7 空腹は敵
ブックマークありがとうございました。
ハズレ転生特典を引き当てて、生後数ヶ月で既に詰みかけている哀れな小動物は誰でしょう。
そう、私です。
……あの女神、本当に私の心を折りにきているなぁ……。
今度転生して会う時は、クレーマーと化して私の気が済むまで苦情を聞かせてやる。
──って、あの女神の顔も名前も知らないぞ!?
これじゃあ、再会しても「別人です」と言い張られたらどうしようもない。
ぐぬぬぬ……あの認識阻害はそういうことだったのか。
クレーム対策をしているとか、神にしては器が小さくないか?
それにしても、これからどうするべきか……。
能力の検証はしたいけれど、安易に他の身体へ乗り移る訳にはいかない。
だって、今の私が簡単に倒せるような、弱い生き物は論外なんだもの。
実際、弱い動物の身体なんて手に入れても、この弱肉強食の自然界の中では、生存率が下がるだけだ。
手に入れるのなら、少しでも強い生物の身体でなければいけない。
だけど、このネズミの身体で倒せる強い生物なんて、存在するか?
勿論、やり方次第では、格上に勝つことだってできるかもしれない。
しかしこの身体では、そのやり方を試行錯誤するのが難しい。
一度でも失敗すれば、その時点で返り討ちに遭って死亡する可能性が高いからだ。
マジでどうするんだ、これ……。
私はどうすればこの状況を打破できるのか、悩み続ける。
悩んで悩んで、一体どれくらいの時間が過ぎたのだろう?
その時、私は重大なことに気付いた。
……お腹が減ってきた。
やっべ!
確かネズミって、種類によっては数時間で餓死するんじゃなかったっけ!?
長くても、2~3日くらいか。
かなりシビアなタイムリミットがあるよ、この身体!
まずは最優先で食べ物を探そう。
乗り移りが発動しちゃうから、生き物を狩るのは最終手段だな。
できれば木の実か何かが手に入ればいいんだけど……。
しかし、食料を探して外をうろつき回るのにも、危険が伴う。
ネズミを捕食する動物なんていくらでもいるだろうから、油断すれば私の方が食料になってしまうぞ……。
くそう……隠密スキルみたいのが欲しいなぁ……。
結局そういう技術も、生きていく中で少しずつ学んでいくしかないんだな……。
とにかく周囲を警戒しつつ、慎重に活動しよう。
それから私は、餌を探してみるものの、やはり簡単には見つからない。
1~2時間かけて、ようやく小さな木の実やキノコが手に入るって感じだ。
いや、虫なら沢山いるんだが、身体の乗り移りが発動してしまうのが怖いし、そもそも精神衛生的に食べたくないのでスルー。
幸いこの身体が憶えているのか、何が安全に食べることができるのか、それがなんとなく分かるのは非常に助かるが、常に餌を探し続けて、それ以外の行動が何もできない現状はマズイ。
もたもたしていると、ネズミの寿命なんてあっという間に終わるしね……。
なんとか餌を備蓄できれば、他の作業に時間を使えるようになるかもしれないけど、いざ身体を乗り換えたら、その備蓄が生態の違いで全く食べられなくなるという可能性もある。
それは逆に時間の無駄だな……。
というか今はいいけど、冬になって餌が更に少なくなったらどうなるのか……。
その時の身体が冬眠するかどうかでも、生き残る為の難易度が変わってくるな……。
いっそ冬眠できる方が楽だけど、冬眠に失敗して永眠する個体もいると聞くから、全くリスクが無い訳でもないんだよなぁ……。
はぁ……やっぱり現状を打破する為には、身体の乗り換えを駆使するしかないのかなぁ……。
餌を探しながら、倒せそうな獲物も探さないと……。
翌日、私は獲物になりそうな相手を見つけた。
それは野ウサギである。
先程から離れた場所で観察しているが、ただひたすらに草をモシャモシャと食んでいるだけだ。
……うむ、あれはいいな。
その辺の雑草を食べるだけなら、食料に困らない。
それは大いに魅力だ。
だが、戦闘力はどうなのだろう?
まず、今のネズミの私が勝てるかどうか。
そして勝ってウサギの身体を乗っ取ることができたとして、他の動物を倒して、別の身体を手に入れることができるのか──。
戦闘力については、ネズミもウサギも同じ齧歯類だから、皆無では無いはずだ。
齧歯類は、意外と強い。
確かビーバーに脚の動脈を噛み切られて失血死した人間や、動物園のカピバラがサルを噛み殺したという例もあった。
ただ、今の私の小さな歯では、ウサギの毛皮を貫けるのか、それは分からない。
それに異世界だと、肉食のウサギや、首をはねにくるウサギがいてもおかしくないし。
まあ、ウサギはさっきから草を食べているだけだから、肉食の可能性は小さいだろうけれど……。
いずれにしても、想定外のリスクは有り得るが……このまま何もしないのでは、現状が変わらないのも確かだ。
よし、取りあえず倒せるかどうか、試してみるか。
ただし反撃を受けたら即死しかねないので、一撃を加えて効果が薄いと思ったら、その時点で失敗だと判断して即撤退だ。
つまり、一撃離脱戦法。
私はウサギの背後から、ゆっくりと接近を試みる。
だが、あと30cmくらいのところまで近づくと、ウサギが振り向いた。
「!?」
……が、ウサギは相手がただのネズミだった為、脅威が無いと判断したのか、再び草を食べ始める。
セーフ……!
だけどウサギは、完全に私の気配を感じ取っていたようだ。
たぶん耳がいいから、私が出した微かな足音に反応したのだと思う。
今後はもっと気配を殺さないと、接近することすら難しいだろう。
しかし今のウサギは、完全に油断している。
チャーンス!
私は全速力でウサギの背中に駆け上り、そして弱点であるはずの首筋に、長い前歯を突き立てた。