37 終わり
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……さて、これから女悪魔にトドメを刺す訳だが、身体を完全に破壊すれば「乗っ取り」は発動しないはずだけど、我が全力の物理攻撃ならいけるかな?
本当は「乗っ取り」の射程範囲外で倒した方が無難なんだけど、この女悪魔は転移魔法を使えるから、距離を置くと逃げられる可能性があるんだよなぁ……。
よし、本気で殴ろう。
ビームサーベルの要領で、右の拳から熱線のエネルギーを常に放出しつつ纏わせる。
これで灼熱のゴッドフィ●ガーの完成だ。
これを対象に叩き込み、内部でエネルギーを炸裂させれば、全身が爆散するはず。
さあいくぞ、フルパワー──100%中の100%!!
『ひ……ひぃ……!!』
私が拳に纏っているエネルギーの強大さを感じ取ったのか、女悪魔は怯えていた。
見た目が美人なのでちょっと可哀想に感じるが、ここで逃がしたらまた人間に危害を加えるのだろうし、ここは心を鬼にして始末することにする。
ところが──、
『……来いっっ!!
ガイラガァァっっ!!』
「んっ!?」
女悪魔が叫んだ瞬間、索敵に反応があった。
先程トドメを刺し損ねたあの鎧虎が、こちらへ突っ込んできたのだ。
ガイラガってこいつの名前か?
まさか、もう1匹はサ●ダとか言わないよね?
まあ、それはさておき──、
う~ん、無視できるような相手ではないのだが、多少はダメージを受ける覚悟で、今は女悪魔の方を優先させるか。
しかしそれを判断する一瞬の隙を突いて、女の身体が光る。
「はっ!?」
直後に激しい爆発が、私の身体を飲み込んだ。
咄嗟に「結界」で防御したが、完全に防げた訳ではない。
重傷には至らないが、そこそこのダメージを受けている。
馬鹿な、自爆した!?
なんで、なんでそう、変な方向にばかり思い切りがいいのよ!?
……いや、自分自身を中心にして攻撃魔法を発動させただけで、死なない程度に威力は抑えているはずだ。
この爆発のどさくさに紛れて、逃げるつもりかっ!?
私は索敵で女悪魔の行方を探るが、その時には既に、爆炎に紛れて鎧虎が私の目前まで接近していた。
「ちいぃぃっ!!」
私は女悪魔に対して使うはずだった攻撃を、鎧虎へと打ち込む。
私の全力の一撃は、空振りをしたのかと思えるほど手応えが無く、鎧虎の全身を消し飛ばす。
衝撃波が周囲の爆炎を完全に吹き散らし、上空の雲すらもかき消えた。
当然、「乗っ取り」は発動しない。
そして改めて女悪魔の行方を探るが、索敵の範囲にはいなかった。
本来なら女悪魔の方が、あの鎧虎のようになるはずだったのだが……。
……ちっ、転移で逃げたか……。
「キエルさんとマルガは……」
私の本気の一撃から発生した衝撃波を受けて、冒険者達は吹き飛ばされたようだが、まあ健在のようだ。
残り1匹の魔獣も討ち取られている。
あとは、ザコを掃討すれば終わりだろう。
……じゃあ後始末は冒険者達に任せて、私は女悪魔の行方を調べるとしようか。
私は転移で、ダンジョンの80階層に来ていた。
女悪魔が逃げ込むとしたら、この先しか思いつかない。
ボスフロアを抜けて、階段を下りる。
長い長い階段で、下りるだけでも10分以上かかった。
そしてその先には、また広いフロアに出る。
……何もいないけど、本来はここにボスが設置されていたのかな?
そこを抜けて、再び階段を下りると、これまた長い。
また10分ほど続くが、まさか無限ループじゃないよな……?
あ、ようやく階段が終わった。
そしてその先には通路が続いている。
通路の両側には、いくつもの部屋があったけど、中には誰もいない。
ただかつては、ここで何者かが生活をしていた痕跡があった。
魔族がここで潜伏していた……ということなのだろう。
まあ、その魔族の殆どは、私のホーミング・レーザーの餌食になったはずだが……。
ただしこのダンジョン内に、まだ残党がいるという可能性は否定できない。
いずれにしても、この階層に何者かが残っている気配は感じられなかった。
それでも一応全ての部屋の中を、確認しておく。
ついでに金目の物があったら、回収しておこう。
さて……問題は、通路の1番奥だが……。
そこはボスフロアほどではないが、広い空間になっていた。
その中心には、石棺のようなものがある。
ただし、床から無数に生えた管と繋がっていて、かなり怪しい。
しかし中身は、既に空だった。
「ふむ……ここに入っていたモノに、ダンジョンが冒険者や魔物の死体から吸収したエネルギーを供給していた……?」
これはいよいよ、ここに魔王の遺体があって、復活させる為の準備をしていたという可能性が高くなってきたな……。
だから魔族は、私達がここに近づいたことに焦って動き出したのかもしれない。
そしてここに魔王の身体が無いということは、既に別の拠点へと移送してあるのだろう。
おそらく魔族が地上への侵攻を開始した時点で、ここには何も無かったはずだ。
……ならばわざわざ地上に侵攻して、人間に喧嘩を売る必要は無かったはずなのだが、この拠点を放棄せざるを得なくなったことへの──あるいは仲間を倒した私達に対しての──その報復をしなければ、気が済まなかったってことなのかな?
まったく……魔族の考えることはよく分からん。
いずれにしてもあの女悪魔が逃げ込むとしたら、それは別の拠点の方だろう。
ここにはいない。
……完全に逃げられたか。
じゃあ、私も地上に戻るか。
戦いは終わっても、怪我人は数え切れないほどいるだろうから、回復魔法を使える私としては、これからの方が忙しくなるだろう。
おっと、その前に家に帰って着替えていくか。
正体を隠す為の帽子とマントは、女悪魔との戦いでボロボロになってしまったからなぁ。
回復役をするだけなら、正体を隠す必要も無いだろう。
むしろ恩は、分かりやすく売っておいた方がいいな。
癒やし聖女──そう呼ばれる日も、そう遠くないかも?
ともかく、これで日常が戻ってくる──この時の私はそう思っていた。
だけど、そうはならなかった。
これからが──終わりの始まりだったのだ。
次回は明後日に更新の予定です。そして2回ほど閑話を挟みます。