35 クラサンド防衛戦
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飛行する魔物が数多く出現した──。
これは冒険者達にとっては、絶望的な状況の変化だと言って良い。
冒険者達のほぼ全員が、空中戦をするだけの能力を持たないからだ。
勿論、魔法や弓矢での狙撃は可能だろうが、飛行能力を持つ魔物の多くは強大な存在である場合が多く、撃退は難しいだろう。
……となると、私がやるしかないか。
…………広範囲索敵によるマルチ・ロックオン完了。
いくぞ、レイチェル48の必殺技の1つ──、
ホォォォォォ──ミングっ・レィ──ザァァァァァァ──っ!!
私は両手の掌から、熱線を撃ち出した。
そしてその熱線が敵の集団に到達する前に拡散させ、個別に狙い撃ちする。
術の制御は難しいが、この方が熱線を何発も撃つよりは魔力の消費が少なくなるし、空中だけではなく地上の敵も全て狙えるので効率が良い。
なお、拡散した熱線の1つ1つが、あの悪魔を余裕で倒せるだけの威力がある。
逆に言えば、これで生き残っている奴は相当ヤバイ。
キエルとマルガ以外では、個人で対応できる冒険者はほぼいないんじゃないか?
……で、ダンジョンの入り口付近で生き残った魔物は、3体だけのようだ。
ダンジョンからの魔物の流出も止まったようだし、この3体さえ片付ければ、あとは冒険者達が今戦っているザコの掃討で、この戦いは終わる。
だが、あの3体は確実に強い。
さっきよりも威力を高めた熱線を撃ち込んで、瞬殺した方が良さそうだな。
もたもたしていたら、冒険者どころか町にも被害が出かねないし。
それだけ舐めてはかかれない相手だ。
私は再び熱線を撃つ為に、魔力を集中させる。
が──、
「っ!?」
背後に気配を感じて、慌てて振り向いた。
同時に「結界」を形成してガード!
その瞬間、「結界」に何かが衝突して、激しい衝撃が伝わってくる。
……おそろしく速い手刀──私でなきゃ見逃しちゃうね。
というか、ダンジョンの入り口付近の敵が、3体から2体に減っている。
ここまで転移してきたということか。
『貴様か……。
魔将ヴェルフォを討ち取り、あまつさえ古竜ガイガまで滅ぼした者は?
まさかこのような小娘がな……!』
そう語りかけてきたのは、黒髪と切れ長の目が印象的な美女だった。
ただし、頭には2本の角と、背中に翼、そして尻尾を生やした、いかにも悪魔という風貌の美女だ。
しかも肌の露出が多い服を着ていて、実にえっちである。
思わずシ●ミ子が悪いんだよ?──って言いたくなる風貌だ。
それにしても、魔将ヴェルフォが……。
あの悪魔、結構高位の悪魔だったんだな。
あれでレッサー級とか言われたらどうしようかと思った。
そしてこの女悪魔の口ぶりから察するに、あの80階層の守護者は更に強大な存在だったようだ。
でも、そいつを倒したのは、実質キエルとマルガなんだ。
私は防御担当だったからね。
で、残り2体の魔物が、その古竜ガイガとかいうよりも格下ならば、キエルとマルガだけでも対処は可能かもしれない。
だけどこの女悪魔は、たぶん私が見てきた敵の中で1番強い。
こいつだけは、私がどうにかしなければいけないだろう。
「……そうだとしたら、なんだというのです?
あなたが仇討ちをするとでも、言うのですか?」
『ふん、敗者の仇を討つ義理は無い。
だが、下等な人間にしては考えられぬほどの、その強さには興味がある。
誇りに思うがいい……!
魔王軍四天王が1人、このカシファーンが遊んでやろう!!』
「ぶっ」
私は思わず吹き出した。
リアルで四天王を名乗る奴が実在するとは……。
しかも名前が菓子パンて!(空耳)
あと、「魔王軍」って、重要な情報を漏らしちゃってますが。
まあ、私を生かして帰さないつもりなのだろうけど、ちょっと油断しすぎじゃない?
『なんだぁ……貴様ぁ?』
おや?
おこなの?
だけど私も怒っているよ。
あまり悠長に相手をしていて、キエルとマルガを危険に曝したくはないしね。
やっぱり残り2体の存在は気になる。
「……私は遊ぶつもりはないので、さっさと片付けさせてもらいますよ?」
私は掌からビームサーベルを形成する。
それに対抗したのか女悪魔は、空間収納から2mは刃渡りがある巨大で禍々しいデザインの剣を呼びだした。
魔剣の類いかな?
私はビームサーベルを構えて、いつでも斬りかかれるようにする。
──かのように見せかけて、ビームサーベルを熱線に変化させ、今まさに戦場の方へと突進していたあの2体の魔物目掛けて撃ち放った。
『!?』
2体の魔物には直撃こそしていないが、結構な大爆発が発生してそれに飲み込まれたので、無傷とはいかないだろう。
これでキエル達の戦いが、少しでも楽になればいいのだが……。
私が直接助けにいければいいのだけど、この女悪魔を相手にしながらだと、今の不意打ちが精一杯だろう。
だからなるべく早く、この女悪魔を始末する。
私は再びビームサーベルを形成して構えた。
『この私を相手に、余所へ気を散らしているとは、余裕だなぁ!?』
激高した女悪魔が、魔剣で斬りかかってくる。
私は結界で受けようとしたが、なんだか嫌な予感がしたので、転移で10m以上後退する。
結果目標を外した魔剣は、空振りをした──はずなのだが、斬撃が通り過ぎた下の地面が大きく割れた。
「なんという威力……!」
あれはかすっただけでも、ダメージを受けるわ。
ギリギリで回避するのは勿論、結界で受けるのも危険だな……。
ならば──、
『!!』
遠距離から風魔法で生み出したカマイタチを、女悪魔へと撃ち込む。
それは直撃したはずだが、彼女が致命的なダメージを受けた様子は無かった。
それどころか、転移を使って一瞬で私に迫り、斬撃を繰り出す。
「ぐうっ!!」
私は全力で結界を張って受け止めたが、凄まじい衝撃が私の身体を突き抜け、気がついたら先程の場所よりも数十メートルも吹き飛ばされて、地面に転がっていた。
『ふん、その程度か……!』
……マジか。
そこそこ力を入れた攻撃のつもりだったんだが、大して効いていないどころか、すぐ反撃してくるとはな……。
伊達に四天王を名乗ってはいないな。
でもこれなら──、
「あははは……」
私は笑いながら立ち上がった。
『……?
何がおかしい?』
「いえ……久しぶりに本気を出しても、良さそうなのでね。
楽しくなってきました」
私はレイチェルの姿になってから、自身にかけ続けていたリミッターを、解除することにした。