42 遺書?
ブックマーク・☆での評価・誤字報告・感想をありがとうございました! アクセス数もいつもより多くて、ありがたいです。
ところで、昨日「日曜は休み」って書き忘れたので、今週は更新することにします。鬱展開のまま止めるのもあれだし……。
そのかわり用事があるので、火曜日(月曜深夜)には休もうと思います。
それからどれくらいの時間が、経ったのだろう……。
マルガちゃんは棺にしがみついたまま、泣き疲れて眠ってしまったようだ。
せめて応接室のソファーの上に運んであげようか……と思い、うちは棺に近づく。
そこでようやくうちは、レイちゃんの死に顔を見た。
相変わらず綺麗な顔だ。
同性から見ても、少しドキリとするくらい綺麗だ。
…………綺麗すぎないかな?
処刑されたにしては、身体の方にも傷らしい傷が見当たらないし、ただ眠っているだけにしか見えない。
本当に処刑されたの……?
そもそも、何故わざわざ遺体が返還されたのだろう……?
処刑された犯罪者なんて、晒し首にされてもおかしくないのに……。
それに遺品も返還されているって、普通は金目の物とかは没収されるんじゃないの?
うちは遺品が入っているという、箱の中を確認してみた。
中には遺品と言うよりは、大量の金貨が入っていた。
これが没収されていないなんて、絶対におかしい……!
一体どういうことなの……?
うちはレイちゃんの遺書に、目を通してみることにした。
──────────────────────────
キエルさんとマルガへ
突然こんなことになって、2人は驚いていると思います。
騙すような真似をしてごめんなさい。
だけどあなた達に危険が及ばないようにする為には、どうしても私の死をもって、領主の殺害事件を完全に終わらせる必要がありました。
2人にとっては、こんなことで助けられても不本意だったかもしれませんが、これ以上あなた達を巻き込むことに、私が耐えられなかったのです。
本当にごめんなさい。
それに本当のことを事前に話していれば、2人は何が何でも私を生かす為に、貴族や国と敵対する道を選んだことでしょう。
おそらく私がどんなに説得しても、あなた達は止まってくれなかったと思います。
決して仲間を見捨てない──そういうところは、ある意味信頼していたのです。
しかし一度でも貴族や国と敵対してしまえば、最早後戻りもできません。
2人も追われる身となり、二度と表の世界では生きてはいけなくなったはずです。
それだけは絶対に回避しなければなりませんでした。
一方で私は、別人になってやり直すことができます。
おかしなことを書いていると思うかもしれませんが、私は身体の「死」だけでは消滅しない、特殊な能力を持っているのです。
この手紙も、新しい身体で書いています。
しかしこの能力に関しては、実際に死んで見せなければ証明できないので、いくら口で「大丈夫」だと言っても、2人は信じてくれなかったかもしれません。
そうなると2人は私の出頭には納得せず、早まった真似をしてしまう可能性があった為、事前に話すことはできませんでした。
重ね重ね、ごめんなさい。
ところで、2人が「レイ・ヤナミア」として付き合ってきた身体の本当の名前は、「レイチェル」と言います。
このレイチェルという肉体の死によって、私は2人との接点を失ってしまいましたが、せめて身体だけはあなた達の側に埋葬してあげてください。
どうかお願いします。
そして私は……元々は人間でしたが、あなた達から見れば、今の私は化け物の範疇に入っていることは間違いありませんし、実際に化け物だった頃もあります。
私はレイチェルになる前に、キエルさんと会ったこともあるのですよ?
……こんな異常な存在の私だからこそ、これ以上あなた達と関わりを持つことが、正しいことなのか分かりません。
もしかしたら、もう会わない方がいいのかもしれません。
どのみち、レイチェルとして会うことは、もう二度とありませんし……。
それでも、心の整理をつけることができたのなら、いつか会いに行きたいと思います。
それまでは折角後先を考えず動ける身分になったので、国の裏側で大掃除をして、少しでも住みやすい国にしようと思っています。
私が再びあなた達に会えるのが何年後になるのかは分かりませんが、その時は別人になっていることでしょう。
その時の私は、元レイチェルであることを名乗るべきなのか、よく分かりません。
自分でも何が正しくてどうしたいのか分かっていないので、もしかしたら何も言えないのかもしれませんね。
でもあなた達が私の存在に気付かないのならそれでもいいですし、気付いた上で拒絶してくれても構いません。
あなた達が幸せに生きていることが確認できるのなら、私はそれだけで充分です。
キエルさん、マルガ、私にとって2人は未来永劫大切な姉妹です。
これからの人生が幸福に満ちたものであることを、心の底から祈っています。
レイチェル
──────────────────────────
……うん、よく分からない。
この手紙の内容だと、レイちゃんはまだ生きているみたいだけど、でも目の前にはレイちゃんの遺体がある。
もしかしたら、うち達の悲しみを減らす為に、嘘を書いているだけなのかもしれない。
……でも、なんとなく納得できたこともある。
あのゴブリンとレイちゃんの、部分的に赤い髪という共通点。
古代竜が使っていた熱線と、同じ技を使うレイちゃん……。
手紙の中に書いてあった、前にも会ったことがあるって、そういうことなの……?
理屈はよく分からないけど、あの時助けてくれたのは、レイちゃんだった……?
だとしたら、レイちゃんはどうやって今のレイちゃんになったの?
もしも他人の身体を無理矢理奪ったのだとしたら、うちはどう受け止めたらいいのか、分からないよ……。
いや……でも、お父さんと会った時に、お母さんの死について悲しんで怒っているレイちゃんの涙は本物だった。
うちには計り知れない、事情があったって言うの……?
も~っ、意味が分からないっ!!
最後までうちのことを振り回してぇっ!!
それからうちは、手紙の内容について悩み続けた。
暫くして、ノックの音がする。
うちはそれに気付いて、随分と時間が経ってしまったのではないかということに思い当たる。
そういえば、眠っているマルガちゃんも放置したままだった……。
「あ、はい」
うちが返事をすると、ドアを開けてドラグナさんが入ってきた。
そして彼は頭を下げる。
「今回はうちのクランに所属していたハゴータが済まなかった。
あいつは行方不明になってしまったので、これ以上罰することはできないが、お前達には俺自身が償いをしていくつもりだ。
何かあったら言ってくれ。
できる範囲で力になる」
「あ……ありがとうございます」
Sランクの冒険者に頭を下げられて、うちは恐縮してしまった。
いや、ランク的には差はもう殆ど無いのだけど、ちょっと前までは雲の上の人だったし……。
……でも……レイちゃんと付き合ってきた今となっては、そんなに凄い人にも見えない……かな?
「それと……レイについてだが……。
この町を救ってくれた英雄に、最大限の感謝を……。
しかし彼女がその気になれば、この国を滅ぼしてでも生き延びることも可能だっただろうに……。
その選択をしなかったのは、お前達を極力巻き込まない為だろうな」
「……分かっています」
それはもう、疑わない。
「ところで他の人間には秘密だが、俺は『鑑定』のスキルを持っている。
誰にも言うなよ?」
「えっ!?
は……はい」
あのレアスキルの「鑑定」を?
でも、なんで今その話を?
あ……ドラグナさんが、レイちゃんの遺体を見ている。
「ふむ……やはり何度見ても中身がいないな。
スキルや称号がごっそり消えている」
「え……?
それはどういうことなんですか?
鑑定の結果って、生きている時と死んでいる時とでは、違いがあるんですか?」
「いや……遺体の状態にもよるが、殆ど同じだよ。
しかしこの遺体は状態がいいのに、生前とは完全に別人と言っていいほど違う。
中身が何処かへ移動したとしか思えんな。
生前には、それを可能にすると思しきスキルもあった……。
確か『魂の融合』……だったか」
「それじゃあ……!」
それじゃあ……やっぱりあの手紙の内容は本当だったってこと!?
「じゃあ、レイちゃんは本当に生きている……!?」
「おそらくな……。
今どこにいるのかまでは分からんが……」
「そっか……」
なんだかホッとした。
色々と理解できないことだらけで、どう受け止めたら良いのか分からない部分もあるけれど、今のこの気持ちだけは本物だと思う。
うち……レイちゃんが生きていてくれて、嬉しいんだ……。
それを自覚した途端、また涙が溢れてくる。
でも今度は、さっきまであった胸を締め付けるような、苦しい感覚はなかった。
いつかまた会えるのなら、その時まで──レイちゃんがそう望んだように、うち達は幸せになろう。
幸せになる為に、マルガちゃんと一緒に頑張っていこう。
会える日まで、ずっと待っているからね、レイちゃん……!
だってうちら3姉妹の絆は、不滅なんだから……!
次回は「私」視点に戻って、その次が第3章のエピローグです。