にライトブラウンの髪がさらりと落ちている。長い指をあごに添え、リズムを取るように何度か動かす。
肌の陰影が彼の骨格を浮かび上がらせ、彫刻のように美しい。琥珀色の瞳にまつ毛の影が落ちてゆらめく。
私は時を忘れて彼を見つめ続けた。
翌朝、もう一人の調査員、マイケル・ベイリアルとギルドで合流した。彼は国の事務官をしている赤い髪の青年で、よく日焼けしている。
「実は職場の年齢層が高くて……若いやつは外回りだと書類運びばかりしているんです」
照れくさそうにはにかむとまだ十代に見える。聞けば二十一歳らしい。
「同い年だな」
「え、デイビッドも二十一歳なの?」
「あぁ。なんだその意外そうな顔は」
「だって……」
体格が良いし、態度も堂々としているのでもっと年上に見える。
「リリ、言いたいことがあったら言え」
「別にないわよ」
「顔に書いてある。どうせ俺はおじさんくさいんだろう」
「そんなこと思ってないってば」
拗ねた顔になったデイビッドについ吹き出してしまう。
過去に何か言われたんだろう。そんなこと気にするなんて可愛いところあるわね。
そう言うともっと拗ねちゃうかもしれないから、言わないけど。
私たちの様子を見て、マイケルがふふと笑った。
「仲がいいですね」
「まぁな。でなきゃ一緒にやってられない」
さらりと答えたデイビッドになぜか私の胸が高鳴った。