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A Spoonful of…【未来屋 環SS・掌編小説集】

マイ・アンカー

作者: 未来屋 環

 君という(いかり)だけが、俺をこの世界に繋ぎ止めている。


 ***


ずるずる


ずるずる


「――もー……はなしてよ」

「……やだ…………」

 わたしより一オクターブ低い声で、きみは呟く。

 消え入りそうな、それでいて決して折れることのない返答に、わたしはいい加減むっとして手を振りほどいた。

「こっちだって、やだ」

 一瞬まるくなったきみの瞳が、ゆっくりとしずむ。

 いつもは気圧されそうになる眼差しなのに、今日は何故だかずっとこんな調子だ。お蔭さまでどこにも出掛けられやしない。

 わたしより随分と大きな身体を折りたたんで、きみは足元にうずくまった。

「――ねぇ、どうしたの?」

 さすがにそのままにするのも忍びなくて、黙ってしまったきみに尋ねる。

 暫くの沈黙の後に、きみがぽつりと答えた。

「……音が聴こえるんだ」

「音? なんの?」

「――世界中が、俺から一気に遠ざかっていくような、そんな音」

「それは――いつも?」

 どう返したらいいかわからず、苦し紛れに問いを投げる。

「――たまに」

 その問いを拾って、きみはわたしを見上げた。

「だから、俺がどっか行っちゃわないように――手、繋いでてよ」

「……なにそれ」

 全く、意味がわからなかった。

 でも、どっか行かれたら困るから。

 わたしはしかたなくきみの手をつかんだ。

若かりし頃を思い出しながら書きました。自分だけが世界に取り残されているような気持ちになったこと、ありませんでした?

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― 新着の感想 ―
[良い点] くっきりはっきりとかじゃなくて、ふわんふわんとした心地ですが、でもなんだかキュンってなります♪ ちょっと弱っていそうな「俺」が可愛いです。雰囲気ある素敵な作品を読ませていただき、有り難うご…
[良い点] 「俺」さんは幸せですね。 世界が遠ざかる感覚なら、実感として理解できます。 でも、繋ぎとめてくれる人は大抵の場合、なかなか見つからない。 現代において、巡り会う事自体が、おそらく奇跡。 …
[一言] 取り残される感覚は分かりませんが 自ら消えていく感覚は分かるので 多分、それが自発的にではなく 望まず起きているのだろうな、と 想像はできました。 こんな風に、 手を差し伸べられる相手 手…
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