共鳴する者達・1
ドクトア王国 玉座の間
玉座に座る青を基調とした服に宝石が散りばめられた装飾品が胸元や指あり、大きく膨れ上がった頬肉と腹の太った体型。
左手で大きな腹をボリボリと掻き、肘掛けに肘を立てた右手の拳に右頬を乗せ、面倒臭いと思っていそうな顔をしていた。
ドクトア王国を納める国王の男の姿だ。
名前は国名をそのまま取って継承している為、ドクトア王と呼ぶ。
王が見下す視線の先に、頭を垂れてひれ伏すみすぼらしく汚れた姿の男がいた。
男は必死な顔で叫ぶ。
「国王様!どうか、どうか!ルティアをお返し下さい!」
「ふうーん。言ってることがよく分からんなあ」
王はとぼけた顔で体勢を変えずに今度は黄色の髪の頭をボリボリと掻く。
「2日前にこちらに連れ込んだ女性の名です!あれは私の嫁なのです!ですからどうか!何でもしますから、お返し下さいませんでしょうか!」
「だから知らぬと言ってるだろうが!」
肘掛けに拳を叩き付け、貧相な男の肩がビクッとなる。
「不敬で不潔な奴め!こいつを牢にぶちこめ!」
「はっ!」
周囲にいた鎧をまとう兵士が男を捕まえ、立ち上がらせる。
「王よ!!どうか!!がっ!?」
兵士は剣の柄で男の頭を強打し、男は気絶する。
兵士は男の足を持って引きずって連れて行く。
「ふん!」
王は椅子に深く腰を掛け直す。
「で、大臣よ」
「ははっ」
呼ばれた初老の長い白髭が特徴の大臣が王の近くに寄る。
「あやつが言っていたのはどの女だった?」
「2日前と言うことなので、最後まで王に反抗的だったあの女かと」
「あ~あ~、あれかぁ。最後まで俺様に媚びぬからああなるのだ。ふん、庶民の分際めが。あの男は大いに反省させ後悔させてから、殺せ」
殺せと言った時の王の顔は冷たく、まるで見つけた小さな虫を特に理由なく踏み潰したような顔をしていた。
「ははっ!」
大臣は一礼すると。男が連れられて行った方に向かい、大臣とすれ違うように違う兵士が走って入って来て、王の前で片膝を付き頭を垂れる。
「王様。謁見を希望する者が来ております」
「またか?俺様は気分が優れん。断れ」
力なくしっしっと手を振る。
「はっ、ですが……」
「なんだ?はっきり申せ」
「フォスレー、と名乗っておりまして……」
「フォスレー?それがどうか、し……。ん?フォスレー?はて、どこかで聞いたような……。あ!!あの最強と言われるフォスレーか!?」
驚きの顔で前に身を乗り出す王。
「名を騙っただけの別人かも知れませんが」
「んー……、だが本人だとしたら、断って気分を損ねてしまったら我が国は……いかん!それはいかんぞ!すぐに連れてまいれ!失礼ないようにな!」
「ははっ!」
兵士は駆け足で戻っていく。
(偽者なら後で処刑すればいいが、本物のフォスレーだとしたら、一体俺様に何の用なのだ?)
兵士はフォスレーと名乗る者を連れて来る。
国王の前に現れるとその者は不敵に笑う。
フォスレーの情報を聞きにアキトは刀を差し、腕当てを装着し、万全な体勢でカイシスの部屋を訪れた。
「おっと、早いお着きですね」
カイシスは赤色の半透明のものを人差し指と親指で挟んで持っていた。
「フォスレーはどこにいた?」
「焦る気持ちは分かりますが、話をする前に少々待ってもらえますか?」
机に置かれた黒い箱の中に手に持っていたものを置く。
「待つ?何を?」
「これからする話はアキトさん以外にも聞いて欲しい方々がいるのです」
(方々?複数か?)
「……まあ、そういうことなら仕方ない」
「申し訳ありません」
カイシスは箱の中から緑色の半透明のものを取り出して見る。
「それ、もしかしてミスタリアか?」
「ええ。そうです。これは何の属性だと思います?」
「風、だろ?」
「正解です。自然の風は無色なのに、魔法を使うと緑色になる。魔法で創造したものは自然のものとはどこか違う。不思議なものです。手に取って見ます?」
風のミスタリアを差し出す。
「ああ」
手持ち無沙汰なアキトは、断る理由もなく、ミスタリアを受け取った。
「これがミスタリア、なのか?」
「ミスタリアは魔力が結晶化したもの。魔力の補給効率は無類であり、魔法の使用の際にミスタリアから魔力を借りて使うことも出来ます。本当ならロギアで皆さんに常用したいのですが、希少で高価ゆえ、さすがに不可能でした」
カイシスの手元にある黒い箱が横の床にいくつも積み重ねられているのをアキトは見る。
「……希少、か?」
「自然のものは、ですよ。こちらはミスタリアはミスタリアでも、人工で作られたものなのです。自然のミスタリアより幾分か劣りますが、その分数多く流通されています。中には自然のものと偽って人工ミスタリアを売ってる者もおりまして、実はここにあるものはそういう者から徴収したものなのです」
「そうなのか。どうりであまり風の魔力を強く感じない訳だ」
アキトはミスタリアを返そうとする。
「そちらはアキトさんに差し上げます。人工とは言え、使えない訳ではないですから」
「そうか?じゃあもらっとく」
ポケットに入れると背後から扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ、お入り下さい」
扉を開けて入ってきたのは、ウォーディン族と黒く長い髪に黒い服の黒ずくめの女性だ。
どちらも講習で見たことある2人だった。
(あのウォーディン族は講習にいたな。女のほうは、確か講習始まる前に出てった奴だ)
少し見ただけだったが、妙に印象に残っていた。
ウォーディンはグレーの短パンだけを着ていたが、体毛で隠れているので裸の印象はない。
女は上は長袖、下は床を擦りそうなほど長いスカート。
手にも黒い手袋で白い肌が露出しているのは首と顔だけだ。
2人はアキトの横に並ぶ。
「まずは紹介します。こちらはアキトさん、そしてシュウさんに、ベイティさんです」
ウォーディン族を指してシュウ、黒ずくめの女を指してベイティと言った。
「あなた方3名は、これから共に行動し、協力してフォスレーの調査及び討伐に取り組んで頂きます」
「えっ?」
アキトは声を出して目を見開き、左側に立つ2人を見る。
シュウは一歩分後ろに下がっていて、2人の顔を視認することが出来た。
「つまり、私達で仲間を組むと?」
ベイティはカイシスに確認の質問をする。
「はい。その通りです」
「……分かりました。カイシスさんがそう言うなら」
少し考えてから承諾するベイティ。
カイシスはアキトとシュウに2人の回答が聞きたそうに視線を向ける。
「おれは、それでもいい」
シュウも承諾する。
シュウの声はアキトは初めて聞いたが、アキトはそれどころじゃなく、目を伏せて黙っていた。
「…………」
「アキトさん、どうかしました?」
「いや……。俺はこれまでフォスレーを1人で追っていたし、ロギアに入った所でこれからも1人でフォスレーに挑むつもりだった。だから誰かと組んで協力し合うって考えがなかったんだ」
アキトが村を出て傭兵団に所属していたが、身内の問題で早期に辞めてから1人で生きてきた。
そして気付いた。
1人は気楽だと。
1人でいれば余計な気遣いしなくていい。
責任の押し付け合いに気分を損なわなくてもいい。
必要のない争いをしなくてもいい。
村にいた頃はそんなこと思わなかった。
まるで別人になった気分だ。
何もかもが狂ってしまったようだ。
1人でいよう。
そう。復讐は自分の、自分だけの問題なのだから。
そう思っていたから、誰かと協力するのは嫌だと感じた。
そんな気持ちを抱くアキトの様子を見てカイシスは言う。
「……なるほど。あなたの気持ち、私なりに理解しました。ですが、相手は世界最強の人物。たった1人で挑み敗れて死ぬのと、皆で協力して倒すのと、どちらが良いと思うのですか?」
「……その2択しかないのか?」
「今のあなた1人でフォスレーに勝てるとでも?分身相手で精一杯だったあなたが?」
冷徹に言ってのけるカイシス。
それは、アキト自身も痛感していることだ。
わざわざ言われなくても分かっている。
(分かってる。きっとこれは俺の下らないプライドだと。でもこのプライドこそが復讐の原動力の1つなんだ。だから分かっていても、そう簡単に手放せるものじゃない)
まだ迷っているアキトの様子を見て、カイシスは続けた。
「それにそちらのお2人は、あなたと同じ、暮らしていた場所、大切なものを奪われ、フォスレーへの復讐を望んでいるのです」
「えっ!?そう、なのか?」
横の2人を見る。
2人も初耳のようで、お互いに顔を見る。
魔力から感じる闇、暗い雰囲気から少なくともこちら側であることはアキトにも感じた。
カイシスが説明を始める。
「2年前、フォスレーはアキトさんの故郷のフウライの村だけじゃなく、他の場所でも殺戮と破壊の限りを尽くしたことはご存知ですか?」
「ん?ああ。聞いたことはある」
アキトが傭兵をやっていた頃、各地で大きな話題になっていた。
いくつかの町や村が原因不明の壊滅したと。
色々憶測が飛び交ったが、アキトは当事者だからフォスレーがやったことだと当然疑っていた。
やがてロギアからフォスレーを重罪人として指名手配された。
アキトはフォスレーがフウライ村以外も襲撃していたことに、特に思うことはなかった。
自分の憎しみと付き合うことで精一杯で、他人のことを思ってる余裕なんてなかった。
カイシスから聞かされて思い出したくらいの関心だった。
「そうか。あんた達も、か……」
同じ苦しみを味わった者同士。
同じ目的を持つ者同士。
初対面のはずなのに、初対面とは思えなかった。
「お2人の気持ちも汲んで頂けると嬉しいのですが」
(ああ、そうか。これか)
傭兵仲間が疎ましく思っていたのは、自分と同じ境遇の人がいなかったからだ。
傭兵になった理由を自己紹介の時に聞いていた。
その理由は誰かを守りたいと言った理由がほとんどでアキトのように心に深い傷を負い、今でもトゲが刺さったまま感情は他の誰も持っていない。
だからだろう。団内のポジティブな雰囲気に全く馴染めなかったのは。
ここにいる2人はそうじゃない。
お互いの苦しみが理解し合える。
これが、本当の意味での仲間なのだと感じた。
アキトの中のプライドという厚い壁が崩れて消えた。
「……そういうことなら断るわけにはいかないな。分かった。協力する」




