3 同好の士
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アリゼでございまーす。
今、面接に来た変態に、不採用を突きつけたところだ。
「おいおい、待ってくれよ……。
人の話もロクに聞かずに不採用ってのは、ないんじゃないかい?」
……リチアの言うことも、もっともだ。
だがオーラを見る限り、明らかに性的な目的なのが丸わかりな、ピンク色なんだよなぁ……。
女性のロリコンって初めて見たかも。
……もしかして、私も好みの対象に入っている?
前世の世界ではともかく、こっちの世界だと13~14才は半分大人として見られているので微妙だ。
「……それもそうですね。
でもあなた、小さな女の子を性的な目で見ているんですよね?」
「はい」
はいじゃないが。
正直者なら、なんでも美徳になるって訳じゃねーぞ!?
「駄目でしょ!?
安心して子供達のお世話を、任せられないじゃないですか!」
「確かに私は、小さな女の子が大好きだ。
愛していると言ってもいい。
だけど同時に、決して傷つけてはいけない、守るべき対象だとも思っている。
幼女の笑顔以上の至宝は、この世には存在しないのだから、それを曇らせる奴は死んだ方がいい!
……まあ、君くらいの年齢の娘に迫られれば、受け入れるのは吝かではないが、それはもう自由恋愛だろ?」
リチアはそう熱弁した。
ふむ……「イエス!ローリタ、ノー!タッチ」の精神か。
オーラにも揺らぎが無いので、おそらく本心だな……。
それにこの世界の常識的にも、今の私の年齢くらいの者が大人との恋愛したり、婚姻関係を結んだりすることは結構多いみたいなので、セーフと言えるか。
というか、お腹が膨らんでいる今の私が人様の恋路についてどうこう言っても、説得力があるのかというと、まあその……うん。
そもそも前の世界では第二次性徴後の娘でも、成人年齢に達していなければ性的なことはアウトだったけど、「子供は心身共に未熟だから」と過度に守るのは、子供を馬鹿にしすぎなんじゃないかとも感じていた。
実際に大昔の十代の若者の手記を読むと、私が生きていた時代の十代よりも精神的に大人だと感じる部分が多かった。
厳しい時代だから、早く大人にならなければ生きにくい社会情勢だったというのもあるのだろうけれど、結局は教育や環境次第で子供の精神的な成長スピードも全く違ってくるということなのだろう。
勿論、個人差もあるだろう。
逆に大人になっても精神的には未熟で、判断能力が乏しい者も少なくはないし、年齢で一律に成人を決めるというのも、どうなのかな……という気はしていた。
だからその心身の成長具合が伴ってさえいれば、大人として認めてもいいのではないか──とも。
……まあ、その判断を全ての子供に対して個別にすることは難しいので、一定年齢以下は全部駄目という風にした理由も、分からないでもないけどね……。
どのみちこの世界には、未成年との恋愛や婚姻、そして性的交渉に関する法律は整備されていないようなので、法的なことについては考えても仕方がないが。
「……あなたの言葉の一部については、同意しましょう。
私も男の人はどうでもいいけど、女の子は女の子同士で恋愛すべきだと思うの……という考え方ですし。
あなたが誰を好きになるのか、それはあなたの勝手と言えば勝手ですね」
「おお、君も同好の士なのか!
……いや、それなのに何故妊娠を……?」
「……海よりも深い理由があるので、聞かないでください。
それと、あなたは私の好みではないので、それは留意しておいてくださいね」
どちらかというと、男っぽさを感じるんだよな、この人……。
美人なんだが、銀色の髪もショートカットで、背も高いし、宝塚の男役みたいな印象がある。
あと、変態っぽい。
黙っていれば格好いいけど、変態っぽい(大事なことなので2回)。
私は可愛らしい人の方が好きです。
「ともかく自由恋愛だとしても、うちの子や関係者と付き合いたいのであれば、絶対に私の許可が必要です。
そもそもこれは、恋愛の話ではなく、お仕事の話だということをお忘れなく。
あなたは当院に対して、どのように役に立っていただけるのですか?」
「そうだねー。
私はAランク冒険者だから、いざという時の護衛や、子供達を鍛えることもできるよ。
特に剣は得意だ!」
ふむ……ガードマン兼体育教師枠か。
私は魔力や気の扱いはともかく、武器を扱う技術については大したことないから、それを教えるタイプなら欲しい人材だな。
「では……庭でちょっとテストしてみましょうか」
「え?」
そんな訳で、建設中の校舎と寮が完成するまでの間、我が活動の拠点となっているこの仮の孤児院の庭に、私とリチアは出た。
「じゃあ、私に全力で斬りかかってきてください」
「え? でも君、妊婦さんじゃあ……。
大丈夫なの?」
「動かないので、大丈夫ですよ?」
「いや……意味が分からない。
本当に大丈夫なの?」
「はい」
「それじゃあ……ハッ!」
リチアの横薙ぎの斬撃が、私に襲いかかる。
──が、うん、手加減しているな。
おそらく、寸止めを狙っている。
なんだかんだで優しいんだな、この人。
だが──、
「!?」
リチアの剣は、寸止めするまでもなく私の直前で止まった。
私が形成した「結界」に阻まれたのだ。
「ね? 動く必要が無いでしょ?
手加減は無用ですよ」
「……じゃあ、遠慮無く」
リチアは先程の一撃で、不可視の結界がどの辺にあるのかを把握できたのか、その結界を狙って何度も斬りつけてきた。
今度は私を直接攻撃する必要が無いので、手加減はしていないようだ。
まあそれでも、私の結界を抜けるほどの威力はないが……。
ただ、確かな剣の技術はあると感じる。
たぶんキエルよりは劣るけれど、悪くはない実力だな。
やがて疲れたのか、それとももう無駄だと悟ったのか、リチアの剣は止まった。
「な……なんなの君?
こんな強い結界、見たことがない……」
「……私も冒険者の経験はあるもので。
ただの女の子が孤児院の経営ができるほど、財力があると思いますか?」
「へぇ……もしかして有名人だった?」
「それは秘密です。
それよりもリチアさんはかなりの実力があるのに、何故冒険者を引退しようとしているのですか……?」
彼女ほどの実力があるのなら、冒険者でも金銭に困らないほど稼げるはずだが……。
「……殺伐とした戦いの日々に疲れて、幼女で癒やされたくなった……」
「あ~……」
その気持ち、分からないでもない。
私も日々の戦いに明け暮れる冒険者稼業の中で、マルガやキエルとの触れ合いは癒やしだった。
「分かりました。
それでは今後私のことは、院長とお呼びください」
「それじゃあ……!」
私の言葉の意味を理解したリチアの顔が、喜色に染まる。
「ただし……何故私が実力の一端を見せたのか、その意味をよく考えてください。
子供達を悲しませるようなことをしたら、どうなるのか……分かりますね?」
「ア、アイアイマム!」
私に睨まれて、リチアが姿勢を正した。
「……マムではなく、院長ですよ?」
こうして人員も少しずつ揃い、孤児院兼学院の準備は、着々と進んでいった。