閑話 カシファーンの誤算
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我の名はカシファーン。
偉大なる魔王様が腹心・四天王が1人、暴虐のカシファーンなるぞ。
……だが、今や魔王軍にはかつての勢いは無く、散り散りになって各地で潜伏している。
一時は世界を征服する寸前までいっていたのに、なんと嘆かわしい……。
我もこの地下に潜ってから、数十年以上が経っている。
……もう嫌だ。
暗くてジメジメした地下生活は気が滅入る。
たまに転移魔法で地上に出ているが、我らが自由に生きられる場所は、人間のいない秘境ばかりで、そこの住み心地は良くない。
それに徐々に繁栄していく人間達の文明を見ていると、潜伏生活を送っている我らのことがより惨めに思えてくる。
これというのも、全部あの勇者が悪い。
あいつが我が愛しの魔王様を倒してしまった所為で、こんなことになってしまったんだ……。
あの後「残党狩り」と称して、人間共が散々我らを追い回し、地獄の日々だった。
そしてようやく手に入れた安住の地が、この地下に作ったダンジョンとは情けない限り……。
だか、雌伏の時も、やがて終わる。
このダンジョン内には無数の魔物を召喚しており、それらが独自の生態系を形成している。
そしてその生存競争の中で命を落とした魔物の死体は、ダンジョンに吸収されて、我らが魔王様復活の為のエネルギーとなっているのだ。
魔王様が復活の暁には、人間共など滅ぼしてくれる。
ハーッハッハッハ!!
……いかん、このダンジョンが人間共に見つかった。
入り口をただの洞窟に偽装していたのに、何故わざわざこんなところに入ってくる!?
幸い魔物に阻まれて、我らの居場所には辿り着いてはいないが、ダンジョンを拡張して更に深く潜らなければ、我々に危険が及ぶどころか、魔王様の復活も邪魔されかねん。
……まあ、ダンジョンの拡張には、魔王様復活の為のエネルギーを消費してしまう為、復活が遅れてしまうかもしれないが、やむを得ん……!
潜伏生活200余年、もうじきこの生活も終わる。
実に長かった……。
このダンジョンに人間の侵入を許した時は、どうなるかと思ったが、連中は未だ50階層を突破することもやっとの状態だ。
しかも連中が倒した魔物や、連中自身の死が、このダンジョンにエネルギーを注ぎ続けている。
これならば魔王様の復活も、そう遠い未来の話ではないのかもしれん。
我々の勝利は目の前だ……!
……と思っていたら、いきなり我らの目の前まで人間共が迫っている!?
どうやら我々がダンジョン内の移動の為に使っていた転移装置を、逆に利用されたようだ。
本来ならば連中が送られた空間は、正しい手順を踏まなければ脱出はできないはずの場所だ。
その手順を知らない人間共は、閉じ込められたまま餓死するしかなかったはずではなかったのか!?
仮に脱出したところで、あの階層にいる強力な魔物達を相手に、人間共が対抗できるはずなどなかった。
なのに連中は、魔物達を突破して、我らの元へと近づいている。
だから我は、魔将ヴェルフォに迎撃を命じた。
しかしそのヴェルフォすら、撃破されるとは……!!
そんな馬鹿な!? ヴェルフォは先の勇者との戦いにも生き残った猛者だぞ!?
幸い連中は引き返していったが、こうなってはこのダンジョンの破棄も考慮しなければならん。
まずは他の地に潜伏している仲間と連絡を取り、魔王様のお身体を移動させる準備を整えなければ……!
それまでの間、時間稼ぎも兼ねて、ダンジョン内に召喚する魔物の数を増やすぞ。
そして魔王様のお身体を移動し終われば、召喚した大量の魔物の力を借りて、地上に打って出る。
魔将ヴェルフォを倒した者達を放置すれば、我ら魔族の重大な障害になるかもしれん。
なんとしても、今のうちに潰しておかなければっ!!
あ────っ!?
あいつら、また来た──っ!!
しかも、もう我々がいる階層の目前まで迫っている。
今は古竜ガルガ殿に迎撃に出てもらっているが、かつては四天王の一員だったとは言え、今や高齢で引退した身……。
万が一も有り得る。
ガルガ殿が時間を稼いでいる間に、なんとしても魔王様のお身体を移動しなければっ!!
まだか? まだかっ!?
よし、終わったな!?
えっ、ガルガ殿が討ち死にしたって!?
もうやだぁ……。
……いや、こうして嘆いている場合ではない。
取りあえず、魔物の群れを向かわせて、ガルガ殿との戦いで疲弊しているはずの奴ら襲撃せよ!
我らはその間に地上へ向かって、人間共の町を襲う。
いかに強い人間だとしても、その拠点を失えば、かなりの打撃になるはずだ。
そして奴らが地上に戻ってきた頃には、壊滅した町の姿を見て、愕然とすることになるだろう。
そこを狙って、我らが全軍をもって潰す!!
はああああぁぁぁ──!?
なんであいつら、我らよりも先に地上にいるのだ!?
あのフロアは転移を阻害する仕様になっていたから、戻るにしても大量の魔物が配置された通路を突破しなければならなかったはずだ。
最下層へ進めば転移できる場所もあったが、そこまでの階段はかなり長いし、我らが居住区画を目の前にして、何も調べずに無視して帰るとも思えん。
本来なら何も無い場所を、延々と探索することになっていただろう。
どのみち、こんなに早く戻って来られるはずは無いのに……。
ともかく我々が地上に辿り着いたら、空から魔物が大量に降ってきて、阿鼻叫喚の地獄絵図になっていた。
ええぃ、魔物の死体が邪魔で、前に進めん。
ここは攻撃魔法で吹き飛ばそう。
しかしこのダンジョンの出入り口周辺を、ぐるりと囲んでいる結界は一体……。
強力すぎて、すぐには解除できないぞ……。
仕方が無い。
空を飛べる者や転移できる者は、先行して人間共の町へ!!
って……おや?
何か無数の光が──。
ぎゃああああああああ────っ!?
……そ、そんな、我らが魔族の精鋭が全滅……だと!?
残ったのはこの我と、我が従魔であるサンダザとガイラガだけだ。
なんとか防御結界が間に合ってよかった……。
……おのれぇ、こうなったら我自らが彼奴を討つ!!
サンダザとガイラガは、雑魚を掃討するのだっ!!
…………惨敗でした。
逃げるだけで精一杯でした……。
許せ、我が身代わりとなって散ったガイラガよ……っ!
というか、なんなの、あいつ!?
昔戦ったことがある、勇者よりも強いんですけどぉ!?
もしかして当代の勇者は、彼奴なのか……?
あんな小生意気な幼女のクセして……っ。
ぐぬぬぬぬぬぬぬぬっ!!
彼奴の所為で、魔王様の復活も大幅に遅れることになりそうだ。
だが、これは好都合かもしれん。
人間の寿命は短い。
魔王様が復活する頃には、あの化け物もこの世にはいないはずだ。
魔王様が復活した遠い未来には、最早邪魔者はいない。
その時こそ、我らが魔族の春だ!
……そう思っていた頃が、我にもありました……。
なんでまだいるの、あいつ……?
なんだか書いているうちに可愛くなってきた……。でも、次に出てきた時に生き残れるのかは未定。