魔法術講習・1
魔法術の講習当日。
アキトは早めに講習が行われる部屋に来た。
中は長方形の長い机に椅子が3つが1セットでいくつも並べられた部屋だ。
アキトが部屋に入ると3人がバラバラに椅子に座っていた。
人との交流は極力避けてた為か、3人とも見かけた記憶はなかった。
(あれは、確かウォーディンって種族だっけか?)
3人のうちの1人、一番後ろの席に座る人物目立ち、目に止まった。
灰色と白色が混じり合った体毛で覆われて、体全体が大きく、椅子や机が小さく感じられた。
目を閉じ、呼吸で肩が小さく上下していた。
ウォーディンはかつて魔獣の分類だった種のひとつが大きく進化し、会話をし、他者に配慮出来るまでの知恵を身に付けた。
人と分類してもいいと認められたのだ。
(初めて見たな。あれが知恵を持ち、言葉を発するようになった獣の進化した姿か)
アキトの視線を感じたのか目を開けてこちらに顔を向けた。
(おっと)
顔を背けて、黒板に書かれた文字が見える。
↓こちらの資料を取ってから、ご自由にご着席下さい。13時に講習開始です。
矢印のほうを見ると机の上に魔法術入門の書と書かれた資料があった。
何枚かが紐で1つに結ばれていた。
資料を持って周囲に誰もいない最後列、ウォーディンの反対側の一番左端の席に座る。
資料をめくると、魔法術のことが色々と書かれていた。
(これは、多分講習でやることが書いてあるんだな)
その後も部屋に続々と人が入って来て、トレーニングルームで会ったヒートも入って来た。
ヒートがアキトを見つける前に気付いたアキトは、とっさに顔を見られないように顔を逸らした。
初めて会った時以来会っておらず、気軽に話し掛けられるのを避けたかった。
ヒートはアキトに気付かなかったのか、中央一番前の席に座った。
集まった人は約15人程度。
見た目若い人が多かった。
時間となり、講師らしき人物が部屋に入って来て教壇に立ち、こちらに向かい合った。
男性で黒の短髪に黒のスーツ姿、細身で長身、丸眼鏡を掛けていた。
「皆さんこんにちは。講師を務めますレクターです。新しくロギアに入られた皆さんに向けた魔法、魔術、その2つ合わせて魔法術と呼びますが、その魔法術や、元となる魔力とは何かなどを基礎から順に学んで行って欲しいと思っております。既に基礎を知ってる方は復習のつもりでお付き合い下さい。また途中で疑問がありましたら、言葉を遮っても構いませんのでその場で遠慮なく聞いて下さい。分からないままにしておくと講習に身が入らなくなりますから」
淡々と無表情のまま説明していくカイシス。
「ではまずーー」
「あの!その前によろしいでしょうか?」
髪、衣服が黒ずくめで、アキトから見たら全部黒、上げた手だけ白い女性が声を発した。
「こちらに書かれていることが今回の講習の内容の全てですか?」
「ええ。そうです」
「私、書いてあることを全て知っていたので、すみませんが退室します。講習止めてしまい申し訳ありませんでした」
そう言って女は立ち上がり入門書を置いて出て行った。
「では講習を始めます。まず魔法術の元となる魔力についてです」
何事もなかったように黒板に白い棒で魔力と書いて説明を始めた。
「魔力とはこの世界に存在する全て。固体、液体、気体、そして生命体、それら全てに含まれている目には見えないもの、それなのに力が感じられるもの。
それが魔力です。魔力は魔法術を使う以外にも、生命体としての命を維持し続ける為に必要不可欠なものです。なので己の限界まで魔法術を使うことは命に関わることになるので注意が必要です。体内にある魔力の容量を指し示すものを魔力の器と呼び、器は体全体を指し、器の大きさは保有出来る最大値の魔力量を示し、器に入った液体は現在の魔力量を示します」
黒板に器を描き、その中に波線を描く。
「魔力をいくら体内に補給したとしても器の容量を越えて魔力を保有することは出来ず、過剰分は体外に排出されます」
器に新たに入った魔力が器から漏れ出るような絵を描く。
「より強い魔法術を使う為には魔力の器を成長させる必要があります。一番効率よく成長させるには魔力を消費した状態で魔力を補給すること。そして補給する時の魔力が濃いほど成長します。一番魔力が濃いとされているのが魔力の結晶であるミスタリア。次点で魔力を多く有する生命体が死んだ時に周囲に放つ魔力とされ、ロギアでは獣狩りを推奨しています。魔力の濃い地域へ赴くのも1つの方法ですが、我々ロギアにはそのような時間はありません。ですので皆さんには仕事をこなしながら成長してもらいます」
白い棒を黒板に向け、引き上げるように動かすと黒板から白い絵の粉末が取れて、白い棒に向かって飛んでいき、白い棒の先に集まり固まった。
「うおっ!?なにそれ!?」
その光景を見て声を上げたのはヒートだった。
レクターは視線をそのままに疑問に答える。
「これは魔法の一種です。ではこれからその魔法についての説明に入りますがその前に、魔法を使う為には自身の体内にある魔力を感じ取ることが出来なければなりません。魔力を感じ取ることが出来ない方はおられますか?」
「はい!」
元気よく手を上げたのはヒートだった。
ヒート以外手を上げる者はいなかった。
「もしや、あなたがヒートさんですか?」
「はい、そうですけど?」
ヒートの顔を見て頷くレクター。
「ふむ、なるほど」
「あの、ちょっといいですか?」
席の中腹、ヒートの右後方に座っていた女性が挙手する。
「はいどうぞ」
「ここにいる人達ってみんなロギアに入っているんですよね?」
「ええ、その通りです」
「ロギアに入るには魔法術が使えないと入れないって聞いたんですけど……」
そう言ってヒートの方を訝しげに見る。
「え?そうなの!?え何で俺合格したの?」
ヒートは初耳だったようで驚いていた。
(そうだったのか)
アキトは誘われた身だから、当然知らないことだった。
「2年前ならそうでした。ですが入社テストの合格条件が変更され、魔法術が使えなくとも他の能力が秀でていればロギアに入ることが出来るようになったのです」
「へえ、そうなんだ。あ、いや、そうなんですか」
今まで敬語を使っていなかったことに気付いたのか訂正して、そして小さく声でーー。
「俺、他に秀でてる所あるの?」
(それは俺も知りたい。あいや、別にどうでもいいか)
聞こえたことにアキトはとっさに思ったことを訂正する。
「ですが、魔力を感じ取ることが出来なければ魔法術を使う素質はないので、正直この講習を受けても意味がないものになりますね」
「ええ!?そんなぁ!?でもあの、魔力を全く感じないわけじゃないんです!多分、ですけど。感じてるものが魔力なのか違うものなのかよく分からないと言うかー」
「ふむ。まあ試してみましょう」
レクターはヒートに近付く。
「利き手このように前に出して」
レクターの真似をして右手を前に出す。
「目を閉じて」
目を閉じる。
「これから私の手をあなたの手に近付けます。何でもいいので何か違和感を少しでも感じたらすぐに教えて下さい」
「は、はいっ」
ゆっくり手を近付ける。
2人の指が触れる寸前でヒートは声を上げた。
「あっ!来た!今、真ん中の指に何か触ってる気がする!」
中指には指一本分の隙間があり、触れてはいなかった。
「どんな感触がしますか?」
「んー、寒いような、冷たいような……」
「なるほど」
レクターは手を離す。
「目を開けていいですよ」
「あ、はい」
ヒートは目を開け、心配そうな顔をしてレクターを見て言う。
「それであの~……」
「一応素質はあるようですね」
「やった!」
花が咲いたように笑顔になる。
「素質があるとは言え、使えるかどうかはまた別問題ですが」
「えぇ?」
咲いた花はすぐに萎んだ。
「だってさっき素質がなければってーー」
「魔力を感じ取るのは実際に魔法が使える前のそのまた前の段階です。次は魔法の前段階を確かめます。次は自分の体の中にある魔力を感じ取らなければなりません。他者の魔力を感じ取ることが出来たのだから、きっと出来ます」
応援してくれたことを嬉しく思い、やる気を出す。
「よぉ~し!さっきの冷たい?感じを見つければいいんすよね?」
「いえ、違います。私は先程あなたには氷の魔力を触れさせました。ですがあなたの自属性は火です。自属性の説明はまた後程します。火に近付いた時や日差しを浴びた時の熱さの感覚は分かってますね?その感覚を体から感じ取って下さい。」
「体から……」
目を閉じて集中する。
「体のいたる所に魔力は分散しています。分散した魔力を1つに集めることを意識すれば感じやすいでしょう」
「魔力を集める……。なんだろう、この辺が暖かい……」
胸に手を当てて言う。
「ではその集まった魔力を右手に向かうように集中してみて下さい」
「手に?こう、ですか?」
レクターはヒートの右手を見る。
「そして手を前に出して火が出てくるイメージをするのです!」
「は、はい!」
ヒートの手の平から小さな火が現れた。
「あっ、出た!っであ゛っづ!」
火の熱に驚き、手を振ると火はすぐ消えた。
「これが魔法です」
「えっ、これが!?え?あれ?さっきーー」
「いい感じだったのでどうせならとそのまま魔法を使うとこまでやってみることにしました。見事に魔法が使えましたね」
「やった、やった!初めて使えたー!!」
全身で喜びを表すヒート。
「でも凄く熱かったですよ?みんな我慢して使ってるんですか?」
「いえ、さすがにそれはないです。火の魔法と自分の間に後に説明する障壁と言う魔術を用いることで熱くなくなります」
「へぇ」
「はい。ということで魔法について説明します」
教壇に戻り、黒板の左上に魔法と書くレクター。
レクターが振り向き、立ち尽くしてるヒートに気付く。
「ん?着席して下さい?」
「え?あ!はい!」
そういえば自分だけ立ってることに気付き、ヒートは慌てて席に座った。




