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やがて英雄になる  作者: 久我尚
第一章 魔術学院 前編
12/42

12 治癒魔術

 まず結果として、ドロシーは俺たちの異端探しを手伝ってくれることになった。問題はその後、待ってた2人にこのことを話したら反対された。フィアは別にお任せって感じだったけど、ティアがすごい嫌そうだった。俺たち以外と関わるのを嫌う性格なので分かりきってはいたことではある。今日は集まって話すのでそこでなんとかドロシーが協力者になってもらうことを納得してもらおう。


 「シンさん」

 「なに?」


 今日最後の講義が終わり、早速集合場所である俺の部屋へと帰ろうとしていたところで、ルイに呼び止められた。


 「時間ありますか?」

 「うん。ある」


 集合時間自体は目立たないように日が沈んだ後だ。余裕は全然ある。


 「よかった。また講義でわからないところがあったので教えてほしいんです」

 「いいよ。どこ?」


 人の減った教室で2人並んで座る。ルイが教科書を広げて俺にわからないという場所を見せた。ちょうど今の講義でやったところだ。


 「あー! だからそこに同じ記号が2つも入れるんですね!」

 「そう。これで文字と文字を繋ぎを強くしてる。第五記号は高度な治癒魔術で多用されるからここは今のうちに覚えておいた方がいいと思う」

 「なるほど……」


 説明を必死にメモしてる類を横目に、俺は教科書をペラペラとめくって眺めていた。特にこれといって目新しいものは載っていない。どれもこれもノレアから1ヶ月以内に教えてもらったことがあるものだ。ノレアから出発する前にナルダッドでは面白いものを学ぶができると言われたけど、今のところただの復習だ。本当に面白いものなんて学べるんだろうか。ノレアは嘘を言わないけれどちょっと不安だ。


 「やっぱりすごいですね、シンさんは。その歳でもう説明できるぐらい魔術を理解してるなんて。先生よりわかりやすいです」

 「理解してるだけだよ。実際には大して使えない。特に魔法陣型は」


 俺は魔術の仕組みは把握しているけど、うまく動かすことができない。特に魔法陣は作るまでが限界だ。発動までは持っていけない。けど、詠唱の方は最低限使える。変な話だ。ノレアが言うには原因は俺の魔力にあるらしい。断罪の力だとかなんとか。詳しいことは教えてくれなかった。


 「それでもすごいですよ」

 「治癒魔術使えるルイの方がすごいと思うよ。……というか、これも治癒魔術だけど魔法陣型は苦手なの?」


 特に気にしてなかったけど、今俺が教えてたのは魔法陣型の治癒魔術の初歩だ。ルイであればこれくらいは簡単にできていそうなのにどうやら苦手らしい。詠唱型は感覚的にできるけど、魔法陣型はちゃんと理論的に組み立ててやっていかないといけないから難しいのかもしれない。


 「苦手ですね。そもそもあの治癒魔術も特殊なので別に詠唱型が得意ってわけでもないんです、私」

 「特殊っていうと?」

 「厳密には治癒魔術じゃないんです。あ、いや、治癒魔術ではあるんですけど、広義的には違うというか……。普通の精神干渉する治癒魔術って精神に触れないんですよ。でも私の家に伝わってるのは精神に直接触れるんです。……って、説明が下手ですみません。わかりました?」

 「うん。一応」


 要するに普通の治癒魔術とルイの家系のものでは、精神への干渉の仕方が違うということなんだろう。精神操作系の魔術に近いのかもしれない。


 「それなら確かに治癒魔術って言えないね。いろんな使い方ができる」


 俺の解釈が間違っていなければ、癒す以外の使い道もあるはずだ。例えば敵の精神を壊したりとか。いや、流石にそれは極端か。でも似たようなことはできそうな気がする。


 「はい。そうなんですよ。緑神様に所縁のある人しか使えないみたいなので悪用はされないとは思うんですけど」

 「所縁のある人、か。ルイの家族も使えるの?」


 ルイの家系は緑神に仕えていたという。であれば彼女の家族もルイのような治癒魔術を使える可能性は十分にあるだろう。


 「いえ、使える人はいないです」

 「才能も関係してるんだ」

 「そうですね。母は使えてたんですけど……もういないので」


 死んでるのか。こういう話題はあまり深追いしない方がいいと教わった。聞かないで──そういえば死者を蘇らせることはできるのかなんて最初に聞かれたな。もしかしたらあの時そんなことを聞いてきたのは……


 「おい、シン。何やってんだよ……って、ルイか」


 教室の扉のところにティアが立っていた。俺を呼びに来たらしい。


 「ちょっと教えてた。もうすぐ行くよ」

 「え、もしかしてこのあと何か予定あったんですか? す、すみません。それなのに教えてもらっちゃって」

 「別に急ぎの用じゃないから。気にすんな」


 そう言いながら歩いて来たティアのルイに対する物腰は柔らかかった。ルイへの態度はいつもそうだ。理由はおそらく船酔いを治してもらったからだろうけれど、初対面の相手には基本的に敵意を向けるティアにしてはこれはとても珍しいことだった。


 「フィアは?」

 「もうお前の部屋行ってる」

 「ティアは迎えに来てくれたんだ」

 「隣だったからな」

 「ありがとう」

 「キモいんだよ。礼とか言うな」


 当たりが強い。

 フィアが言うにはこういうのは照れ隠しらしい。俺にはよくわからないけど。


 「それじゃそろそろ行くけど、他にわからないところは?」

 「大丈夫です。ありがとうございました」

 「どういたしまして。また明日ね」


 ルイを残し、ティアと共に教室を出た。向かうのは俺の部屋だ。


 「講義は退屈だろ」

 「いや別に」

 「本当か? お前、魔術のことはなんでも知ってるだろ」

 「俺が詳しいのは、今も残ってるスタンダードな魔術だけ。なんでもは知らない。それと講義はいろんな解釈の仕方が知れて新鮮だよ」


 学んだことは今のところ何もないが。


 「ティアはどうなの? フィアも」

 「退屈。フィアも多分同じ。そもそも私たち魔術に興味ないし。まぁでも執行者として働いてるよりかは気は楽だな。そこだけはいいかもしれない」

 「そっか」


 思えばずっと死と近い任務ばかりをしていた。執行者になってから、こんな平和な日常を送っているのは初めてな気がする。今の生活は全く嫌ではない。でも思う。きっとここは俺の居場所じゃないんだって。


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