5 誘拐事件
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私とリチアが子供達が攫われた現場だという寮の正門の前に駆けつけると、人だかりができていた。
子供達に囲まれているのは、生徒兼寮職員見習い予定のシシルナで、彼女は太股を刃物で斬りつけられたのか、血を流して蹲っていた。
私はすぐに回復魔法をかけつつ、シシルナに何があったのかを問う。
「一体何があったのです!?」
「あ……傷が消えて……」
シシルナは初めて回復魔法を見た所為なのか、それとも事件のショックの所為なのか、どこか呆然としていた。
「シシルナ!」
「っ!! ……あ、ああ、院長!
妹のキャスカがっ、それとマリンとクラウとミリヤが男達に……っ!!
私はなんとか止めようと、相手にしがみついたのですがっ……!!」
それで斬りつけられたのか……!
おのれぇ、犯人は許さんっ!
「相手は何人いたのですか?」
「5人か……6人はいたと思います」
「……それだけの数だと、組織的な犯行かもしれないですね……」
この学院の校舎と寮は結構大きな建物だから、金があると思われて、身の代金目当ての誘拐である可能性は当然あった。
だがそれならば、4人も攫う必要は無い。
複数人の子供を運ぶ手間と、目撃者が増えるリスクを考えたら、1人でも十分だ。
となると、これは奴隷商に売り飛ばす目的で攫ったようにも見えるが、商売を邪魔された人身売買組織の仕業である可能性もあるな。
なにせ私は、彼らの商売道具になる孤児達を、まとめて保護しちゃっている訳だし。
いずれにしても組織的な犯行であるのならば、何者の仕業なのかを特定することなど、そんなに難しい話ではない。
私は裏世界の人間に対して乗っ取りを繰り返すことで得た記憶により、王都の奴隷商や犯罪組織の分布をほぼ完全に把握しているのだから。
これがちょっとした嫌がらせ程度の被害なら、私の支配下にある貴族や組織に圧力をかけさせる程度で済ませるのだが、子供が攫われたとなれば、私が直接動いて迅速に救出しなければならない。
……私の可愛い子供達に手を出した連中には、見せしめとして地獄を見てもらうことにしよう……!
私がそんなことを考えていると──、
「大丈夫よ、シシルナちゃん!
私が君の妹達を、絶対に救い出して見せるからっ!!
だから安心して、待っていなさいっ!!」
リチアがそう宣言をする。
私が言おうと思っていたことを、こいつ……!!
本当にそれができるかどうかは別として、頼もしいじゃないか。
「シシルナ、あなたは他の子供達と一緒に、寮の中で待機していてください。
私達が戻るまで、外に出ないように。
妹達はすぐに帰ってきますよ、きっと」
「は……はい」
私はシシルナ達が寮の中に入るのを確認してから、リチアに呼びかける。
「行きますよ、リチアさん。
準備はいいですか?」
「え……剣を持ってきたから今すぐ行けるけど、院長もいくの?
その身体で!?」
「あなたでは、何処に行けばいいのかすら分からないでしょう?
私ならすぐに子供達の行方が分かります」
「ほ、本当に!?」
「勿論」
まずはオオカミだった頃に手に入れた、超嗅覚を発動。
シシルナを傷つけた凶器はここには残されていないから、犯人がまだ持っているはずだ。
その凶器に付着したシシルナの血の臭いを追えば、犯人がどの方向へ行ったのかが分かる。
「こっちですね」
暫く臭いを追っていくと、血の臭いが急に薄くなる。
そして馬の臭いがするので、馬車にでも乗って逃走したか。
一般人が馬車なんか持っているはずがないから、やっぱり組織的な関与があるな。
で、馬車は大通りの交通量が多い道に入ってしまったので、ちょっと他の馬車と臭いが混じって追いにくくなってしまった。
だが、馬車が向かっていた方角は南だから……その方向にある奴隷商や犯罪組織をしらみつぶしで当たれば、子供達は見つかるはずだ。
仮にこの事件の背後に何処ぞの貴族がいたとしても、その貴族の家に直接運び込むような、大胆な真似はさすがにしないだろう。
なんだかんだで攫った子供は、奴隷商の店に運び込むのが1番自然なのだから、選択肢はかなり絞られる。
「じゃあ、行きますよ。
リチアさん、動かないでくださいね」
「へ?」
次の瞬間、私はリチアを伴って魔法で転移した。
いつか狩るべき存在だと想定していた獲物の位置は、既に下調べは済んでいる。
「違う」
「ここも違う」
「ここも」
「えっ、えっ、はっ? へう?」
私は転移先で子供達の反応が無ければ、すぐさま次の目的地に転移し、そこにも子供達がいなければ、また転移をする──それを繰り返した。
その転移の連続使用にリチアは困惑して、さっきから変な声を出しているが、今は構っている暇なんか無い。
ふふ……こんなこともあろうと、子供達の影の中に私の影の一部を忍ばせておいたのだ。
影はあまりにも小さくて、操作してもできることはほぼ無いが、近くにさえいれば索敵を使うまでもなく、正確な位置を報せてくれる。
だから転移した先の近くに子供達がいれば、その瞬間に居場所が分かるはずだ。
これでも見つからないようなら、最悪王都全域に転移して廻れば、いつかは辿り着けるだろう。
まあ、相手が転移を使って、子供達を王都の外に運び出していたら発見はかなり難しくなるが、さすがにそんな大がかりなことはしていない……と、信じたい。
そして十数軒目にしてようやく──、
「いた!」
当たりを引いた。
「え……本当にここ?」
「オズワール商会ですね。
悪質な奴隷売買をしていると聞きます。
背後にはグラコー男爵がいるので、やりたい放題だとか……」
王都の悪徳な貴族や奴隷商の粛正については、まだ殆ど手を付けていないが、それでも一部の本当に危険な連中は既に始末してある。
だが、それは全体から見ればまだまだ少数で、それだけに自分達が粛正の対象だとは考えていない者も多いのだろう。
しかしこの私の子供達に手を出したからには、派手に見せしめとなってもらうぞ……。
ふふふ……今の私は、些細なことで人生が詰んだレイチェルの教訓から、かなり派手なことをやっても揉み消せるだけの権力を手に入れている。
この私を敵に回した連中には、倍返しだ!
「院長……なんでそんな情報を……?
それに転移魔法をあんなに使いこなせるって、Aランク冒険者以上の実力があるでしょ……」
「まあ、昔色々とありましたので。
それよりもリチアさん、準備はいいですか?
正面突破しますよ!」
「ええっ!?
正面から乗り込むの!?」
「Aランクと元Sランクがいて、何か問題がありますか?
戦力は十分でしょう。
あと、顔とか見られても、あとで他の貴族から圧力をかけさせますので、問題無いですよ」
「元S……に貴族……。
ホント何者……」
そんなことはどうでもよろしい、
ともかく、私達の戦いはこれからだ!(おわらない)