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やがて英雄になる  作者: 久我尚
第一章 魔術学院 前編
13/42

13 研究室

 日が沈み、先生が来た。会議の開始だ。


 「えっと、お前たち仮面は外さないのか?」

 「外さない」

 「そ、そうか」


 4人も部屋にいるというのに部屋は静かなものだった。ドロシーは困っている。ティアとフィアは仮面のせいで表情がわからないけど、不機嫌なのはわかる。俺はいつも通りだ。となると仕切るのは俺だな。


 「まず最初、前提として確認しておきたいことある人いる?」

 「あ、私からいいか?」

 「いいよ」

 「お前ほんと敬語使う気ないな。まあいいけど。で、確認なんだけどお前たちは全員聖教国の執行者ってやつでいいんだよな?」

 「うん。誰にも言わないでね」

 「ああ。そこは安心してもらっていい。念のためギアス結んどくか?」

 「いやいい」


 できないから。というのは言わないで話を進める。


 「ティアとフィアは何かある?」

 「アンゲルスとは関係ない人物と協力する。君のその意志は変わらない?」

 「変わらない」

 「ならいい。私たちから言うことはない。私たちは君に従う」


 ティアは何も言ってこなかったけど、抱いている感情はともかく意見はフィアと同じだろう。話を進めていく。


 「それじゃ先生と俺たちは協力していくってことで」

 「私は悪魔を探すのを手伝えばいいんだよな?」

 「そう。殺すのは俺たちでやる」


 殺すのはどうとでもなる。問題はそこに行き着くまで。


 「あの変な武器効くのか?」

 「銃ね。当たれば相当ダメージ与えられるはず」

 「おい、お前まさか使ったのか?」


 ここで初めてティアが口を開いた。俺に対しての確認だ。


 「使ってない。昨日使ったのはノレアにもらった方。アレは疲れるからしばらく出す気はないよ。場合によっては使うけど」


 銃と呼べる武器はもう一つある。そちらの方が威力は高いが、問題がちょっとある。できれば使いたくはないけれど、悪魔が相手だ。状況によっては使わざるを得ないだろう。


 「で、早速だけど一応聞いとく。先生、悪魔の居場所に心当たりは?」

 「ない。あったら昨日の時点で話してる」

 「は? だったらこいつ役に立たなくない?」

 「口悪いなぁ……」

 「一応って言ったでしょ。元々そこは期待してない」

 「こいつも遠慮がないよなぁ……」

 「先生、悪魔がいてもバレないような場所って校舎にある?」

 「ないだろうな。ほとんど魔術による監視の目があるはずだし。強いて言うなら研究室だな」


 研究室。エイデンが口にしていた単語だ。


 「ナルダッドの3つの塔、そして本校舎にはそれぞれ地下が存在してる。そこにあるのが魔術研究室だ。あそこは魔術による監視はないし、警備の巡回もない。完全に外と遮断された場所だよ」

 「ならそこかな」

 「でも、今は全部埋まってる。空いてる場所はないぞ」

 「『契約』してる奴がいるだろうからそれはあいつが研究室にいない理由にはならない」

 「契約って、悪魔とか?」

 「そう」


 契約とは、他の種族に代償を払うことで何かをもらうことができるというこの世界に古くから存在するシステムだ。今は大して使われていないみたいだけど、大昔は悪魔やら天使などの上位の存在に何かしらの代償を払って魔力や知識得たり、あるいはその悪魔本人に直接なんらかの協力をしてもらうなんてことが結構あったらしい。

 かくいう俺もティアたちと契約している。フィアのように何もない空間に穴を開けて武器を取り出すことができているのはそのおかげだ。が、本人同様の規模で能力を発動することはできない。人1人が通ることのできる穴を作るのは俺には無理だ。だから昨日はわざわざフィアに外への道を作ってもらった。


 「あり得ない。悪魔に力をもらうなんて……」

 「あり得なくはないでしょ。世界の真理にたどり着くために魔術師が悪魔と契約するっていうのはよくある話だったみたいだし」

 「確かにそうだがそれは昔の話だ。悪魔と契約する危険性を知らない者はここにいない。わざわざするわけがないんだよ」

 「…………」


 いや、それも違う。危険だから手を出さないというのは筋が通っているが、絶対ではない。危険でも手を出す者はいる。


 「……とりあえず研究室を見に行こう。どんなところなのか実際に見たい」

 「見たいってお前、魔術師の研究室はその魔術師だけの空間だ。そう易々と入れてもらえるものじゃないぞ?」

 「それをなんとかするのが先生の役割」

 「教員のできることにも限度があるんだぞ……」


 頑張ってもらおう。


 「先生は研究室貰ってないんですか? 貰ってるなら楽だけど」

 「私は貰ってないよ。新参だからな。最低でも10年以上はここに勤めてないと研究室は与えられない」

 「役立たずですね」

 「もうなんなのお前ら。私をいじめるためにここに呼んだの? 泣くよ?」

 「それじゃ行こう」

 「聞いてないし。もうヤダ……」


 俺たちは部屋を出た。目指す研究室は決まっている。

 

******

 

 アウィスの塔の地下へと続く螺旋階段を下り、辿り着いたのは年季の入った扉の前。この先が研究室のようだけど、中から魔力は一切感じられない。不在かもしれないが、確認しておこう。俺は扉をノックした。


 「…………」


 反応はない。変わらず魔力の反応も感知できない。


 「いないか」

 「どうするんだ?」

 「どうしよっか。先生、鍵はない?」

 「ない。というかそもそも研究室に鍵はついてない。でも部屋の所有者以外にここの扉は開けられないようにはなってる」

 「なるほど」


 扉は開けられない、か。でも部屋に入る方法はある。フィアにゲートを──


 「──誰だ。人が寝てる時に」


 扉が開いた。顔を覗かせたのは明らかに寝起き顔のエイデンだった。


 「あー、こここいつの部屋か。そういや言ってたな。研究室がどうのこうの」


 そう、俺たちが今いるのは副寮長であるエイデンの研究室の前だ。


 「ちっ」


 目が合った瞬間、舌打ちと共に扉が閉められた。

 扉越しに交渉しよう。


 「中入れて」

 「断る。というかテメェもう関わらないって話だろうが」

 「それはそっちから関わらないって話でしょ。俺から関わる分には問題ない」

 「めちゃくちゃ言いやがって……」

 「早く開けて。こっちには先生がいるよ」

 「そ、そうだぞー。早く開けろ、ヴォルドゴアー」

 「なんでそんな弱気なの?」

 「だってお前……怖いだろ、ヴォルドゴア」

 「何が?」

 「顔」

 「そっか」


 怖いなら仕方ない。


 「……なんで教師までいるんだ」


 教員がいると聞いてか、流石にエイデンが顔を見せた。


 「とりあえず中入れて」

 「…………勝手にしろ」


 承諾してもらったので中に入る。

 研究室というから魔術に関わる器具だとか本だとか色々あるものだと思っていたけれど、広いだけで中には特に何もない。あるのはソファ一つ。


 「いないな。いないよな?」

 「いないよ」


 悪魔の気配はない。ここにはいないだろう。


 「なんでこんなに部屋に何もないの?」

 「オレは研究なんてしねぇからな。機材も資料もいらねぇ」

 「じゃあ何してるの?」

 「寝てる。ここは誰も来ないからな」

 「もったいな」

 「どう使おうがオレの勝手だろうが。それよかテメェらなんの用だ。教師まで連れて来やがって」

 「研究室の中がどうなってるのか知りたかったから先生に頼んで来てもらった」

 「なんでオレのとこなんだよ」

 「近いから」


 一番近い研究室はここだ。別に他の所に行ってもよかったけど、初対面じゃないエイデンの方が色々楽だと判断した。


 「先生、他の研究室も構造は同じ?」

 「そのはずだ」

 「わかった。ありがとう」


 研究室の中がどうなってるのかは知れた。ここに悪魔がいるとは思ってなかったし、構造を把握できただけで十分な収穫だ。


 「──で、実際はなんなんだ」

 「実際って?」

 「ここに来た理由だよ」

 「言った通りだけど」

 「な訳があるか。お前魔術の研究なんて興味ないだろ。オレと同じだ」

 「…………」


 鋭いな。どうしよ。


 「先生、戻ろう。知りたいことは知れた」

 「え? もういいのか?」

 「うん」

 「いや、だって悪魔の手がかりは何も──あ」


 慌てて口を押さえるドロシー。が、そんなタイミングで押さえたところで意味はない。一番重要な単語を既に口にしてしまっている。


 「悪魔……悪魔だと? ククク。なんだよ、面白そうな話じゃねぇか」

 「おい、やっぱこいついらなかっただろ」

 「ごめんてぇ……」


 困るな、これは。


 「聞かせろよ。悪魔ってなんのことだ?」


 ずっと不機嫌そうだったのに、初めて出会った時ぐらい楽しそうな表情をしている。

 ドロシーの時は別によかったが、エイデンに話したところでメリットがあるとは思えない。話す理由がない。でも知られてしまった。問題はそこだ。


 「話してもいいと思う。全部ね」


 意見を聞こうと視線を向けたところ、フィアからの提案された。俺にはメリットがわからないけど、フィアのことだ。何かしらの考えがあるんだろう。


 「俺たちは聖教国から来た」

 「は?」

 「ここに異端がいるらしいから。で、悪魔を発見した。けど逃したから探してる」

 「…………ちっ、聞かなきゃよかった」

 「私たちは聖教国の正式な組織から派遣されてる。手伝ってくれるでしょ?」

 「クソ女……」


 フィアが一枚のコインを見せながら放った言葉によってエイデンはまた不機嫌になった。あれは確か戦う時にエイデンがフィアに投げつけていたものだ。見たところ正教国で使われているものではないが……。


 「な、何がどうなったんだ?」

 「俺もわからない」


 俺もドロシーと同じだ。何もわかっていない。けど、フィアの狙い通りなったらしい。エイデンは聖教国と何らかの繋がりがあるのかもしれない。後で聞いてみよう。


 「手伝うっつってもオレは悪魔のことなんか何も知らねぇぞ」

 「悪魔と契約してる魔術師がいると思うんだけど、心当たりない?」

 「だから知らねぇよ。他人のことなんて興味な──いや、そういうことか……」

 「どうかした?」

 「悪魔との契約者はアウィスにいるのか?」

 「いや、そこは確定してない。ただ悪魔を隠すことができる魔術研究室を使ってる誰かだとは思ってる。だから一つ一つ地道に探してく」

 「ならまずここの寮長のとこに行け」


寮長。そういえば会ったこともなければ、顔を見たこともないな。名前すら知らない。


「契約者って確証があるのか?」

「確証はねぇよ。けど、元々表に出てくるような奴じゃなかったけど、ここ最近は以前の比じゃないくらい研究室にこもってる。2ヶ月ぐらい姿を見てねぇな」

「どんな人なの」

「陰気な野郎だ」

「強いの?」

「寮長っての基本的に強い奴がなるようになってる。気に食わないがあいつはオレよりは強い。あれは魔術の天才だ」


 プライドの高そうなエイデンが天才と言うほどなら相当すごいんだろう。俺たちは魔術に関しての基本的な知識はあっても根本的に魔術師じゃない。寮長が契約者でもそうでなくとも魔術に精通しているのなら会ってみる価値はありそうだ。有益な話を聞けるかもしれない。


 「名前は?」

 「モルティス・リュディールだ」

 「……リュディール」


 話が繋がってきたかもしれない。

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