「今日、麩の味噌汁」だと思ったら「恐怖の味噌汁」だった件
なろうラジオ短編3参加作品です。
オレは味噌汁が大好きだ。
この世で一番美味しいものだと思っている。
あの食欲をそそる独特の香り。
口に入れた瞬間広がる味噌の味。
具材も決まったものなどなく、レパートリーは実に幅広い。
まさに食卓の友。
赤味噌、白味噌、合わせ味噌、いろいろあるがオレはやっぱり白味噌が好きだ。
あの優しい味が心に沁みわたる。
今日も朝から母が早起きして一生懸命味噌汁を作ってくれた。
本当にありがたい。
台所から漂ってくるのは、麩の味噌汁のいい匂い。
オレがもっとも好きな味噌汁のひとつだ。
「今日、麩の味噌汁か」
そう思うだけで今日一日、幸せな気分になれる。
本当に味噌汁ってやつは最高の飲み物だ。
「母さん、おはよう。朝から麩の味噌汁だなんて、嬉しいよ」
台所に顔を出すと、食卓の上にはなんかドロドロした変な液体の入ったお椀が置かれていた。
「か、母さん? これは?」
母は何も言わず、流しの上で皿を洗っている。
オレは改めて食卓に置かれたドロドロの液体を眺めた。
匂いは紛れもなく麩の味噌汁だ。
しかし色は真っ黒でネチョっとしており、具材はあるんだかないんだかわからないくらい埋まっている。
そんな味噌汁? のようなものを一通り眺めた後、もう一度母を見た。
「母さん、これ……」
その時、オレは戦慄した。
台所で皿を洗っていた人物、それは母ではなかった。
母の姿をした節子おばさんだったのだ。
節子おばさんは近所では有名な料理研究家だ。
料理研究家と言えば聞こえはいいが、彼女の作る料理は独創性を通り越して恐怖を感じさせるものが多い。
もちろん本人はいたって本気で美味しい料理を作っているつもりなのだが、その見た目があまりにもグロテスクすぎて、つけられたあだ名が「魔界の暗黒大料理人」。
まさに中二病みたいなネーミングセンス。
ちなみにつけたのはオレじゃない。
「節子おばさん? 何をしてるんですか、こんなところで」
「ふふ、この前あんたのお母さんから野菜をたんまりもらってねえ。そのお礼に美味しい味噌汁を作ってあげようと思ったのさ」
「か、母さんから?」
「お母さんはちょっと用事があるって出かけて行ったけどね。息子に食べさせてやってくださいって」
マジで!?
うっわ、あの母、息子を犠牲にしやがった!
「ということで、あんたの好きな麩の味噌汁をたくさん作ってあげたよ。さあ、たんと召し上がれ」
「ご勘弁願えますでしょうかあっ!」
今日、麩の味噌汁だと思ったら恐怖の味噌汁だった。
お読みいただきありがとうございました。
キーワードに「味噌汁」があって、思い付きで書いてしまいました。
ほんとすいませんでした。