4 波乱含みの開校準備
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アリゼです。
名前だけでも覚えて帰ってくださいね。
さて、着工から約半年。
そろそろ学院の校舎と、その隣に併設される寮が完成する。
二棟とも木造2階建てで、200人ほどが学び生活できるという、なかなかの大きな建物だ。
あとは内装を整えて、机や生活道具などの必要な備品を、運び込めば完成である。
校舎と寮の設計は、前世の記憶を元に私がした。
木材も魔法を活用して加工した上で、あとは組み立てるだけという状態にしてから大工さんに任せたので、本来なら年単位でかかる建築期間もかなり短縮できている。
以前山奥に潜伏していた頃に、マルガと一緒に家を建てた経験がここで活きたね。
そしてそこで働く職員や、入学予定の子供達もほぼ揃っているので、校舎と寮が完成次第、現在の仮住まいから引っ越しして、開校って感じだ。
開校したら私の前世の知識を活用して、色んなことを子供達に教えたい。
……のだが、おそらくそうもいかないだろう。
私の出産時期が近づいているからだ。
たぶん開校の直後に、育児休暇に突入することになると思う。
だから学院の授業内容に関しては、当面の間は雇った職員に任せるしかないようだ。
とはいえ、教員の数はまだ十分とは言えないので、取りあえずは文字の読み書きと、簡単な算数さえ教えることができれば、それでいいかな?
それさえできれば、この国で生きるだけなら問題は無いはずだ。
最悪、孤児院としての機能さえ破綻しなければ、それでもいい。
それにしても、お腹がかなり大きくなってきたなぁ……。
この数ヶ月で、少しずつ自分の中に1つの命が育っていくのを感じていたが、それでもまだ母親になるという実感が持てないし、自信も無い。
前世でも親の立場になったことがないから、もう色んなことが初めての経験なのだ。
やっぱり子供の一生に関わることだから、全ての面において失敗できないという想いも強く、不安ばかりが募っていく。
それに私自身は絶対にいらないけれど、生まれてくる子供には父親が必要なのではないか?──という葛藤も……。
これについては、雇った職員さんに助けてもらうしかないのだが、それで本当に充分なのか……とも感じている。
だが、それを言い始めたら、親がいない孤児達を育てる為に、万全な環境を用意できているのか?──という問題にもなるし、私は自分の子供だけではなく、多くの孤児達に対しても責任を持たなければならないことに思い当たり、色々と悩ましい……。
これがマタニティブルーというやつか……。
ボスケテ……!
そんな訳で、精神的な疲労を感じていた私だが、問題は続く。
それは寮の方が完成したので、そちらに子供達を引っ越しさせた直後──学院の開校も3日後に迫っていて、その準備に追われていた日のことだった。
「……リチアさん、胸を揉むのはやめてください」
その時私は、院長兼寮長の執務室で机に向かい、書類を書いていた。
そんな私に対して、背後に立つリチアが腋の下から手を入れて、胸を揉むというセクハラ行為を働いている。
「え~、院長の成長具合を確かめていただけだよぉ?
もうすぐ赤ちゃんに母乳をあげなきゃならなくなるんだし、オッパイの成長は重要だよぉ?」
「それをリチアさんがやる必要は無いでしょう。
んっ……それに触り方がいやらしいですよ」
私はそう抗議するが、リチアは構わずに胸を揉み続けた。
正直、ちょっと気持ち良いのが悔しい。
そろそろ母乳も出るようになる為、胸が張っているので強く揉めば痛いはずなのだが、リチアはその辺に配慮してなのか、ソフトに揉んでくるんだもの。
ちなみにエロ漫画とかでは、出産前に母乳が出る描写が散見されるが、実際に母乳が出るのは大抵出産後だ。
……それにしても、レイチェルの時にはほぼ育たなかった胸が、このアリゼの身体ではかなり大きく育っているので、なんだか感慨深いな。
これならいつかキエルにさえも、追いつく日がくるのかもしれない。
そう思うと、こうやってリチアに揉まれて育てるのも、悪くないと思えてくる。
……まあ私も、スキンシップ程度の範囲なら、百合百合することは吝かではないのだ。
そもそもの転生の目的が、百合なので。
勿論、リチアのことを恋愛対象として見られるかということについては、全く別の話だが。
たぶん彼女は、悪友ポジションで終わるタイプだろう。
それでもこのアリゼの身体は、レイチェルの時ほど性的な物には抵抗が無いようなので、ある程度はリチアの好きにさせている。
ただし男に同じことをされた場合は、また吐くと思うが……。
その時──、
「大変です、院長!」
私達がいる執務室に、職員の1人が駆け込んできた。
「なんですか、騒々しい。
リチアさんがついに、子供へと手を出したのですか!?」
一応信用できそうな職員には、リチアの性的嗜好について説明して、監視をしてもらっている。
私へのセクハラ程度ならアウト寄りのセーフにしてやるが(※私の気分次第)、それ以外の者に対しては許さない。
「ちょっと、今まで一緒にいたじゃない!
私にはアリバイがあるでしょ!?」
「いえ……普段の行いがね……。
先日も洗濯物の子供達のパンツを、じっくりと眺めていましたよね……?」
「いや……あれは、汚れが綺麗に落ちて真っ白になっているから、どうやって洗っているのか……と、純粋に思っただけで……」
しどろもどろになっているリチア。
まあ、洗濯物については、私の浄化魔法も活用しているから、綺麗に汚れが落ちているというのも、本当の感想なのだろうけども。
でも煩悩も混じっていたよね?
オーラは嘘を吐けないんだよ?
「いいんですよ。
間違いは誰にでもあるんです。
それを素直に認めることが大切なんですよ……。
だからお前の罪を全て吐け!」
「だから、冤罪だってば~っ!!
大体院長だって、毛繕いと称して、獣人の子達にいかがわしいことをしているでしょぉ!?
獣人達を快楽漬けにして、どうするつもりなんだよっ!?」
「なっ!?
あれは本当に毛繕いをしているだけですよっ!?
スキルが高いと、どうしてもああなってしまうだけで……!」
あー! これだから素人は!
エロい人には、それが分からんのですよ!
「院長、リチアさんと戯れるのは、そこまでにしてください!!
本当に大変なんですっ!!」
「あ……はい。
それで、一体何があったのです?」
「子供達が誘拐されましたっ!!」
「「はあっ!?」」
私とリチアの驚愕の声が、見事にハモった。