リリー・ホールズワースです。
私の名前はリリー・ホールズワース、十六歳。
ホールズワース侯爵家の次女。やさしい両親と兄二人と姉、それに五歳下の妹エリーがいる。
いわゆる侯爵令嬢と呼ばれる身だが、現在は人里離れた山中で魔物を討伐中だ。
「リリ、出たぞ!」
「了解!」
パーティを組んでいるデイビッド・ウェインがイタチに似た小型の魔物を地中の巣から追い立てると、潜んでいた奴らが飛び出してきた。
私は腰に差した長剣を抜いて六匹を切り裂き、デイビッドが二十匹以上を仕留める。
デイビッドは私を見るとやわらかく微笑んだ。
「六匹を一度に片付けるとは、大分スピードがついてきたな」
「まだまだよ。デイビッドみたいに剣を素早く振り回したいわ」
「それには経験と筋力が必要だよ、リリ」
デイビッドはライトブラウンの髪に琥珀色の瞳。百八十センチをはるかに超す長身に見合う引き締まった体躯。
手には私より大ぶりな剣が握られている。
なるほど、確かに体格面では敵いそうもない。だけど……。
「明日から筋トレを増やすわ」
「相変わらず負けず嫌いだなぁ、リリは」
「努力家と言って」
そう、私の座右の銘は万里一空。
江戸時代に宮本武蔵が書いた「五輪書」の中にある言葉が語源で、意味は目標に向かって努力すること。
「まぁ、ここでは口には出せない座右の銘だけど」
「何か言ったか? リリ」
「なんでもないわ」
魔物をずた袋に詰めながらデイビッドが振り返る。
それに笑って首を横に振り、馬に括り付ける作業を手伝った。
そして私たちは街中にある冒険者ギルドへ魔物を納品し、そのまま近くにある小さな一軒家に入る。
一軒家は侯爵家の名義になっていて、私はここを討伐後に身支度を整えるのに利用している。
流石にホコリや土、時に魔物の返り血をつけたまま侯爵家に帰るわけにはいかないものね。
「お帰りなさいませ、リリーお嬢様」
「ただいま、アンナ。湯浴みをするわ」
「はい、用意してあります」
私専属の侍女アンナは慣れた様子でテキパキと私の体を清めてくれた。
アンナの魔法で乾かしてもらったさらさらの金髪は黄味が強く、わずかな光でもきらめくほど。
瞳は少し紫を帯びた青だ。肌は陶器のように透き通りシミ一つない。
もちろん顔立ちも整っていて、今は美少女だが、すぐにものすごい美女と呼ばれるようになると思う。
さてそんな、一応令嬢の私がなぜ魔物討伐をしているのかというと……私にはこの世界とは違う記憶があるからだ。