41 訃 報
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レイちゃんが独りで旅立ってから、4日ほど過ぎた頃──。
マルガちゃんは、あからさまに元気を無くしていた。
やはりレイちゃんがいなくて、寂しいのだろう。
だからうちは──、
「ほら、マルガちゃん!
毛繕いをしてあげるから、こっちにおいで!」
レイちゃんの真似をしてみる。
だけど……、
「う~……キエ姉、下手にゃ」
「ご、ごめんね」
やっぱりレイちゃんほど上手くいかない。
「こうやるにゃ!」
「えっ!?」
マルガちゃんが、うちの胸を鷲掴みにした。
あっ……これ知ってる。
子猫は母乳を飲む時に、母乳が出やすいようにお母さんのオッパイ揉む習性があって、人間の女性の胸に触った時にも、揉んじゃうことがあるって……!
マルガちゃん……やっぱりレイちゃんが……お母さんが恋しいの?
……って、あれ? なんか上手い?
あっ、そんなにしたら……!
あ、あ、らめ~~~っ!!
……やば……腰が抜けた……っ!
嘘……こんな子供相手に……っ!?
レイちゃんも凄かったけど、まさかマルガちゃんも……だなんて!?
「にゃはははは、勝ったにゃ~!!」
あ……でも、マルガちゃんの元気が出たみたい……。
よかった……。
こうして、うち達はレイちゃんがいない生活にも、少しずつ慣れていった。
だけどレイちゃんがいなくなってから、10日ほどが過ぎた頃──。
ア────ン、ア────ン……。
夜中に子供の泣き声のようなものが聞こえた。
「な、なに!?」
「にゃ……ブラウちゃんの声にゃ」
「え……妖精さんの声?」
今までのうちには、姿が見えないのは勿論、声が聞こえたことも無かったけれど、こんな声なんだ。
「マルガちゃん、なんて言っているのか分かる?」
「マルガにも、ブラウちゃんの言葉は分からないにゃ……。
でも、なんか泣いているにゃ……」
「妖精さんが泣いて……」
古い伝承に、家人の死を泣いて報せてくれるという、泣き女という妖精の話があったことを、うちはつい思い出してしまった。
そんな不吉なことがあるはずない──うちはそう思いたかったけど、妖精さんは一晩中泣き続け、うち達はどうすることもできずに、その鳴き声を聞き続けるしかなかった。
そして2日後、うち達はギルドから呼び出しを受ける。
嫌な予感が……した。
「あの……ギルドマスター……。
今日はなんの用なんですか?」
「ああ……まず、これまで納品してもらった素材の代金を支払う。
金貨300枚だ」
「わ……凄いですね」
ソファーの前にあるテーブルの上に、金貨が入っていると思われる布袋が置かれていた。
金貨300枚は新築の家を買えるくらいの大金だけど、もうそんなに驚かなくなっている。
感覚が狂ってきたなぁ……。
ただ、今後はレイちゃんの大容量空間収納には頼れないので、こんなに稼ぐことはできなくなる。
これからは節約して使わなきゃ……。
「あ~……それからなぁ……。
え~……と……」
ギルドマスターが、何か言いにくそうにしている。
やっぱり、何かレイちゃんにあった……!?
「何があったんですか?
ギルドマスター……っ!?
教えてください!」
うちがそう問い詰めると、ギルドマスターは意を決したように、口を開いた。
「……レイの奴がな、騎士団に出頭した」
「えっ!?」
「にゃっ!?」
「この町には騎士団が駐留していないから、わざわざ騎士団がいる隣の町まで行ってな……。
それからこの地域──ガーランド領の領主がいる町まで護送されて……」
「ちょっ、ちょっと待って!!
レイちゃん、逃げたんじゃなかったの!?」
「えっ、キエ姉、どういうことにゃ!?
レイ姉、用事があるから……って!?
マルガのこと……置いて逃げたにゃ……!?」
「そ……それは……」
マルガちゃんが、愕然とした顔をしている。
だけど今は、なんと説明したらいいのか分からない。
この事態は、うちにとっても想定外だ。
「逃げちゃいねぇぞ」
「え……」
ギルドマスターがそう言った。
「あいつが旅立つ前日にな……ハゴータと会っていたって、目撃証言があってな……」
ハゴータ!?
またあいつ、なんかやったのか!?
「で、2人の話を聞いていた者によると、どうやら前回レイが逃げた後に、あいつの知り合いが代わりに処刑されたらしくてな……。
あいつはそれを知って……床に蹲ったまま、声を上げて泣いていたってよ……。
だからまた逃げたら、今度はお前達が処刑される──あいつはそれを恐れたんじゃないかな?
その結果が自らの出頭だ……」
「そんな……!!」
レイちゃん、逃げるフリをして本当は、最初から自分を犠牲にするつもりだったの……!?
それならうち、絶対にレイちゃんのこと、止めたのに……!!
たとえ国を敵に回しても、一緒に逃げたって良かったのに……!!
「ちなみにハゴータは、レイの奴が転移で連れ去って以来行方不明みたいだから、もう生きている可能性は少ないんじゃないかな。
少なくとも、お前達にあいつが迷惑をかけることは、もう無いだろう」
「ぐっ……!」
なんだよ……!
うち達、レイちゃんに守られてばかりじゃないか……っ!!
でも今度は、うち達がレイちゃん……っ!!
「あの、領主様に陳情はできないんですか!?
レイちゃんはこの町を救ったし、冒険者としての功績も考えたら、減刑を働きかけることも可能なんじゃ……!?」
「そうにゃ、レイ姉を助けるにゃっ!!」
「………………それがなぁ」
ギルドマスターは、物凄く困ったような顔をして、ボサボサの髪の頭を掻いた。
「…………もう処刑は終わって、遺体も返還されているんだよ……」
「え……?」
その言葉を受けて、うちは目の前が真っ暗になるような感覚を覚えた。
うちらは別室に案内された。
その部屋の中心には、棺が置かれている。
「今日、転移魔法が使える術者が直接ここに運び込んでな……。
あと、これは遺品と遺書……だそうだ」
ギルドマスターから少し重たい木箱を手渡されたけど、うちはどこか呆然としていて、中身を確認することもできなかった。
どうも上手く頭が働かない。
「それと、後でドラグナの奴が来るから、よく話を聞いておけ。
絶対にだぞ?
それまでは、好きなだけお別れをしな」
ギルドマスターが部屋から出て行ったけど、うちはなかなか動けなかった。
棺に近づくことさえ、躊躇われる。
現実を見るのが、怖かった。
だけど、マルガちゃんは、ゆっくりと棺に歩み寄っていく。
そして棺の中を覗きこんで──
「レイ姉……?
起きてにゃ、起きて……」
呼びかけるが、何も反応は返ってこなかった。
それでもマルガちゃんは、何度も呼びかけるけど、やっぱり反応は無く、段々その呼びかける声は涙声になり、ついには──、
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!
レイ姉ぇぇぇぇ!! レイ姉ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
号泣に変わった。
うちはそれを聞きながら、まだレイちゃんの遺体をハッキリ見ていないのに、その死を実感せざるを得なかった。
でも、うちがしっかりしないと。
これからはうちがマルガちゃんを育てていかなければならないんだから、泣いている暇なんて──、
だけど結局耐えきれなくて、うちは立ち尽くしたまま、すすり泣いた。
クラサンドの町に騎士団がいないのは、冒険者が多く集まっていて、戦力的には十分だから……なのと、最優先で守るべき貴族が住んでいないからです(万が一ダンジョンから魔物が溢れたら危険な為)。
どちらかというと、冒険者ギルドによる自治区に近い感じですね。