6 救 出
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「ジャッジ●ントですの!
無駄な抵抗はやめて、大人しく投降しなさい!」
「ジャ……!?
え、なんて!?」
リチアのツッコミに対しては、説明することができないので無視をする。
私とリチアは、オズワール商会に正面から乗り込んだ。
まあ「商会」とは言っても、人攫いと人身売買がメインの営業形態であり、実質的には反社会勢力と変わらない。
しかも寂れた貧民街の中に店を構えているので、そんな店の周囲に一般人がいるはずもなく、あまり人の目を気にする必要はないだろう。
で、早速店に入ると、明らかに商会の従業員には見えないような、柄の悪い男達のお出迎えである。
しかしいきなり10人近くも出てくるあたり、普段から同業者との抗争を繰り返していた所為で、襲撃には備えていたってことかな?
「なんだぁ、こいつら?」
「だが、高値で売れそうな美人だな。
妊婦はちょっとマニアックだが……」
……聞かなくても、人身売買をしているって白状してくれたな……。
さて……自分達が何をやらかしてしまったのかを、どうやって分からせてやろうか……?
その時リチアが、私の前に出る。
「院長、ここは私に任せてくれ」
「……いいんですか?」
「さすがに妊婦さんを、戦わせる訳にはいかないからね。
耳も塞いでおきなよ。
胎教に悪い」
やだ……格好いい。
これからは変態紳士から、変態を抜いた評価にしてやろう。
たぶんすぐに元に戻るだろうけれど。
「それじゃあ、お願いしますね。
でも、殺しちゃ駄目ですよ」
たぶん私がやった方が早いのだろうけれど、ここはリチアにも見せ場を作ってあげよう。
私は索敵で子供達に危険が及ばないように、監視をしなきゃならないしね。
それにリチアの実戦での力も見てみたい。
「いくぞ、オラーッ!!」
リチアが雄叫びを上げて、男達に殴りかかっていった。
剣を持ってきた意味!?
でもまあ、素手でも強いな。
そしてリチアは全く危機に陥ることもなく、あっさりと男達を制圧してしまった。
さすがAランクだ。
「おい、攫った子供達はどこだ?
素直に吐かないと、この足を折るぞ?」
「ひいいぃぃ、地下っ、地下だ。
地下にいる!!
だから、折らないでっ!?」
リチアによってボコボコにされた男は、あっさりと喋った。
うん、オーラの状態からも、嘘は言っていないようだな。
それに私の能力で把握している子供達の位置も、地下で間違いない。
話が早くて助かるわ。
やはり暴力……!!
暴力は全てを解決する……!!
「それではリチアさんは、子供達を救出してきてください」
「……いいけど、院長は?」
「私はこの人達から、聞きたいことがあるので……」
「それなら、縛り上げていくか?」
「それはこっちでやっておきますよ。
ほら──」
私は蜘蛛糸で、瞬時に男達を拘束した。
「院長って、何者……?」
「いいから早く行ってください。
子供達が待っていますよ」
「……!
分かった」
さて……私は尋問だな。
「さあ……あなた達、黒幕は誰ですか?
私の子供達を攫えと、命じた愚か者は……?」
「……」
男達は答えない。
この時点で、もう大体察することができた。
下手に喋ると、命に関わるような相手から命令されているのだ──と。
「ああ、男爵の命令ですね」
「!?」
「な……なんでグラコー男爵のことを……!?」
はい、語るに落ちた。
私は「男爵」としか、言っていないんだけどなぁ。
ともかく今回の事件は、やはりグラコー男爵が黒幕で確定か。
こいつは小さな子供を、男女とか関係なく買っていると聞く。
その用途はあまり考えたくないが、用済みになった子供は再び犯罪組織や奴隷商に売られているようで、結果的に生き延びる子供は少ないらしい……。
で、最近私が孤児を集めているから、男爵が欲している子供の供給が減ったのが動機なのだろうな。
「子供達は、あとでグラコー男爵の領地に運ぶ予定だったのですね?」
「……!!」
うん、男達の顔で、私の指摘が当たっていることが分かる。
もうこれ以上聞く必要も無いかな。
あ、いや、大事なことを忘れていた。
「うちの職員を斬りつけたのは、どなたですか……?」
「し、知らん」
「嘘はいけませんね」
「ぎぃっ!?」
はい、オーラで嘘判定が出ました。
私は白を切った男の足を踏みつけて、へし折った。
私はリチアのように、言葉で脅すだけで済ますほど甘くないぞ?
まあ、後で治療はしてやる。
だが、私に嘘は通用しないということを思い知らせる為にも、見せしめになってもらおう。
「あなた達、次に庇ったらどうなるのか……分かりますよね?」
そんな私の言葉に、男達の視線が一斉に、とある人物の方へと向いた。
たぶんこいつらのボス格なのだろう。
だから他の奴は、こいつを庇った。
だが、私という恐怖を前にしては、脆い絆だったね。
「……お前か」
「違うっ!!
俺じゃないっ!!」
「へぇ……そうですかぁ。
でもあなたの持っていた短刀から、血の臭いがするのですが?
本当はあなたがやったって、最初から知っていたのですよ?
正直に話していれば、多少は手心を加えてやっても良かったのに……」
「なっ……!?
なんなんだよ、お前っ!!
俺達を弄んで、楽しいのか──ぶっ!?」
私は男の言葉が終わる前に、そいつの頬を平手で殴った。
男は壁際まで吹っ飛んで全身を叩きつけられ、そのまま気絶してしまう。
「……楽しい訳がないでしょう……!!
うちの子に手を出したあなた達に対して、腹が立って仕方がないのですよ……!」
「……っ!!」
私に睨まれて、男達は震え上がった。
さて……取りあえず男爵はあとで料理するとして、まずはこいつらの始末だ。
最終的には騎士団へ突き出して、犯罪奴隷にでもなってもらうが、私の子供達に手を出して、それだけで済む訳がなかろう。
ただ、犯罪奴隷になったら、刑期が終わるまで延々と強制労働をさせられて、途中で命を落とすことも多いらしいから、お仕置きは程々で勘弁してあげよう。
1・まず転移魔法で、男達を天井付近に移動させます。
2・落下する男達が床に衝突する直前で、1に戻します。
3・以下無限ループ。
「あ~っ、やめて止めてやめて止めてやめて止めて~っ!?」
「怖い、怖いっ!!」
「ひいぃぃぃぃっ!?」
うん、何かのゲームのバグみたいになっているな。
傍目にはちょっと面白い。
「院長……何やってるの……?」
お、リチアが子供達を連れて戻ってきた。
……何故、ドン引きしている?
でも、子供達は怪我も無く、元気そうで良かった。
「それでは、院に帰りましょうか」
「こいつらは、どうするの?
官憲に連れて行く?」
「後で知り合いの騎士に通報しておきますから、彼らが引き取ってくれるでしょう。
私のお願いなら、迅速に処理してくれると思いますよ」
「そ、そう……」
だからなんで、ドン引きしたような目で私を見るかな?
確かに普通なら、庶民が騎士を使いっ走りにするなんてことはできないけれど、私は色んな階級・職種の人間の弱みを握っているからね。
そしてこれは、正しい権力の使い方だと思うんだけどなぁ……。
とにかく今は、早く帰ってみんなを安心させてやろう。
だからグラコー男爵を始末するのは、また後日だな。
その代わり、入念に地獄を見せる準備を整えてあげるから、その日まで震えて眠れ!