39 とある冒険者の終焉
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ダグズが死んだ……!?
私、逃げてって言ったよね?
彼は……逃げなかったの……!?
ああ……でもダグズは、レイチェルが酷い虐待を受けていることを知りながら、彼女を屋敷から連れ出さなかったことを悔やんでいた。
だから彼は逃げることもせず、自ら裁かれることを選んだのか……!?
「ああ……」
くそっ、あの時の私は、母親の死とマルガを連れ出すことで一杯一杯だったけど、それでもダグズも一緒に連れて逃げれば良かった……っ!!
「あああああああああ……っ!!」
私は馬鹿だ……っ!!
父親に対して、「母の死も知らずにのうのうと生きていた」ことを詰っておきながら、私も同じじゃないかっ!!
そして私がまた逃げれば、キエルとマルガも処刑されるかもしれない。
だから私は逃げられない。
勿論私の実力ならば、このレイチェルとしての人生を守る為に、貴族や国と戦うという選択をしたとしても、勝つことはできるだろう。
けれど、それはもう戦争だ。
そうなると、私が望まない殺人を大量に行わなければならない事態も、関係ない人間を巻き込んで死なせてしまうことも、決して無いとは言えなくなる。
私はもう、ダグズのような犠牲は見たくない……っ!!
しかも国という大きな存在と戦い始めたが最後、それが何年も続いてしまうことも有り得るだろう。
全てを滅ぼすだけなら簡単だが、無関係の人間を巻き込まないように、手加減して戦うのは困難だ。
そんなリスクと労力に見合わない戦いに身を投じるくらいなら、レイチェルの身体にはこだわるべきではない……。
……あるいは、入念に時間をかけて戦いの準備を整えていれば、無用な犠牲を生じさせずに勝利することも可能なのかもしれないが、今は時間が無さすぎる。
現状では国と敵対してなお、キエルとマルガを確実に守りきれるという自信が無いし、2人の安全を最優先するのならば、私が消えるしかないのだ。
もう……レイチェルとしては、生きられない……っ!!
全てが終わりだ……っ!
「ははっ、泣き叫んで……。
所詮は子供だなぁ!
なんでこんな奴が、大きな顔をしていたんだかっ」
全く……今回ばかりはハゴータの言う通りかもな……。
だが──、
「……逃がさん……お前だけは!」
私に睨め上げられて、ハゴータは一瞬「ギクリ」とした顔をした。
しかしそれは、すぐに呆然としたものへと変わる。
「なっ!?」
周囲が見たこともないような深い森の中へと変わったのだから、当然だろう。
私が転移で強制的に連れてきた。
「なんだここは!?」
「……私の……故郷ですよ?」
「それはサンバートル……の?」
「いえ、もっと北です」
本当の私が生まれた場所。
北の──そのまた北の、人類が全くいない懐かしき土地……。
「こ、こんなところに連れてきて、俺をどうするつもりだっ!?」
ハゴータは怯えている。
まあ、ここでなら、殺されても証拠が見つかることはないしな……。
だけど、そんなことはしない。
「何もしませんよ?
今回のことは、私の身から出たサビ……。
だからあなたに対しても、殺したいほどの怒りは無いのですよ」
「じゃあ、早く町に帰せっ!!
帰せよぉ!!」
「だから……何もしないって言っているじゃないですか。
自分の足で帰ってくださいね。
南に5年ほど歩けば、人里に辿り付けるかもしれませんよ?」
「おま……ふざけんなよっ!?」
「ふざけてはいません。
私もそれだけの時間をかけて、ようやく人里に辿り付いたのです。
その時の私の気持ちを、あなたも味わってください」
「はぁ!?
意味が分かんねーぞ!?」
「別に分からなくても結構です」
ハゴータに対しては恨み骨髄だが、それでも私は私自身の馬鹿さ加減に呆れて、こいつに八つ当たりするのも何か違うと感じていた。
ただ、こいつは放置していたら、キエル達にまで危害を加えかねない。
だから、殺すまではしない──が、放置もしない。
ハゴータには、最低限生きるチャンスだけは与えよう。
そして私がどれだけの苦難の末に、今の私に辿り付いたのか──。
それを彼自身の身をもって、思い知ってもらおう。
「サービスに……多少の食料と、スコップを置いていきますね。
穴を掘る以外にも、武器とかにも使えて、便利ですよ?」
極めれば、波動砲も撃てるかもね?
私は空間収納から適当に物を取り出して、ハゴータの目の前に置く。
それを見てハゴータは、私が本気だということを理解したようだ。
「この……いいから、元に戻せよ……っ!!」
ハゴータはスコップを手に取って、振り上げた。
暴力で私に言うことを聞かせようとしているのだろうが、お前じゃ無理だ。
ハゴータのスコップが私に届く前に──、
「ちょっ!?」
私は転移した。
さようなら……。
お前の望み通り、2度と顔を見ることもないだろう。
私は家の前に帰ってきた。
はあ……なんだか、入りづらいな……。
これからキエルに、お別れを言わなければならない。
マルガは……泣いて駄々をこねそうだから、言わない方がいいかな……?
あ……玄関のドアが開いた。
ブラウニーが出迎えてくれたのか。
この子との付き合いはまだ短いけれど、随分世話になった……。
思えば……私が冒険者になってから、まだ2ヵ月くらいしか経っていないんだよなぁ……。
それなのに、色々なことがあった。
そしてこれからも色々なことがあるはずだった。
そんな未来が……全部消えてしまった。
でもこの冒険者生活を、終わりにしたくない……。
終わりにしたくない……よぉ……。
……だけど私がけじめを付けなきゃ、本当の意味で全部終わってしまう。
私の大切な物が、全部無くなってしまう……。
私は私の大切な物を守る為に、自身を捨てる覚悟を決めなきゃならない。
冒険者としての私は、今日終わる。
レイチェルとしての人生も、もうすぐ──。
私は涙を拭いて、玄関をくぐった。
「ただいまー」
この言葉を言うのは……今日のこれが最後だ。
暫く鬱展開は続きますが、4章に入ればもう殆ど無い予定なので、苦手な人は頑張って乗り越えてください。