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デッドリカバー  作者: 箱暗灰人
1章「生きる、ということ」
16/21

魔法術講習・4

レクターの魔法術講習はまだまだ続く。

レクターは黒板の今まで書いてあったものを消し、魔術と書く。


「魔術とは、願いが叶い発現した能力です。ある者は力を追い求め、鍛えながらずっと願い続けたのです。その結果、ある日突然魔力を消費して一時的ではあるが強力な力を手に入れることが出来ました」


(ん?ここ書いてないな?)


入門書には願いが叶って発現した能力とだけ説明に書いてあるだけで、その下は魔術の説明と会得方法が書かれていた。

レクターのアドリブのようだ。


「またある者は瀕死の重傷を負い、生きたいと心から願いました。すると傷が塞がっていき、普通ならありえない速度で治っていったのです。心からの願いが叶い、魔力を代償にして発現した能力。後にそれらを総称して魔術と呼ばれるようになりました。魔術を会得するには本気で願い続けることです。そうすれば早くて数秒とあっという間に。長くても20日以内には願いが叶い、使うことが出来るようになる、かも知れません。と言うのも、全ての願いが必ず叶う訳ではないのです」


黒板に禁忌の文字を書く。


「例えば世界を滅ぼす力が欲しいとか、敵を一瞬の内に必ず殺す力が欲しいとか、一瞬で遥か遠くの場所へ行けるようになりたいとか、人を意のままに操れる人形のようにしたいとか、お金やミスタリアを無から作りたいとか、死んだ人間を蘇生させたいとか、そういった常識的に不可能、不可能に限りなく近い魔術は、願いは叶いません。いえ、実際にはまだ叶えた人はいない、と言ったほうが正しいですね。魔術を叶わないと分かる瞬間があるのですが、何が足りないのか、そもそも絶対に不可能なのかを知ることは出来ませんし、また叶えたとしても結局条件が判明しないので、曖昧な答えとなるのは仕方ないのなのです。前例のない魔術は本当に会得出来るのか、出来ないのかなんて、出来るようになるまでは永遠の謎です。もし、今まで不可能と思われていた魔術が使えたなら、それは世界のパワーバランスの、ロギアが想定して築き上げた防衛ラインの崩壊を意味します。それらの魔術を我々は禁忌魔術と呼び、万が一に会得出来た、もしくは目撃した時は、直ちににロギアに報告を。その義務があなた達にはあることを心得ておいて下さい。さて……」


レクターは黒板に身体強化、障壁、回復の3つの字を書きながら言う。


「皆さんに優先して覚えて頂きたい魔術は身体強化、障壁、回復の3つです。特に身体強化を最優先で覚えて頂きたいのです」


身体強化の字に円をいくつも書いて強調する。


「身体強化を覚えているか否かで戦闘における優位性に大きく影響します。どんな魔法術よりも最優先すべきものです」


(最優先……、俺って……)


身体強化を使えないヒートは落胆しているのを知りながらも全く気にしないレクターは続ける。


「身体強化とは、体を魔力によって一時的に強化する魔術です。身体能力が上がり、身体が高質化して打たれ強くなります。体の一部のみを強化することも出来ますが、基本は全身くまなく強化することを推奨します。魔術は魔法と同様にイメージが必要となりますが、魔法と違ってイメージは容易です。魔術自体に効果の基礎があるので、身体強化の場合は効果の強さと持続時間を決め、対価の魔力を消費して発動となります。

身体強化を会得する条件は魔力量のみと判明していますが、身体強化の強さは魔力以外に元の筋肉量にも比例します。筋肉は裏切りません。体を鍛えると良いでしょう。さて、先程申したように魔術は願いを叶える必要があり、時間を要します。身体強化の魔術を使えない方はいますか?」


ヒートは黙って手を上げて、恐る恐る見回して自分と同じ人はいないか確かめる。

他に手を上げる者はいなかった。


(やっぱり俺だけ……)


さすがにこうも自分だけ使えないが続いている為、ヒートは落ち込み自信を無くす。


「はあ……」


目付きの鋭い女がヒートに聞こえるようにため息をついた。


(うう……)


ヒートは今にも泣き出しそうな顔をする。


「ではヒートさんにはこれから起床している間は常に身体強化の魔術が使えるようになりたいと願っていて下さい。関連動作をすることで魔術の会得の効率を上げることが出来ますので、あなたのお得意な筋力トレーニングをしながら考えると良いでしょう」


「トレーニングしながら……。何か出来そうな気がする!」


ネガティブだったのが、急にポジティブとなったヒート。


「続いて障壁について説明します。障壁とは物理攻撃、魔法攻撃、魔術などを防ぐものを創造する魔術です。障壁には壁タイプ、衣タイプ、盾タイプの3タイプがあります」


黒板に壁タイプと書き、その下に棒人間、棒人間のすぐ横に四角を描きながら説明する。


「壁タイプは文字通りの壁の障壁を任意の場所に設置して防御します。障壁の形は発動する前のイメージで自在に変えられます。3タイプの中で一番防御に優れていますが、一度設置した壁の形を変えたり移動させることは出来ません。融通が効かない分強力、と言うことです。またその性質から足場にも出来ます。段差にすれば魔力が続く限り高い場所まで行けると言うことですが……まあそんな無茶をする方はここにはいないでしょう」


衣タイプ、棒人間、棒の身体のラインに沿って線を描く。


「衣タイプは体全体をまるで服を着ているように身に付けることで守ることから名付けられ、3タイプの中で一番防御が弱いですが、その分魔力の消費が少なく、移動しても障壁も付いて来て長い間障壁の効果を保ちます。平常時の奇襲用にお勧めです」


盾タイプ、棒人間の手や足に丸や四角を描く。


「盾タイプは衣のように体の一部に付けるもので、体の動きで移動します。盾自体の堅さは壁と同等の能力を持ちますが、その場に留まり続ける壁と違って衝撃に耐える力はない為、自身の体で耐えねばなりませんそう言った面から防御は中程度となります。壁、衣、盾の順で会得して行くのが推奨しています」


レクターの実演が始まり、壁タイプの障壁を張る。

障壁の色は薄い灰色の半透明だった。

レクターの手から放たれた火の玉は障壁を迂回して向こう側に移動すると障壁に向かって加速し、障壁に当たって消える。

レクターは再度火の玉を放つと、今度はレクターがいる側から障壁に当てようとする。

だが、火の玉は障壁をすり抜け、そして空中で消えた。


「この障壁は特定の方向からを遮り、私がいる方向からなら通す。そんな効果の障壁です。これならわざわざ魔法を迂回させる必要はなくなります。ですが、こういう融通を効かせた場合、障壁の効果を弱めます。また見て分かる通り、半透明にして向こう側を見えるようにしていますが、これも融通の1つで更に効果を弱めています。障壁を発動する際のイメージで障壁の効果を変化させられます」


レクターは丸や三角と言った形の違う障壁を新たに作り出す。


「形もイメージで自在です。形や向きを変えて攻撃を受け流すようにすれば障壁のダメージを抑えられるので、状況に合わせて障壁を変えていくと良いでしょう。注意点が1つ。衣タイプで何も通さない強固な障壁を選択してしまうと、自身の魔法が衣の内側で発動してしまい、自滅することになるでしょう。他に魔力補給を遮ったり、回復魔術の効果すらも遮ってしまいます。なのでいかに融通を効かせた障壁を会得するかは、皆さんの戦闘スタイルに合わせたものを選択すると良いでしょう。障壁の色は様々ありますが、色はその人の好みで付けられるので色による性能の差はありません。衣タイプで色を濃くしたら、当然ながら視界の妨げとなるのでなるべく色を薄くし、半透明をお勧めします。さてここからは戦闘においての障壁の活用方法をお教えします」


レクターは火の玉を放ち、斜め上に放ち、皆の頭上で旋回し、レクターに戻って来る。


「壁の障壁はーー」


障壁を手を目一杯広げた大きさの円盤の形で火の玉を受け止めて消すと、障壁はすぐに消えた。


「基本的になるべく持続を少なくすることです。長ければ長いほど魔力を消費しますから。ただあくまで基本であって、毎回持続を同じにしていれば逆手に取られてしまいますので気を付けましょう。衣や盾タイプは動かせるので、持続は状況判断で対応しましょう。さて、この中で障壁が使えない方はいますか?」


ヒートは手を上げたが、顔は俯いたままだ。


(どうせ俺だけなんだろうな。見なくても分かる)


「障壁の条件は身体強化と同じ魔力のみです。身体強化の次は障壁を会得して下さい」


(やっぱりね!)


明らかに自分にだけ向けられた言葉だと分かり、目を閉じて唇を尖らせる。


「障壁は拒絶の心。なので、そうですね……。これは絶対受け入れられないもの、それが自分に近付いて来るのを全力で拒絶するイメージし続ければ、いつか発現するでしょう」


黒板に回復と書く。


「次は回復です。回復は体が持つ自己治癒力を大幅に向上させ、怪我を治す速度を上げたり、悪影響を及ぼす魔術効果を消す速度を上げることが出来る魔術です。ただし、回復は万能ではありません。例えば腕の肘から先を欠損してしばらく経った怪我や、切断した先の部分が大きく欠損してしまったらその部分を再生することは出来ません。自己治癒力では治せない怪我だからです。ただし切断してすぐの怪我で、欠損部位が無事なら回復で治すことが可能です。失った部位を再生出来るような魔術や、怪我を一瞬で治せる魔術は禁忌級なので目撃したなら早急にロギアに連絡を。回復は遅れれば遅れる程回復が遅くなったり、完全には治せなくなったりしますし、自身だけでなく、相手にも掛けられることが出来ますので、もしもの時の為に会得しておくことをお勧めしています。…………」


「?」


レクターは急に黙り出して、ヒートはどうしたんだろうと首を傾げる。


「ヒートさん。先程の火傷、大丈夫ですか?」


「え、あ、いや、痛みは、まだ少しありますけど……」


自分の手のひらを見ながら言う。


「ちょうどよかった。その怪我を回復を使って治す所をお見せします。まあ、見て何か分かるようなものでもないので見なくても良いのですが」


レクターはヒートに近付き、火傷をした右手に両手をかざして回復を始める。

アキトは席を立ってその場から見ていた。

少し前にアキトも意識朦朧の中で受けていたもので、実際に治る場面を見てはいなかった。

ヒートの火傷はよく見なければ分からない程大したものではないこともあって、どのように治ったのか確認することは出来ず、回復を始めて30秒もかからず回復は完了した。


「おおおおお!!もう全然痛くない!」


ヒートは右手のひらを触って確かめながら歓喜する。


「このくらいの火傷ならこの短時間で治せます。大怪我を負ったなら完治までに相応の時間が掛かります。戦闘中であるなら完全に治す余裕は無くとも、少しずつ回復しながら戦うことが出来るでしょう」


レクターは教壇に戻る。


「魔術の会得は関連する動作を行えば会得効率が上がる話をしましたね。もちろんこの回復魔術にも同じことが言えるのですが、注意しておかなければならないことがあります。ある者は会得する為に自傷を行ったのです。ですが一向に会得が叶わず、次第に自傷はエスカレートし、やがてその者は致命的な怪我をしてしまい、回りには誰もおらず、会得も間に合わず死にました。緊急が迫っていたとしても必ず会得出来る訳ではない。そのことを肝に銘じておいて下さい。さて、回復魔術を使えない方はいますか?」


聞くとアキトを含め半数以上が手を上げた。

当然ヒートも回りを見ないように上げた。


「約半数と」


「!」


ヒートはレクターの言葉にハッと顔を上げ周囲を見回し、ニヤリと微笑んだ。


「なあ、ちょっといいか?」


手を上げた男が声を掛けた。


「何でしょう?」


「回復は絶対使えなきゃいけない決まりがロギアにあるのか?」


「いいえ。そのような決まりはありません。挙げた3つの魔術の会得はあくまで優先順位を付けて推奨するだけで、実際に会得するかどうかは個人の判断にお任せしています」


「そうか。ならば俺には必要ない」


男はそう言って手を下げ、顔を背ける。


「ただ……」


「あん?」


レクターの言葉に視線だけを向ける。


「やれることが多ければ、その分多彩な仕事を任されるようになり、給料や評価に影響します。それに、過去あなたのように魔術を選り好みする人をよく見て来ましたが、皆早死にしました」


「それは、俺も早死にすると言いたいのか?」


男の凄みのある睨みにレクターは全く物怖じせず淡々と続ける。


「さあ、未来のことなんて私には分かりません。ただ、自身の力を過信した者達は呆気なく死んで行った。その事実があるだけです」


「……ふん。そんなもの、早死にした奴らが弱かっただけだ。俺が特別であることを、今、この場で見せてやろうか?」


男は勢いよく立ち上がり、部屋の中が一触即発の雰囲気になる。

レクターはまるで他人事のように言う。


「見せるとは?どのように?」


「そんなもん1つしかねーだろ!あんたと俺で勝負だ!」


男はレクターに指を差す。

勝負の申し込みにレクターはーー


「お断りします」


即答で断った。


「本日は魔法術講習の日です。講習とは関係ないことで時間を浪費したくありません」


だが男は食い下がらない。


「講習と関係はあるぞ。実践形式で手合わせし、俺に足りない所やダメな所を指導すればいい。それも講習の内に入るだろう?まあそんなもの俺にはないがな」


「なるほど。それなら確かに講習には入りますが、でもあなた……」


「ん?」


「私が指摘して改善案を出したとして、受け入れて改善する努力をするつもりはあるのですか?教わる気のない人にいくら教えてもそれは無駄。講習ではなくなります」


「ふん。なるほど。なら約束しよう。もし俺が負けたならその改善案を受け入れて、改善した姿を必ずあんたに見せに来ると。俺は誰よりも強くなることを激しく望んでいる男だ。だからこうしてこの場にいるのだ。俺の口から出た約束は必ず守る!」


言い切ったその顔は至って真剣そのものだった。


「うるさいなあ!そんなことどうでもいい!」


目付きの鋭い女が立ち上がって叫んだ。

女は男に睨み付ける


「なっ!?」


男は突然のことでたじろぐ。


「ここはあんただけの講習じゃない!勝負したいなら講習終わってからにしろ!」


「う……」


女の正論にそりゃそうだと周囲は頷き、視線が男に突き刺さる。


「す、すみません……」


男はさっきまでの強気はどこへやら、すっかり萎縮し着席する。


「はあ、ったく、これだから常識ない奴は……」


女も呟くように不満を口にしながら席を座る。


「え~では、講習の続きを始めます。とは言え、あと少しで講習は終わります。先程話したように、身体強化、障壁、回復の魔術を会得するかどうかはあなた方の判断にお任せします。魔法術は他にも様々なもの、様々な応用が存在します。資料室に確認された魔法術の詳細が記載されている書物があるので興味がありましたら読んで見ると良いでしょう。また、定期的に中級、上級者向け講習もやっていますので、興味ありましたらそちらもどうぞ。では以上で魔法術の講習を終わります。今回の講習は入門書に書いてあるので持って行って下さい。それではお疲れ様でした」


魔法術の講習が終わり、皆それぞれの行動を始める。

レクターは勝負を仕掛けて来た男に近付きーー


「それで、どうします?」


そのように言った。

周囲の人は始まりそうな気配を感じて、注視する。

俯いていた顔を上げて男は言った。


「……それはあんた次第だ。あんたが勝負を受けるんなら俺はやってもいい」


「勝負は受けません。あくまで講習として戦い方を見て欲しい、と言うことならやってもいいでしょう」


「ああ、そうか。ならそれでいい」


「では、隣の部屋へ」


部屋に移動し、中央で向かい合う。

戦いが気になった人達が見届ける為にギャラリー集団が出来る。

興味ないのか見ないで出て行く人も何人かいた。

アキトはーー


(あの男、レクターって言ったか。どれ程の実力があるのか気になるな)


そう考えてギャラリーの中に加わる。


「勝敗は戦闘継続不能、もしくはギブアップでどうでしょう?」


「ああ。それでいい」


レクターのルール案に男は了承する。


「私に手加減する必要はありません。本気で来られないとアドバイス出来ないので」


レクターは直立不動のまま言う。

対して男は軽く体を動かして準備しながら言う。


「ああ?本気出してあんたが死んだら俺が犯罪者になるだろ?」


「直接関係のない見届け人がいる中でお互いが了承した命を懸けた決闘の結果どうなろうと罪には問われません。あちらの皆さんが証人となります」


アキト達の方を見て言う。


「そうなのか。じゃあ手加減はしねえ。全力で行かせてもらう。準備はいいか?」


男は準備運動を終えると身構えた。


「いつでもどうぞ」


レクターは構えることもなく言った。

レクターが言い終えると同時に男は地の魔法である拳大の大きさの石を真っ直ぐの軌道で素早く飛ばした。

石はレクターが風の魔法で粉々にした。

かなりの速度でレクターに届くまでの約1秒の間の出来事だった。


「ちっ」


男は悔しそうに舌打ちする。


「早……」


ギャラリーからそのような驚きの声が聞こえる。

石の速度もさることながら、それに対応したレクターの速度も相当のものだ。


男は大小混ぜながら様々な軌道の魔法を飛ばすも、立ち止まったままのレクターの風の魔法によって全方位から来る石を迎撃していた。


(凄い……)


アキトは正直にレクターの魔法の使い方に感心していた。

レクターは飛来する石の軌道を目で見ず魔力を感じることで読み取り、待ち構えていたように現れた風の魔法で粉々にしてすぐ消える。

石の大きさから必要な風の威力を判断し、最低限の魔力消費で対応しているのだ。

レクターは平然としているが、男は息を荒くして魔力の補給を早めていた。


「はあ、はあ、小細工は通用しないって、ことか。だがなぜそっちから攻撃してこない!?」


「……私に一撃でも当てられるようになってからそう言ってもらいましょう」


「この……!」


男は更に大きな石を飛ばす。

風で石を破壊しようとするとこれまでと違う高い音が鳴り、石の中から鉄の塊が現れた。

音の違いは硬さの違う鉄に当たった音だった。

レクター自身の間近で石を破壊していたことが仇となったのか、頭の大きさくらいの鉄の塊が体に触れる寸前まで近付いていた。


(当た……)


レクターは鉄の塊を両手で挟み込むように受け止めた。


「は?」


勢いの付いた重たい鉄球を受け止めた。

しかも受け止めた場所から全く動いていない。

男もギャラリーも目の前の光景が信じられなかった。

例え身体強化されていたとしても、あの勢いの鉄の塊を受け止めたら体が後ろに押し込まれるはずだ。


「いま、どうやって……」


男は唖然としながらレクターに聞く。


「風の魔法と障壁の衣で勢いを弱め、身体強化して受け止めただけですが?」


レクターは平然と言った。


(障壁も使っていたのか)


アキトは風の属性を感じて、風の魔法を使ったのは気付いてはいた。

とはいえ、受け止める前まではかなりの勢いが付いていた。

風と身体強化だけじゃあんなに急激に勢いを殺すことは出来ないと思っていた。

障壁の衣は衝撃和らげる緩衝材のような役割がある。

それら3つを使って受け止める。

それだけでもレクターの凄さは見ている皆は理解出来ていた。

1人を除いては。


「?」


ヒートはよく分かってないのか首を傾げていた。

レクターが持っていた鉄の塊は持続が切れて消滅する。


「どうしました?まだ決着は付いてませんよ?」


レクターが俯いていた男に声を掛ける。

男は俯いたまま言う。


「俺の……」


その時だ。

レクターが何かに気付き、障壁の壁を張り後方から飛んできた何かが障壁に当たり弾かれ、床を転がる。


「針……」


振り向いてる間に男がニヤリと笑い、レクターに向かって大量の針を飛ばし、レクターに迫る。

レクターは全方位に障壁を張り、針は障壁に刺さる。

すると刺さった全ての針が爆発を起こした。


「キャッ!?」


「うわっ!?」


ギャラリーは予想外の爆発音に驚く。

男はギャラリーの驚く様子を見て満足そうに笑う。


「ははは、俺が火の魔法も使え、複合魔法も使えるとは知らなかっただろう!次は特大の爆弾くれてやる!」


爆発の煙でレクターの様子が見えないが、男はお構い無しに地の魔法で大きな岩を生み出し、火の魔法で岩を赤い爆発性の物質で覆い、巨大爆弾を作り上げた。


「いけぇ!」


煙に向かって爆弾を放った。

放物線を描いて煙の中へ入って行った。

爆発に備えてギャラリーが身構える。

だが、爆発音は一向に聞こえてこなかった。


「な、なぜだ?」


煙が晴れると、レクターの近くに浮遊する水の球があり、その中に爆弾が入っていた。


「爆弾を作るのは見事ですが、爆発の起因の1つである衝撃を加えることを運任せにするのはいけません。こうして防がれてしまいますから。地の魔法で動きのイメージを加えると同時に火の魔法で時間差で爆発することを加えていれば、水に包まれたとしても爆発したでしょう」


レクターが指導している間に水の中の爆弾は持続切れで消滅した。


「例えばこのように」


レクターも同じような爆弾を作り、男に向かって放った。


「なっ!?」


(攻撃すんのかよ!)


さっきの言葉は何だったのかと言いたそうな顔で前方に灰色の障壁を張った。

爆弾は障壁に当たり、床を跳ね、転がり、止まった。


(爆弾、じゃない?)


レクターの方に目を向けると、レクターの姿はなかった。


(居ない!?こういう時は大抵後ろだ!)


男は地の魔法で即席の鉄の剣を作ると、振り向き様に攻撃した。

だが、後ろにもレクターはいなかった。


(後ろにもいない!?どういうーー)


見回すとギャラリーが視界に入り、ギャラリーは上の方を見ていた。

男はつられて上を向くとレクターが男の障壁の上に立っていた。


「うおっ!そこにいたのか!」


男は慌てて後退し、レクターは障壁から飛び降りる。


「あなたの攻撃の仕方は大体分かりました。確かに色々指導すべきことがありますね」


「何もう終わった気になってんだ!まだ戦いは終わっていない!」


「いいえ、もう終わりです」


「何だ?まさかあんたが負けを認めると言うことか?」


「いえ、この勝負は私の勝ちです」


「俺はまだ降参していないぞ!」


男はレクターに魔法を使おうとした。

だが、魔法は出なかった。


「な……!?」


突如視界がぼやけ、立ち眩みがする。

剣が手から離れ、床に当たる前に消える。


「あなたの魔力の限界。つまり敗因はあなたの戦闘継続不能です」


「な、くそっ……。俺は、まだ……」


「これ以上無理を続ければあなたはいずれ死にます。誰よりも強くなる願望をこんな所で棄てるつもりですか?私は逃げも隠れもしません。再戦はいつでも受けて立ちますよ」


レクターは相変わらず淡々と語っているが、少しだけ感情が込もっているように感じた。


「……わかっーー」


言い終える前に男の意識が途切れた。

レクターは素早く駆け寄り、体を支え、ゆっくり床に寝かせる。


戦いが終わって、ギャラリーは散り、部屋を出て行く。

アキトが期待していたレクターの強さをあまり見られなかったが、それでも戦い方を見て収穫はあった。


(あのように風が使えるようになれば、フォスレーに勝てるのだろうか。いやきっと無理だろう。あの人の倍、いや3倍くらい強くないと……)


アキトは机の上に置いたままの入門書を手に取る。


(そう言えば、あの人はフォスレーと戦ったことがあるのだろうか?ロギアはフォスレーに対してどれだけの人を送り込み、どれだけの犠牲を出した?)


「おや、まだ居たのですね」


振り返るとレクターが男を背負っていた。


(ちょうどいいから聞くべきか?いや、今は……)


気絶している男を見て今聞くべきではないと判断する。


「あ、すぐ出た方がいいですか?」


「いえ、この部屋はしばらくは使う予定はないですし、片付けが終わるまでは戸締まりはしませんので。では私は用事があるのでこれで。あ、後ろの扉は閉めますね」


レクターはレバーを操作すると壁が音を立てて閉じていき、完全に閉まる前に早足で部屋を出ていき、扉が閉まると部屋の中はアキトだけの静寂な部屋となる。


アキトが部屋の中に残ったのは強くなる為の次の目標を決めておきたかったからだ。


(会得すべきは回復魔術。だが、会得するかどうかは俺次第、か。関連した動作をすれば効率が上がると言ってたな)


過去の戦いのシーンを思い浮かべる。


(やはり、一番厳しかったのはフォスレーの分身と戦った時か。回復が使えていれば、もっと良く立ち回れただろうか。それとも回復があると言う安心感が、保険の存在が、命のやり取りをする場において気の緩みになるのではないか?)


アキトが防具を身に付けないのにはこのような理由があった。

もしもの時の安全策がデメリットの方向に働くのではないかとの懸念があった。

頼らない、気にしないの気持ちで購入した腕当ても、正直実戦に導入するかまだ迷っていた。


(そう言えば資料室に魔法術のことが分かるものがあるんだったな。回復より優先すべきことがあるかも知れない。行ってみるか。場所は分からないからまずは一度部屋に自室に戻るか)


アキトは部屋を出る。


「ありがとうございました!」


「ん?」


部屋を出た途端に声が聞こえた。

その方向を見ると、そこにいた若い女性が廊下を左を曲がった先にいるであろう誰かに頭を下げていた。

講習室の部屋の閉まる音で、女がアキトを見た。


「あの!ちょっとよろしいでしょうか?」


女はアキトに声をかけ、近くに来る。


「すみません。質問をしたいのですが、時間今大丈夫ですか?」


「あ、ああ。少しなら」


「私はテアーノと言います。今新人の皆さんにロギアに入った理由を聞いて回っておりまして、良かったら聞かせて下さい」


「それならカイシスに聞けばいい。あいつなら知っている」


「あ、私あなたと同じ新人でして、カイシスさんに気軽に聞けるような立場ではないんですよ」


「ああ、そう、なのか?」


アキトはカイシスには遠慮なく不明点など気軽に聞いていた。

支部長であるからロギアの中の地位ではカイシスのほうが上ではあるが、アキトは特に気にしたことはなかった。


「それで……。いいですか?」


「ああ。入った理由は復讐をする為だ。その為にロギアを利用する。カイシスが利用してもいいと言ってたからな」


「復讐、ですか……」


視線を落として黙って考え込むテアーノ。


「もうーー」


もういいか?と言おうとした時、言葉に被せてテアーノは言った。


「それって楽しいんですか?」


「……は?」


まさかの返答に呆気に取られる。


(楽しいか、だって?少し考えれば復讐が楽しいものでないくらい想像出来るだろ?)


眉を潜めて低い声でアキトは答える。


「……楽しくないに決まってるだろ」


「ですよねっ!復讐なんてずーっと相手のことを憎んで、嫌なことずーっと思い続けて、苦しいんですよね?辛いんですよね?だったら復讐なんてやらなきゃいいのに」


「あ?」


あまりにも軽い口調の言葉に、アキトは怒りが込み上げ、顔がより一層険しくなり、半ばテアーノを睨み付けていた。

テアーノはまるで自分の世界に入ってるかのように語り始める。


「私思うんです!せっかくの一度切りの人生、楽しまなきゃ損だって。誰だって楽しい人生を送りたいはずです。だから私は人生を楽しむ為にロギアに入ったんです!きっと私と同じ考えの人がいるはずだと思ってこうして皆さんの目的を聞いていたのです。なのにあなたはあえて苦しくて辛い人生を選んでる。それが私には不思議でなりません」


テアーノは熱く感情的に語っていたが、言葉はアキトの頭にはほとんど入って来なかった。


「あんた、誰かに大事な人、友人や家族を殺されたことはあるのか?」


「え?いえ、ない、ですけど。で、でも想像は出来ます。きっと辛く苦しい思いをしたのだとーー」


「俺の辛さは同じ境遇の者でしか理解出来ない。想像で人の気持ちを分かったようなことを言うな。勝手に知った気になって、軽々しく復讐なんてやらなきゃいいなどと抜かすな」


アキトはフォスレーに向けるような暗く重く、鋭い怒りの表情でテアーノを睨み付けた。


「ひっ!?あ、うぅ……」


アキトは顔を見て、テアーノは身をすくめ、体を震わせ、 危険なものから離れようとする本能が働いて無意識に後ろに下がろうとして、足がもつれて尻もちを付く。

テアーノの怯えた表情で見上げる姿を見てアキトはしまったと言う顔になって顔を背けた。


(あっ。ああ、くそっ!)


アキトは背を向けて、関係ない人に感情を露にしたことを後悔し、反省する。


(だからって、この女には軽口を叩いた非はある。俺が謝るのは違う)


背を向けたまま、アキトは言う。


「……今の俺は死んでるようなものだ。復讐するまでは別の生き方を選ぶことは出来ない。復讐を終えた時に俺はやっと人として蘇ることが出来る。その時始めて別の生き方を選ぶことが出来るんだ。だから復讐に楽しいとか楽しくない言う問題じゃない」


そう言い残して、アキトはそのまま立ち去って行った。

残されたテアーノはしばらく放心状態だったが、ハッして俯いて呟く。


「……それでも私の考え方は間違ってない……」


立ち上がって今は誰もいない廊下に向かって叫んだ。


「私は間違ってないんだから!!」


「何がです?」


「うひゃあっ!?」


背後から声を掛けられて驚くテアーノ。

恐る恐る振り向くと、そこにいたのはレクターだった。


「何だ先生かあ。驚かせないで下さいよ~」


「それはすみません。講習に間違いがありましたか?」


「あ、さっきのは気にしなくて大丈夫です。あははははー!失礼します!」


勢いよく一礼するとテアーノは去っていった。




資料室に行く予定だったが先程のことで忘れて、自室に戻ったアキトはベッドに仰向けになっていた。

部屋に着いた頃には怒りは鎮まり、冷静になっていた。


(はあ……、まあいいや。さっきのことは忘れよう)


横になりながら手元にある入門書を捲り、改めて読み返す。

基本的な部分は知っているので読み飛ばし、応用の所に来る。


応用1、環境魔力利用

応用2、魔法変化

応用3、魔法中断

応用4、協力魔法

応用5、複合魔法


応用1は意識しなくても出来ていたことを除いては、どの応用も知らなかった。

タケルに聞いたことは本当に基本のものだったと知る。


(変化も中断も、戦いの最中でそんなこと考えられる余裕はなさそうだし、協力する人はいないし、複合するには別の属性使えなきゃ意味ないし……。とすると今の俺には関係ないな。目下は回復魔術か。魔術に関連した行動で効率が上がる、か。治したい怪我がないのにずっと願うことなんて出来ないわな。俺がいつだって欲しいと願っているのは奴への復讐のみ。こんなついでの願いで叶うはずないよな)


コンコンと叩く音に気付き、音がした方を見る。

そっちは部屋の扉がある。


「アキトさん!お届け物です!」


「届け物?」


アキトは部屋の扉を空けると木箱を持った笑顔の男性がいた。

男性には何となく見覚えがあった。


「ロギア防具店よりアキトさんが購入された品をお届けに参りました」


木箱を空け、中から腕当てを2つ取り出した。


(ああそうか、忘れてた。そういえば買ってたな)


宅配の男性が店に入った時に対応した店員だと言うことを思い出した。

腕当てを受け取る。


「何か不備がありましたらお越し下さい。またのご利用お待ちしております!」


店員は頭を下げ、木箱を持って立ち去った。

アキトは早速両腕に取り付けて確かめる。

サイズを測ったからぴったりで、激しく動かしてもガタツキはなく、動きの邪魔にもならなかった。


(重さは身体強化すればさほど気にならないだろう。気を付けるべきは防具を付けていると意識しないことだ。頼れば防御が疎かになる。障壁と同じで壊れてもおかしくないものを信用しない。攻撃には攻撃か確実に避けるかだ)


腕当てを外し、刀が置かれている棚の上の空いてる場所に置いた。


(そういえば、資料室に行くんだった……。いや、今はそんな気分じゃないな)


資料室へ行くのはまた後日と言うことにした。




そしてその日の晩。

カイシスからフォスレーの確かな情報が入り、翌朝の指定時刻に部屋に来て欲しい旨のことが端末から伝えられた。

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