妹たち。
「アンナ、ティナ。お待たせ。あら、もう下ごしらえ始めてくれているの?」
「はい! ティナちゃんがずいぶん上達していますよ」
「まぁ、本当。きれいに野菜をカットしているわ」
「あ、えへへ……」
褒められて照れくさそうなティナの指には古い傷跡や新しい切り傷がいくつもできている。料理やそうじ中にできた傷だろう。
まんがでは誰の傷でも瞬時に快復させてくれてたのにね。
今のティナ自身は体力がついていないから、魔法に目覚めていない。
私に治癒魔法が使えたらすぐに治してあげたいけど……。
私はため息を押し殺して鍋の前に立つ。
「さ、今日はシチューを作りましょう」
「シチュー!」
エリーとティナの声がハモった。
「エリーも好きよね?」
「はい! リリーお姉さまのシチューは世界一です!」
「リリーさまのシチュー……ぜったい美味しい」
何度か振る舞ったことのあるエリーの反応はうれしい。ティナは夢見るようにうっとりつぶやいた。
「そうよ、リリーお姉さまのシチューはとろりとしててふわっとあったかくなって、とにかく美味しいのよ!」
「とろりでふわっと……」
エリーの言葉を反芻し、ティナの口元がゆるむ。
「そんなすばらしいものを私が食べてもいいんでしょうか」
「リリーお姉さまがいいと言ってるんだから食べるべきよ! 遠慮なんかしてたら私が全部もらっちゃうからね」
「そ、それは……」
エリーの言葉に慌てて黙り込むティナを見た私とアンナは苦笑する。
「煮込み終わるまで少し時間があるわね。そうだわ。裏庭を少し整備しましょう」
修道院の裏庭は森に繋がっていてかなり広いが、手付かずのまま放置されている。
日当たりの良い前庭では畑を作っているので、そちらをきれいにしたら子供たちが遊べる場所が増えるだろう。
シスターに道具を借りた私はデイビッドを連れて裏庭に回る。当然のようにエリーとティナも付いてきた。アンナには火の番をお願いした。
「リリーお姉さま。整備って何をするの?」
「草を刈って、石をどかして土を均すのよ」
「お、お手伝いします!」
「ありがとう、ティナ。私が草を刈るから庭の隅に集めてくれる?」
「リリーお姉さま、私も手伝います!」
「うれしいわ、エリー。二人とも手袋をするのよ」
「はぁい!」
小さな草刈り鎌で作業する後ろをエリーとティナが付いてきてくる。
始めは二人とも草だけを集めてくれていたが、ティナが点在する小石や枯れ枝を別に避けてくれた。
それを見ていたエリーも同じようにする。二人が持てそうにない大きめ石はデイビッドが片付けてくれた。
「ティナ、草刈りを代わってくれる?」
「はい!」
「リリーお姉さま、私が……」
「エリーは刃物を使ったことがないでしょう? 私と一緒に枯れ枝をまとめましょう」
煮炊きに使えるよう鉈でサイズを整えた枝をエリーが麻紐で縛る。
どの作業も魔法を使えば早いけど、手でもできるようにしなくちゃね。
一時間ほど作業していたらアンナが呼びに来たので厨房に戻る。鍋いっぱいのシチューが完成していた。
「わぁ、いい匂い。すぐにいただきたいわ、リリーお姉さま!」
「エリーったら」
「だってこんなに美味しそうなシチュー、がまんできな……」
言葉を途切れさせたエリーの視線の先では、テーブルを拭き上げ、お皿の準備をするティナがいる。
同い年くらいのティナが率先して働くのを見て、エリーは私にまとわりつく手を離した。
そして慣れない手つきでスプーンを並べていく。
「あ、ありがとうございます」
「いいえ……」
ぎこちなく目を合わせ、小さく微笑みあう二人。
少しだけ照れくさそうな様子が可愛くて、私はにやけそうな口元を両手で押さえた。