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デッドリカバー  作者: 箱暗灰人
2章「ドクトアの戦火」
20/21

共鳴する者達・4

改まってベイティから2人へ質問をする。


「聞きたいことは、フォスレーの目的についてです。私には目的なく殺戮を繰り返しているとは思えないんです。もしただ人を殺すのが好きな殺人狂なら、私はもうこの世にはいないはずなのです」




2年前、ベイティ32歳

ルヴェスタの北西の方角、海と隣接する港町のイセッタの町でベイティは暮らしていた。

港でひとり心配そうな顔で海を見つめて佇むベイティ。

海から吹く風が黒髪と白い無地のワンピースのスカートを揺らす。


(どうしたのかしら?もう帰って来てもいいはずなのに……)


「ベイティ!」


「わっ!?」


背後から声を掛けられ、体がビクッと跳ねる。

振り返ると優しい顔をした男が立っていた。

男は片手を背中の後ろに回していた。


「リック!?も、もう!驚かせないで!」


「ははは、ごめんごめん!」


「でも、あれ?あなたの船、あそこにないけど?」


「今だけ別の場所に泊めてるんだ。驚かせたくってさ」


「もう!こんなことする為にわざと心配掛けさせたの!?」


「ち、違うんだ!今ので驚かせるつもりじゃなくて、実は……」


リックは後ろに隠していた手を出すと白い箱を取り出した。


「これを、渡したかったんだ」


そう言って箱を開けて見せた。


「これって……」


箱の中には指輪があり、白のリングに青い宝石が取り付けられていた。


「この指輪を取りに行ってたんだ。本当は俺達の結婚式で渡したかったんだけど、その時はお金がなかったからさ。でもやっと渡せることが出来る」


リックは指輪を取り出し、ベイティの手を取り、指にはめた。


「結婚して1年目の記念のプレゼント。受け取ってくれるかな?」


ベイティは指輪をはめた手をリックによく見えるように上げてーー


「もちろんです!」


満面の笑みで答えた。

いつまでもこの幸せが続くと思っていた。


だが、幸せを破壊する悪魔が現れた。

悪魔は全てを燃やし尽くした。

町も人も、愛する人さえも。

何故、私は生かされたのか?

何故、夫や町の皆は殺されなくてはいけなかったのか?

何故、何故、何故……

何度考えても疑問に答えが出るはずもない。

でもふとした時につい考えてしまう。




「フォスレーは私が生きていることを確認した上でわざと生かしたのです」


ベイティは左手で右肘に触れる。

手にはリックから貰った指輪はなかった。


「調べた限りではフォスレーが襲った町や村では、決まって数名の生き残りがいることが分かりました。何故わざと生かしたのか、不可解なその行動が意味する目的は何だと思われますか?」


ベイティの言葉にアキトは思う。


(目的か。考えもしなかったな……)


目的がどうあれ、理由があろうとなかろうと、やるべきことは変わらない。

変える必要はないから、そんな発想を持つこと自体なかった。


(俺もベイティと同じ、奴に生かされた立場、ってことか)


お互いの共通点が他にもあることに気付いた。


「……待て」


ずっと黙っていたシュウが言葉を発した。


「奴は、ウォーディン、みんな殺した。生きた奴は、フォスレーから逃げられた、臆病だけ。俺いなかった。だから、生きてる。生かされた奴、いない」


「そうだったんですね……。すみません、調査不足でした」


目を伏せ逸らし、ベイティは呟くように謝る。


(シュウは状況が違うのか。生かした場合と生かさなかった場合の違いは何だ?種族の違い?まさかな)


アキトは過去のことを思い出しながら口を開く。


「俺はベイティと同じ、奴に生かされた立場だ。思い返してみれば、奴は俺に復讐させるように仕向けていた。とすれば目的はより強い相手と戦いたい、のかも知れない。奴は最強と言われている存在だ。手こずることを知らない。その気になれば力だけで何でも自由自在だろう。だから人生に飽きている。自分を脅かす存在を欲し、全力を出せる相手を求めた。その為に人を殺し、わざと生かして復讐心を煽った、と」


もっともらしい目的を挙げてみた。


「それはあり得ます。事件の後、急に自身の魔力量が大きく増えたと感じませんでしたか?」


「ああ、そう言えば、そうだな。それが?」


「それはきっと殺された人達の魔力を吸収したからです。フォスレーはあえて多くの人を殺すことで、生かした人に魔力が集まるようにしたと考えられます。そうすれば、魔力の器は大きく成長し、より強くなれるから。フォスレーの目的が強い相手と戦いたいのかは分かりませんが、私達を強くさせることは間違いないと私は考えます」


「強くさせて、その後が謎か」


「それと、もうひとつ。これはあまり考えたくない目的ですが……」


ベイティの顔が曇る。


「殺された人達に殺されても仕方ない程の罪があり、生かされた私達は生きて罪に苛ませるのが目的、と」


「はあ?いや、俺には殺される程の罪なんて身に覚えはないぞ?」


「私もそうです。ですが忘れている可能性、もしくは魔術で忘れさせられている可能性がないとは言い切れないのです」


「それは……そうかもだが。そんなあり得なさそうなことまで考えてるのか?」


「おかしい、でしょうか?」


ベイティは不思議そうに小首を傾げる。


「まあ……その、気持ちは分かる。つい嫌なことを考えるのは、俺もやるし」


アキトは目を逸らし、頬を指でポリポリと掻く。


「でも、もし後者が本当の目的だとしたら、どうするんだ?復讐は」


「復讐することは絶対変わりません。殺されて仕方ない罪があったとしても、やり方があまりにも一方的で残酷。私はどんな理由があろうとフォスレーを許す気は絶対ありません」


アキトを見るベイティの目から底知れぬ深い闇を感じた気がした。

ベイティはシュウに視線を向ける。


「シュウさんは、フォスレーの目的は何だと思いますか?」


胡座で目を閉じていたシュウは目を開けて、ゆっくり顔を上げる。


「目的、どうでもいい。考える意味は、ない」


そう言うとシュウは目を閉じて、これ以上言うことはないと行動で示した。


「わ、分かりました。すみません、変なことを聞いて」


シュウの言葉にアキトは、(目的がどうであれ、やることは変わらない。だから考える意味がない、か。だが、目的も聞かず、殺したいから殺して、それで本当にいいのだろうか?)


今まではただフォスレーを殺すことが出来ればよかった。

だがベイティの言葉にアキトに少しだけ心変わりがあった。




時は経ち、アキトは個室に移動して、窓から外を眺めていた。

左から右に流れる光景を、何も考えることなくただ見ていた。


「……?」


景色が流れる速度が遅くなり、停止した。


『運転手のタシムです。只今ゼクステラの前方にある森の道を塞がれて通行が出来ない状態にあり、武装した5人がこちらに近付いて来ています。すぐに話を付けに行きますので皆様しばらくそのままお待ち下さい』


話の途中で個室を出たアキト。

ベイティもほぼ同時に個室を出た。

広い部屋にいたシュウと合流し、外に出ようとすると、正面の運転室の扉が開いてタシムと対面する。


「おや?どうかしました」


「あんた1人で戦うつもりか?」


「ご安心下さい。わたくしこう見えて結構やり手なのですよ?」


タシムを先頭に車から出ると、いかにもな人相の男達がいた。

タシムは前に出て、3人は気になって車を出る。

先頭の男が前に出て言う。


「おいテメエら、ロギアだろ?金目の物と、その、車?みたいなのを置いていけば命だけは助けてやるぜ」


タシムは無表情で言う。


「武器を納め、すぐに道を塞いでいるものを退けなさい。これは警告です」


「おいおい、俺の言葉聞こえてないのかぁ?金目の物を置いて行けって言ってんだぞ?」


「大人しく引くなら見逃します。ですが危害を加えるような行動を取れば、こちらも正当防衛として動かざるを得なくなります」


「つべこべ言ってんじゃねぇー!」


男は鈍器を振りかぶり、タシムに向かって振り下ろした。

タシムは横に素早く避けると同時に、右拳が男の腹に突き刺さる。


「ごぉっ!?」


男はくの字に倒れ込む。


「このやろ!ぶっ!?」


別の男の槍の突き攻撃を前に跳んで避け、槍を左足で踏み、右足で男の顔面を蹴り飛ばす。


「おおおおおおおっ!」


また別の男の剣の横の振りにタシムは後ろに下がって避け、切り返しの横振りにタシムは剣を指で摘まんで止めた。


「あ!この!離せ!くっ!」


男は両手で剣を力一杯動かすも、まるで微動だにしない。


「うおおおおおお!?」


渾身の力を出したタイミングでタシムは指を離し、男は勢いで体が半回転する。


「おおおっ!」


その勢いのまま一回転して、剣を振る。

剣は空を斬り、目の前にタシムはいなかった。


「どこいっ!?」


男の後ろに回り込んでいたタシムは後頭部を攻撃し、男は気絶する。

タシムは残りの2人を睨み付けると、2人は武器を捨てたり


「降参だ!降参するから!がっ!?」


降参しても容赦なく顔を殴り付け、倒れる。


「なっ!」


最後のひとりの顔を掴み、地面に押し倒した。

倒れた男の頭を足で踏みにじりながらタシムは睨み付けながらドスの効いた声で言った。


「テメエらの相手してるほどこっちは暇じゃねーんだよカス共が。道塞いでるガラクタとっととどけねえとテメエらごと轢くぞゴルァ?」


「ず、ずびばぜん。すぐどかじばすんで許じでぐだざい」


顔を足で踏みつけられながら何とか言葉にする。

足をどけると男は慌てて立ち上がり、仲間を起こして急いでガラクタを横に移動させる。

アキト達のほうに振り向いたタシムには笑顔が戻っていた。


「話付けてました。すぐに運転を再開しますのでご搭乗してて下さい」


「あ、ああ……」


(この男、強いな。力を引き上げた上で重傷させぬように攻撃時にはかなりの手加減をしていた。本気を出していたらこんな賊なんて瞬殺だろう。そして、怒らせないほうがよさそうだ)


シュウが車内に戻り、アキトも戻ろうとした時「あの程度でいいのですか?」と残ったベイティがタシムに言う。

アキトは振り向いて、ベイティを見る。


「あの人達、絶対後でまた悪事をすると思いますよ」


「ご安心下さい。まだ続きがありますから」


「片付け終わりました!!」


ガラクタを横にずらし終わった賊が遠くから大声で伝えた。


「出発しますので。搭乗して下さい」


ベイティが車に乗り込む。

タシムは賊達の方へ歩きながら端末を取り出して操作する。


遠隔で指示を受け取った車は自動で徒歩の速度で前に動き出した。

賊に向かって睨み付けながら言った。


「テメエらは生かしてもらった立場だってことを忘れんじゃねーぞ。ロギアにはこの程度のことでも容赦なく殺す奴だっているんだ。今回は俺がきまぐれで慈悲を掛けてやったんだ。言ってる意味、解るよな?」


コクコクと大袈裟にうなずく賊。

そんな賊の顔を端末で撮影し、操作しながら話す。


「でだ。今回のことでテメエらにはロギアに軽犯罪者として登録される。ここでの罪は次にやらかした時に考慮され、処罰が決める。つまり……」


端末の操作を止め顔を上げて睨み付ける。


「次はねえってことだ!分かったかぁ!?」


「はいいいっ!!」


「それから横に退けただけのガラクタちゃんと処分しとけよ?置いたままにしてたら罪加算するからな、分かったら返事!!」


「はいっ!!!!」


タシムはゆっくりと横通り過ぎた車に追い付いて乗り込み、自動運転から操縦に切り替え、車は加速する。

森の中は石畳で舗装された道があり、この大きさの車でも通れる空間が確保されている。


アキトは個室に戻り、窓から景色を眺めるが、見えるのは木ばかりでやがて景色を見るのは飽き、何か時間潰す方法はないか考えていると、魔術のことを思い出す。


(そうだった。回復の魔術使えるようにならないとな。でも到着する前に使えるようになれるのか?もし出来なかったら、願っていた時間が全部無駄になるのか?そんな説明あったっけ?……聞けばいいか)


アキトは端末でカイシスに通信を掛けるが、出ることはなかった。


(まだ用事が長引いているのか。んー、あ)


今近くに魔術に詳しそうな人がいることを思い出した。

部屋を出て、向かいの個室をノックする。


「えっと、アキトだけど、ちょっといいかな?」


やや間があって扉が開く。


「何でしょう?」


個室の中にいたのはベイティだった。


「魔術のことについて聞きたいだけど、詳しいか?」


「……どうでしょう?普通、だと思いますが、それがどうかしました?」


「移動中の時間を使って回復の魔術を使えるようになりたいと思っているんだけど、もし到着しても使えなかったとして、その時までに願っていた時間って、もしかして無駄になったりするのか、それが知りたくてな」


「それは、んー、何とも言えません。一度諦めた魔術を、時が経って再度会得しようとした時に早く会得した人もいれば、そうではない人もいます。その魔術のことを考えているだけでも効果があるので、完全に忘れたりしなければ無駄にはならないと思います」


「そうか。あー、急に悪かったな。ありがとう。助かった」


「いえ……」


アキトは振り返り、個室に戻ろうとする。


「あの」


ベイティは呼び止め、アキトは振り向く。


「私達、まだお互いのことよく知りませんよね。共に戦う仲間ですし、だからその、戦いに備えて出来ること、出来ないことを話し合ってお互い補えることが出来ればより効率が上がると思うんですが、どうでしょう?」


ベイティの提案に少し考えてから頷くアキト。


「……そうだな。今は回復よりもその方が先決だ」


「では、場所を変えましょうか」


ベイティは広い部屋の方に視線を向けると、シュウが顔だけ出してこちらを見ていた。


「それ、俺も?」


シュウは自分が含まれていないか不安になって聞きに来た。


「ええ。もちろんです」


小さく微笑みながらベイティは言った。

広い部屋に集まった3人は改めて話し合うことになった。

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