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男子大学生




ゴミを捨てに朝家を出ると、たまに会う男の子がいるの。そうねぇ…燃えるゴミの日に会うことが多いかしら。多い時で週2回、勿論会わない週もあるわ。


見た目は、人気YouTuberの彼に似てるかしら…身長は170センチくらいで、ごく普通の体型よ。痩せてもいないし、太ってもいない。眠そうな顔で、猫背になりながらゴミ出しをしているの。

単身用のアパートから昼間出てくるのを見かけたことがあるから、きっと大学生だと思うわ。


お互い、存在は認識しているから目が合えば会釈する程度の知り合いよ。会話はしたことはないわ。








ふふ、ここからは妄想のお話よ?




夕方、晩御飯のカレーを作っていると、カレーのルーがないことに気付いたの。

…馬鹿よね、カレーのルーが無いのにカレーを作ろうとするなんて。

そのまま肉じゃがにでもしてしまおうかと思ったのだけれど、もう、口がカレーの口になっちゃってたのよねぇ。

そういう時ないかしら?カレーが無性に食べたくなる時って。

だから私は近所のスーパーに買い物に行くことにしたの。ついでに福神漬けでも買おうかしら、あの赤いやつ。

今日はずっと家にいたもんだから、格好も適当だけれど、急いで買い物に行かないと夫の帰りに間に合わないわ…


私はボサボサの長い髪を適当に括って、帽子を被って家を出て、歩いてスーパーに向かったの。

スーパーに行くと、目的のものは決まっているのに何故か色々見ちゃうのよね。なんだかんだ時間がかかっちゃったわ。

急いで家に帰ろうとしたらうちの近くで蹲ってる人がいたの。恐る恐る近づいてみると、あの大学生の男の子だった。


「どうしたんですか?」


声をかけると随分と青い顔をしていて驚いたわ。

よくよく話を聞いてみると、金欠でまともにご飯を食べられなかったらしいの。

空腹なら緊急性もないし、そっとしておいても大丈夫かしら…でもこのままにして帰るのは忍びないわ…どうしようか迷っていたら夫からメールが入ったの。


『今日は、残業で遅くなります。ごめんね。』


せっかく急いでカレールー買いに行ったのにガッカリ。ため息が出ちゃったわ。

そんな私の態度に大学生は自分に向けてため息をついたと思ったのね。


「大丈夫ですから、お家に帰ってください。」


弱々しくそう言ったわ。

私はなんだか申し訳なく思ったし、夫の帰りも遅くなっちゃったしで、結局晩御飯におさそいすることにしたの。

当然彼はびっくりして遠慮していたわ。でも、カレーの力はすごいわね。

カレーだと聞いたら、悩んだ挙句食べに来ることにしたみたい。

なんだか可愛らしくて笑っちゃったわ。

恥ずかしそうにする彼を連れて、家に帰ってカレーの続きを作りはじめたわ。

彼はダイニングテーブルに座って、キョロキョロと部屋の中を見ていたの。まるで小さな男の子みたいにね。

その姿を横目で見ながら鍋にルーを落としてくるくると混ぜていると、どんどんとカレーのいい匂いがしてきた。

その匂いを嗅いでいたら私もなんだかお腹が空いてきちゃって。


炊いてあったご飯をいつもより少し多めによそって、彼の分と自分の分のカレーを準備してダイニングテーブルに置いて、自分も椅子に座ったの。

ええ、勿論彼の向かい側よ。


「いただきます。」


彼は行儀良く挨拶をして食べ始めた。

最初は恐る恐る食べていたのだけれど、どんどんと口に運ぶスピードが速くなっていったわ。

ふーふー、はふはふって感じで熱々のカレーを一生懸命食べている姿を見るのはなんだかいい気分ね。

私も嬉しくなってついついたくさん食べちゃったわ。

彼は余程お腹が空いていたのか、カレーをおかわりまでしてくれたの。


「ご馳走様でした。」


お腹いっぱいになった彼は満足そうにそう言ったわ。

心なしか、肌がツヤツヤしているように見えて、なんだか餌付けしてるような気分になって、私も楽しくなっちゃったわ。

後片付けをすると言ってくれたのだけれど、私が勝手に付き合わせただけだから断ったら、申し訳なさそうにしていたの。


「…だったらまたご飯でも食べに来て?あなたが美味しそうに食べてるのみるの、とても楽しかったわ。」


私がそう言った時の、恥ずかしそうな彼の顔はとっても魅力的だったの。






それからも何度か我が家にご飯を食べに来ていたわ。特に豪華な物でもないのよ?チャーハンとか、唐揚げとか、餃子とか…余り物で作ったような、名前も付いていない簡単な物もあったけど、そんなの気にならないと言いながらパクパク食べてくれるのが嬉しくてね。

夫は帰りが遅くなることが多くて、晩御飯は別々になることが多いの。だから、誰かと一緒にご飯を食べられることがどれだけ楽しかったか、彼が思い出させてくれたわ。

彼も、どんどん顔色が良くなっていったし、どんどんオシャレになっていったの。

…ふふ、何故かしらね?


こんな生活にも慣れてきたときね、彼が言ったのよ。お礼がしたいって。

でも、私はそんなの求めていなかったから断ったのよ。

物をもらって、夫に見つかったらなんて言えばいいの?って。

そしたら、彼は子犬みたいな目をしてた。


「俺は…」


そう言って強い力で腕を引かれたわ。








…ふふ、お話しするのはここまでよ。

続きはあなたが妄想、してみて?








え?現実?

そうねぇ…

最近、彼に彼女ができたみたいで、迎えにきてくれた車に乗るのを何度か見かけたわ。やっぱり甘えん坊さんなのかしらね?

お幸せに!


夫とはラブラブなのでご心配なく。




では、またお会いしましょうね。

読んでいただきありがとうございます!

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