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そよぐサザンカは葉を伸ばす  作者: ヨダカ
17/26

神様

ニュースキャスターは不可解な言葉を言った。真冬の雪国で、一つの街が崩壊したと言うのだ。街の人全員が殺され、建築物も破壊されていたという。

国はこれを緊急事態と捉え、テロ組織が関与していると見て緊急捜査本部を設置した。

「そこでは大規模な魔波の歪みが確認され、魔法庁は集団陣形魔法を使ったとの見解を示しています」

「…ザクロさん、どう思いますか」

ムージュは椅子に腰掛けながら、上司であるザクロを見た。ザクロは支給された装備の手入れをしながらゆっくりと言った。

「まぁ、特別律魔隊である我々からすれば由々しき事態だが、…まぁ、我々は出された任務をこなせばいいんだ」

ムージュはじれったそうに目線を落とした。

「国の為に動こうとは思わないのですか」

「任務をこなすのが国の為になるだろう。憤る気持ちもわかるが、焦るな」

なだめてから、ザクロは立ち上がった。

「これからその件について、これから他の部から人が来るんだ。準備しておけ。名前は確か、ルビーとガーネットとか言ったか。いい名前だな」

ムージュは思案するようにテレビを眺めている。ニュースキャスターはこの事件について、更に詳しく話を続けている。

「専門家の調査の結果、現場からは特異な反応が見られたようです」



「それは悪魔の魔法のみが持つ不滅増幅という反応で…」

インターホンがなった。

ドロイトはそれを聞くと安心したように立ち上がって、玄関へと駆けていった。

覗き穴を見ると、そこにいたのは灯葉ではなく獣人だった。

落胆しながらもドロイトはドアチェーンをかけ、扉をゆっくり開けた。

「何でしょう」

ドロイトはまず、その容姿を見て驚いた。やつれ果てて、亡者のような表情を浮かべていた。

「私は、ルスバというものです。貴女に用があって来ました」

「私に…」

ドロイトはルスバの心を見た。悪意、嘘といったものの類は見られず、そこにあるのは切実な願望のみだった。

「一枚、絵を見てもらいたいのです」

ルスバは布のかかった絵を地面から持ち上げた。ルスバはそのまま緊張した面持ちで、絵画から布を取り払った。その様は顔にかかったベールを払うようで、甘美な味わいがあった。

その絵は、楽しかった。皆が笑って、そこにいること自体が幸せだとでも言うかのように、笑っていた。今のドロイトの状況とは真逆だった。

幻想的な街並みの中にいる。一定の間隔をおいて街灯が立ち、自然と家屋とが共存している。斜め上から日光が降り注ぎ、木漏れ日を作り出して…

ドロイトは目を凝らした。

日光が発射される空の中に、何か歪なものがある。いや歪というよりも、それはむしろ整合のとれた美術品のようで、とても美しかった。

否、美しくない。全く美しくない。これはもうめちゃくちゃで、子供の落書きのようだ。

否、でも…

正反対の印象が入り乱れ、ドロイトの目はそのよく分からないものに釘付けになった。

そこへ、声が聞こえた。

「周りの風景を見てみてください」

ドロイトは言われるがままに、先程見たはずの風景を見返した。

先程よりも、断然鮮明に見える。木々の葉っぱの一つ一つが、影の細かさが、人物の瞳孔さえ見える。

何もかもが現実の世界と同じく、生きている。生きている…

ドロイトは倒れそうになった。あまりに不気味で、目をそらしたくなった。しかし、この絵はそれを許さなかった。

そこへ、また声が聞こえた。

「ドロイトさん、覚えていますか」

ドロイトはハッとして目の前の獣人を見た。


「フルセルを」



フルセル

その響きを、私は何処かで…




どこまでも暗い吸い込まれるような漆黒が明かりが灯る前の宇宙のように遠のいて更に広がって広がって限界という言葉の実感が無くなってしまうほどにその世界は限界からあまりにも遠い位置に座していた。

冷たい世界が衣服のように体にまとわりついて鳥肌が止まらなかった。

あ。

あれだ。

眼の前に、あのよくわからない何かがいる。

「もう一度お聞きします」

あの獣人が、私に何か言っている…

「貴女はフルセルを覚えていますか」

フルセル。

鐘のような音色が駆け巡って…

あぁ。 

お父さん。

お父さん…

あの街並みが、あれは私達の…

…灯葉君は…?

唯一、本心を出すことができた人間は…?

「…覚えています」

ルスバは満足気に頷き、「何か」に向かって語りかけた。

「どうです、もうこれでおしまいにしませんか」

「何か」には顔がなかった。だから表情は見えなかった。しかし、否定の意を示しているのはわかった。

獣人は驚いたような表情を見せた。

「そんな、まだ駄目なのですか」

次の瞬間、「何か」は動いた。

それが動くだけで頭が割れそうになる。

獣人は口を開いた。それは絶望の証拠だった。

「あ」

灯葉君。

「灯葉君、どうしたの」

私は震えていた。

「ね、どうしたの」

灯葉君は立ち上がった。

「灯葉君、どうしたの」

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