魔法術講習・3
レクターの魔法術講習は更に続く。
「始めに自属性の魔法を習得することになりますが、次に別の属性の魔法を習得したいと思うことでしょう。ただ別の属性を使おうとなると、自属性とは異なる方法が必要となるのです」
レクターは黒板に棒人間を描き、頭部に火と書く。
「こちらは自属性が火さんです。火さんの中にある魔力は当然火属性で満ちてます。その火属性があるからこそ火の魔法が使えます。ですが別の属性を使う為には当然その属性の魔力が必要になります。我々生物は食べ物や呼吸などからあらゆる属性の魔力を吸収し、体内で自属性に変換します。その変換機能を自属性の火から他の属性に変換出来るようにしなければなりません。その方法は」
レクターは棒人間の周囲にいくつも氷の字を書いていく。
「習得したい属性の魔力をその身に受けることです。当該属性の濃い場所にいること。当該属性のミスタリアを所持すること。当該属性が自属性の人と近くに長い間いること。お勧めはしませんが該当魔力の魔法を受けても一応効果はあります。力の流れ、特徴、気配を感じ理解すること。理解を深めていけば自然と魔法使う時に変換することが出来ます。あ、こほん」
レクターは咳払いをしてからーー
「出来るようになるかも知れない、の間違いでした。別属性の魔法習得を必ず出来るとは限りないと言うことです。特に自属性が不利な属性の習得はかなり難しいものとなっています。いかに魔法を使うのが得意だとしても、自属性以外の習得が出来ない人もいます。なので複数の属性が使えるからと言って偉くはないですし、強いとは限りません。それを知っておいて下さい」
(必ずではないか。風一本で行くか他の属性も習得するかは、他の属性が習得出来るか試してからでも遅くはないか)
アキトの今後の強くなる方針が定まった。
「さて、ここからは魔法を更に強く、戦略に幅を効かせられる応用について説明をします」
応用1【環境魔力利用】
「世界には地域や場所によって特定の属性魔力が高い所があります。火なら高温地帯や火山周辺、水なら川や海、多湿地帯。風は文字通り風が強く吹き続ける場所、主に山の上などの高所や、谷など。その地域の魔力を利用して魔法を使う応用方法です。応用と言っても方法はただ普通に魔法を使うだけです。魔力は同じ属性のより強い魔力に引き寄せられる性質がある為、魔法を使うだけで勝手に吸い寄せられます。周囲の魔力が濃ければ濃いほど自身の魔力消費を抑えることが出来るのですが、濃い場所に長居すると魔力に当てられて魔力中毒となる危険性もあるので、魔力濃度が高いからといって安易には立ち入らないほうがいいですね。ミスタリアの魔力でも応用できます。では次、応用に入る前に……」
黒板横のレバーを下げるとアキトの後方から物音がして、振り向くと壁が右にスライドして開いていき、奥には今居る部屋より何倍も広い青白い空間があった。
「ここからは皆さんも実際に魔法を使いながら学んで頂きますので、あちらの部屋に移動して下さい」
レクターに着いて行く形で皆隣の部屋へ移る。
「この部屋は全体が障壁で覆われているので、ある程度の魔法なら当たっても大丈夫です。ではーー」
応用2【魔法変化】
「魔法が発動した後から、その魔法に変更を加えるというものです。先に発動した魔法を利用する為、魔力の消費を抑えられることが出来ますし、魔法自体を後から強化することも出来ます。では実演して見せます。皆さん私から少し離れて見ていて下さい」
レクターが3歩前に出る。
「先程お見せした返ってくる魔法に持続時間を少し長くさせて置きます。そうすると私に当たるように戻ってきます。その時に魔力を帯びた手を近付けます」
前方に水の球を放ち、しばらくしたらカーブを描いて戻って来る。
「そしてここで手を近付け、変化を加えればーー」
左側に飛んで来た水の球を右手で触れたか触れないかの距離に近付け、球のスピードを緩めないように一緒に体を1回転させると、手に張り付くように球も動き、手から離れた球は別の方向に飛び、壁に当たって消える。
「今のように魔法や威力をそのまま利用することが出来、魔力を新たに魔法使うより抑えることが出来ます。ただし注意点があります」
レクターは自分の前に水の球を浮かべる。
その球に手を近付けると球は形が崩れ、前方に散らばるように飛び床に落ちる。
「今のは手の魔力を込める量が多いとあのようになるのです。手にある魔力に水球の魔力が加わったことで変化させる前に別の魔法として発動してしまい、水同士が当たったのが今の結果です。逆に手の魔力が少なすぎると変更が不十分となり、イメージと大きく異なることになります。変更を加える魔法が強力なもの程、変更に必要な魔力も多くなります。どれだけの魔力で正確なイメージ通りになるかは何度もやって感覚を掴むしかありません」
レクターは手首にはめた機械の時計を見る。
「15分程時間を取ります。自信がない方は練習してみて下さい。奥に的があるので活用して下さい」
奥の壁には大小の赤の円がいくつも不規則に描かれている。
「充分回りに気を付けて、もしもの時の為に障壁を使える方はずっと張ったままで居てください。この応用に自信がある方は自由に時間を使って下さい。一時的に退室しても構いません。では各々行動に移って下さい。質問があれば聞きに来て下さい。あ、それとヒートさんはこちらへ」
「はい?」
ヒートはレクターに呼ばれ、他のほとんどが練習を開始、1人は退室して行った。
レクターはヒートに個人指導を始める。
「ヒートさんはまだ魔法を使いたてなので、まずは魔法を出す練習して下さい。先程火の魔法を使った際、火の熱さで痛がってましたね?」
「あー、はい」
暑さのことを思い出しながら返事をするヒート。
「火の魔法を扱う際には後程教える障壁という魔術を使うことで自身が放つ火の魔法の熱を防ぐことが出来るのですが、あなたは障壁を使うことが出来ない?」
ヒートが頷いたことを確認して話を進める。
「ですので、魔力を集中させるのは手のひらのすぐ近くではなく、少し離れた場所。大体このくらいですね」
指広げた左手を放つ手に、右手を拳の形で火に見立て、手のひらから拳1つ分開けた所に出すように教える。
「気を付けて慌てずゆっくり練習して下さい」
「はいっ!」
一方アキトはイメージして手から放つ魔法は苦手だった。
タケルから教わったのは基礎の部分だけで、その後はタケルが忙しくなったため独学で練習をしていた。
フォスレーに村を滅ぼされた後も試行錯誤を重ねたが、剣技を主に、魔法は剣技に乗せて放つ方がしっくり来たのだ。
剣技に魔法を組み合わせると、刀の動きがイメージの代用となるのだ。
だが、フォスレーの分身に全力で辛勝だった為、刀を使わない魔法もしっかり身に付けようと決めた。
左手でその場に留まる風の魔法を使い、右手で変更させようとするが、イメージ通りにはいかず、また左手に留めることも難しかった。
「風の魔法は扱いが難しいでしょう」
後ろからレクターが話し掛けて来た。
「風は常に素早く動き続ける特性がある為、他と比べて比較的扱い難い属性なのです。なので手の魔力を多めにし、変更すると言うより上書きするつもりでやってみて下さい」
「上書き……」
言われた通りにやってみると、風に変更を加えた時に威力は増し、少しイメージとずれたものの奥の壁に当てることは出来た。
「後は少しずつ魔力を抑え、最低限の魔力量で出来るようになれば。おや、あなた、魔法に魔法を当ててますよ」
レクターは他の人の指導に移る。
アキトは練習を再開しながら的をフォスレーの顔を思い浮かべて放つ。
(今やってることはお前からして見れば小さいことなんだろうな。だがそれでも一歩ずつ近付いているハズだ。必ず俺の手でお前を殺してやる!)
本気の魔力を込めて、前方に風の回転する刃を放つ。
風の刃はフォスレーに見立てた的の中央を捉えて消えた。
(あ、イメージ通り行けた……。なんだ、やれば出来るじゃねーか、俺!)
アキトは誰にも気付かれないように冷静を装いながら自身の成長を喜んだ。
こうして時間が経過しーー
「時間です!皆さん練習を止めて集まって下さい」
レクターの合図で皆は練習を止め、フォスレーの回りに集まる。
応用3【魔法中断】
「魔法を発動させた後に中断させ、魔力に戻すことで消費した魔力の全部とまではいきませんが何割か体内に戻すことが出来ます」
レクターは水球を浮かべ、手を近付けると水球は小さくなっていき、そして消えた。
「先程の変更と同じ要領で魔力に戻し、体に取り込むイメージしながら魔力を魔法に触れさせれば出来ます。変更が出来てる人には可能なはずなので練習は講習後に各自でやって下さい。
その時は魔法術が使えるトレーニングルームを利用して下さい」
応用4【協力魔法】
「複数人で協力して魔法を使うことで、一人では不可能な強力な魔法を使うことが可能になったり、魔力を節約することが可能です。ただし全員でイメージを合わせ、同時に発動しないと魔力干渉を引き起こして失敗するので難易度は高いです。魔力干渉については後で説明します。皆さんには私と協力してイメージの同調、協力する感覚を知って頂きます。ではまずあなたから」
レクターはアキトに手を向けた。
「え、俺からか」
「まず私が最初に風の魔法を使いますので、大きさや動きを覚えて下さい」
レクターは風の魔法を放った。
風の球体が真っ直ぐ前に飛び、壁に当たって散った。
使った魔法は初心者が序盤に覚えるような簡単なものだ。
「今の魔法を真似して使ってみて下さい」
言われるがまま魔法を使う。
「少し球体が大きく、中の風の速さも動きも違います。こうです」
手に持つように見本となる風の球体を出し、見比べながら見本に近付けていく。
(あんたが俺の魔法の真似すればいいんじゃないのか?)
と心の中でつい文句を言ってしまうが、これも練習の1つだろうと受け入れる。
「そう、それです。その魔法の状態を覚えて下さい。では右手を前に出して」
アキトは右手を前に出す。
レクターはアキトの右側に肩が触れるくらい近くに立ち、左手を前に出す。
「正面の的の中心を狙って3つのカウントの後に使って下さい。行きますよ?3、2、1、今!」
2人が同時に放つと1つの風の球体が現れる。イメージより大きく、より早く、的の中心に当たった衝撃で球が壊れて放出された風がアキトの所まで返って来た。
「ほお、一回で成功させるか」
「お見事、成功しました。同調する感覚、魔力が抑えられた感覚、分かりましたか?」
「は、はい」
アキトは驚いていた。
魔法を使う直前、右側にいたレクターがまるでもう1人の自分がいたような錯覚と2人の魔力が重なってぴったり合うような不思議な心地良さがあった。
それからレクターは1人ずつ協力魔法を使っていく。
協力魔法が上手く使えない人が約半数いたので、いかにレクターが凄腕で合っても無理なものは無理のようだ。
「先程話した失敗例の魔力干渉について説明します。魔力干渉は魔法術が発動する前段階である魔力集中時に、別の誰かによって別のイメージで魔力を注がれると、本来なら発動条件に満たしている魔力量を越えていても発動を疎外されてしまいます。もし自身の魔力より相手が大きく上回った時、相手に発動権利を奪われ、その時蓄えられた魔力分の強力な魔法術が発動します。しかもその際の多くは目の前で発動されることになるので、かなり危険な状況になるでしょう」
レクターは部屋の中央に向かって移動し、振り返る。
「干渉の部分のみをお見せします。左右の手で違う魔法を使おうとすると干渉が発生します」
両手を自分の体の前で魔力を集中させると魔力が肥大化していく。
魔力は目には見えない。
そこにあると体で感じるだけだ。
(火と風だ)
アキトは火と風の魔力が押し合っているように感じた。
音の無いせめぎ合い。
だがアキトの目には風の竜巻と業火が激しく押し合い、絡み合う壮大な光景が見えた。
その光景はフッと灯火に息を吹き掛けたかのように消え、元の光景に戻る。
「干渉は戦術の1つではあるのですが、推奨しません。干渉する前に発動されてしまえば、干渉が失敗となって手痛い反撃を受けるでしょう。また干渉のし合いにも限度があり、魔力が臨界点に達すると魔力そのものがその場で爆発、自身も巻き込まれかねない強力なものとなるからです。干渉されたら諦めて別のことをした方がいいでしょう。次の応用5に行く前に、少々お待ちを」
レクターは講習していた部屋に戻り、教壇の横に置いてあった青白いの箱を持ってきて、床に起き、箱を開ける。
中から灰色の包装紙に包まれたものを取り出して言う。
「携帯魔力補給食です。万能型なので魔力補給効率は減少しますが、その分大量に生産出来ます。ロギアの作戦任務中はよく食べることになります。今から配りますので一袋ずつ取り、今のうちに食べて慣れておいて下さい」
(万能型?)
レクターは補給食を手渡していき、アキトは疑問に思いながら受け取る。
「あの、すみませんが」
レクターが前に来た時、女が言葉を発した。
その女はヒートが魔法術が使えないことに対して質問していた女だった。
目付きが鋭く、レクターを睨んでいるのか判断しにくい顔で言った
「私は魔力補給食に拘りがありまして、私が用意したもの以外口にしたくないんです。どうしても食べなきゃダメですか?」
「いえ、強制はしません。選択は皆さんの自由です」
「では、そういうことなんで」
女は振り返り背を向ける。
レクターは特に気にする様子もなく、他の人に配っていく。
(拘りか。俺は魔力補給出来るなら何でもいい)
アキトには拘りがなく、受け取った包装紙を破り、中から乳白色の長方形の塊が出てきた。
口に運び、噛み潰し、飲み込む。
体の中に入った食べ物は時間を掛けて魔力となり、魔力は血によって全身に流れる。
配り終えたレクターは説明を続ける。
「各属性の補給食を希望する方は食堂で申請して下さい。ですが、属性によっては生産不可である場合もあるので、その点はご注意を。では食べながらでいいので次に行きます」
応用5【複合魔法】
「相性の関係がない属性を同時に発動し組み合わせることで、魔法自体に変化を加えることが可能になります。火と組み合わせるなら風、地、雷のいずれかということです。もし相性と関係がある属性同士を組み合わせた場合は、有利のほうに不利がかき消され、残った有利属性の魔法は弱まり、良いことは何一つありません。では実演してみます」
レクターは壁に向かって両手を伸ばす。
「左手で火を、右手で地を同時に発動します。イメージは共に重なり混ざり合うように同じ動きでーー」
両手から放たれた魔法は火の玉に地が混ざった状態で現れ、壁に当たる。
火と地が混ざるとドロドロで、壁に粘り付き、壁をゆっくり垂れて落ちていく。
「火と地を組み合わせると持続が長くなる性質を持ち、かつあのように粘性があるので、当たった後も継続的にダメージが与えられるのです。また2つの属性の魔力量のバランスを変えれば魔法の形も変化します。異なる属性同士の動きを完全に一致させることは不可能です。ですがなるべく合わせなければ先程の干渉しますし、イメージ通りにならないことにもなりますので、限りなく近いイメージをしましょう」
レクターが説明してる間に、レクターの放った魔法が消滅する。
「慣れない内は両手で属性を分けて使い、慣れれば片手で同じところから同時に使えることも出来るようになるでしょう。なお、複合は協力魔法でも可能ではありますが、魔力配分も合わせなくてはならない為、成功確率はかなり低く、わざわざ協力するくらいなら別々に魔法使ったほうが良いまであります。複合魔法についてはこの場は知識として覚えておいて下さい。
はい、では魔法の講習はここまでです。次は魔術についての講習を始めます。元の席に座って下さい」
皆は部屋を移動し、その後ろをレクターが付いていくように移動する。
その時アキトは複合魔法について思うことがあった。
フォスレーの分身と戦った時に水を凍らせたことだ。
その2つの属性には相性の関係があるので、あれは複合魔法なのか聞きたくなった。
「あの、聞きたいことあるんですが」
レクターの背中に話し掛けると、レクターは振り返った。
「何でしょう?」
「以前、水の魔法を氷の魔法で凍らせるのを見たことがあるのですが、あれは複合魔法なのですか?」
「ああ、それは複合魔法とは違いますね。2つが組み合わさっているのではなく、水を氷に変化させているので、属性の相性関係で衝突した際に起こる現象の1つ、と言った所です」
「ああ、そうか」
(確かに組み合わせてはないか)
言われて複合と違うことを理解出来たアキト、
「ただ、その現象を上手く利用した戦術の1つですね。火と水が衝突すれば蒸気となって姿を隠すことなど出来ますから」
レクターは声を小さくして呟くように言う。
「ふむ、この現象利用も入門書に加えるべきか。いや、それとも現象のみにすべきか?とはいえ、そうなると組み合わせだけで何通りもあって長くなったり、そもそも自然でも起こる現象をわざわざ説明しなくても、そのくらい何となく想像出来るんじゃないのか……」
レクターは自分の世界に入ったようで呟きが止まらない。
「あの!」
アキトが声を掛けるとハッとしたレクターはアキトを見た。
「他にも質問が?」
「あ、いえ、ないので講習の続きを始めませんか?皆、待ってます」
周りから皆が席についてこちらを見る視線が集まっていた。
「おっとすみません」
振り返り、早足で教壇に戻るレクター。
アキトは座っていた席に付く。
「ではこれより魔術について説明を始めます」




