7 創立記念日
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その後私達は、救出した子供達を連れて、転移で学園に帰った。
するとシシルナや子供達が、出迎えてくれた。
「キャスカ!」
「お姉ちゃーん!!」
姉妹の感動の再会……いいよね。
尊みが凄い。
あと、キャスカって名前は、「蝕」で贄にされたりしそうなイメージだったから、何も無くて本当に良かったよ……。
……そういえば、妹ちゃんは今頃どうしているかな……?
ダグズみたいに、いつの間にか死んでるようなことがなければいいけれど……。
この前、故郷へハゴータを置き去りにした時には、周囲に気配や臭いは無かったから、もうあの土地にはいなかったようだけど……。
いや……そもそも野生動物としては、もう寿命を迎えていてもおかしくないのか……。
そう思うと辛い……。
それはさておき──、
「院長、リチアさん、ありがとうございます!
本当にありがとうございます!」
シシルナが涙ながらに頭を下げてくる。
本当に心配していたのだろうな。
「いいのですよ、子供達は私にとっても家族なのですから」
「そうだぞ、子供はみんな宝物なんだから、気にするな!」
……なんだろうな、リチアの言っていることには同意できるはずなのに、何故かいかがわしさを感じるのは……。
しかしその本性を知らない子供達は彼女に殺到していき、「どうやって悪者をやっっけたの?」などと、押し合いへし合いしながら質問攻めにしていた。
見た目だけなら腕利きの冒険者で、ヒーローっぽいからなぁ……。
だけど今のリチアから発せられているオーラは、残念ながらピンク色なんだ。
たぶん幼女に囲まれたことで、内心では鼻の下が伸びているのだろう。
……一方私の方には、妊婦だから遠慮しているのか、この身体の私が悪者と戦うというイメージができなかったのか、とにかく誰も来ないのはちょっと寂しい。
たぶん子供達的には、この救出劇で私が活躍したとは思っていないのだろうな。
でも、私が誘拐犯の拠点を突き止めなければ、救出はできなかったんだよ?
あ、シシルナだけ私の方に来た。
彼女は私の回復魔法を受けているから、私に何か特殊な能力があるということは、理解しているのかもしれない。
当然、私がリチアに付き添っていただけだとは、思っていないはずだ。
「院長、このご恩は、一生かけて返します。
私、この学院にくることができて本当に良かったです!」
「みんながそう思ってくれるように、私は頑張っています。
……これからは、あなたもですね。
子供達の為に、頑張ってください」
「はい!」
うむ、いずれ私は国に対して乗っ取りをしかけるから、私が自由に動けるようになる為にも、学院の経営ができる後任の育成は急務だ。
将来的にはシシルナが院長代理になって、私の仕事を代行できようになっているのが理想だな。
少しずつ私の仕事を任せていこう。
「それにしても……」
うん、なんだい?
「リチアさんって、格好いいですねぇ……」
シシルナが乙女な表情をして宣う。
お・前・も・か!?
やめろ、奴は変態だぞ……!
「シシルナ……上辺だけを見て、人を判断するのは危険ですよ?
まあ……あなたもそろそろ大人なんですから、恋愛に関しては口うるさく言いませんが、くれぐれも冷静に……ね?」
「は……はあ?
いっ、いえ、恋愛だなんて、そんな……!
私は純粋に、格好いいと思っただけで……!」
そう言いつつも、顔が赤くなるシシルナ。
オーラの色も少しピンク色になったので、素質はあると思うんだけどねぇ……。
百合が増えるのは私としては歓迎なのだが、相手がリチアというのがな……。
いやでも、シシルナとくっついてくれれば、リチアが幼女に手を出す可能性は減ってくれるのか?
「でもシシルナが本気ならば、私は応援しますからね?」
「だから違うんですってば、院長~っ!!」
そんなシシルナの抗議の声を聞きながら、私はこれからやらなければならないことを、色々と考えていた。
取りあえず暫くの間は、念の為に院の敷地内全体に常時索敵をかけておくかな。
広範囲の常時索敵はさすがに疲れるので、普段は自分の周囲だけなんだけど、うちに手を出したらどうなるのか、それが裏の世界に浸透するまでは用心しておこう。
──時はきた !
今日はついに、学院が正式に動き出す日だ。
まあ実質的には、少し前から動いてはいたが……。
で、来賓とかはいないけど、これから職員全員と子供達で体育館に集まり、内々でささやかな式典を開くことになっている。
ちなみに誘拐を企てた黒幕のグラコー男爵については、既に手を打ってあるので、あとはトドメを刺すだけだ。
それは後日の楽しみに取っておこう。
そんな訳でなんの憂いも無く、この記念すべき日を迎えられる。
そして今後何年、何十年先も、今日のこの日が創立記念日として祝われることになるのだ。
その時には卒業生も集まって、大きな式典が開けるかもしれないな。
そのような未来を想像すると、感慨深くて今から泣きそうになる。
『それでは院長、挨拶を──』
「はい」
私は前に出て、ステージに登壇した。
これから子供達に対して、この学院で学ぶことが将来どれだけ役に立つのか──そしてゆくゆくは、みんながこの国にとってなくてはならない人材になるのだと信じている──と、語るつもりだ。
まあ、まだまだ教員は少ないし、万全な状態とは言いがたいが、それでもこの学院には未来への希望が溢れている。
これからこの学院は、子供達と一緒に育っていくのだ。
「え~、みなさん──」
そこで私は言葉に詰まってしまった。
そしてそのまま、次の言葉が出てこないことを、皆が不審がってザワザワとし始める。
…………うん、ヤバイ。
股から何かが漏れたような感覚がある。
このタイミングで、破水した……!?
苦痛への耐性がある所為か、陣痛は感じていないが、確かに何かしらの不快感はある。
まさか今まさに、我が子が生まれようとしているのか!?
学院の創立記念日と、誕生日が重なるとは、なんて奇跡的な偶然だよ!?
とにかく、これはすぐに対処しないとっ。
「女性職員は集合してください!
アンナさん、出産の準備をっ!
リチアさんは、産婆さんを呼んできてっ!!」
私の叫びに、会場は騒然となった。