34 溢れるダンジョン
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私達は転移を邪魔する力場が無い場所まで移動してから、自宅の庭まで転移した。
町の方を見てみると一見変化は無いが、なにやら騒然とした空気を感じる。
遠くからは歓声とも怒号ともつかない、声のようなものが聞こえた。
ん~……どれどれ?
「わっ!?」
下の方からキエルの驚いた声が、小さく聞こえてくる。
私は50mほど上空へと転移したのだ。
そして風の魔法を使って、その場に滞空する。
そこから見渡すと、ダンジョンの入り口付近に無数の人影──いや、魔物の姿もある。
それが数千ほど確認できた。
あ~……ダンジョンの入り口を覆っていた壁も、完全に崩壊しているな。
どうやらダンジョンから溢れ出した魔物に対して、冒険者達が防衛戦をしているようだ。
ただ、数の上では冒険者の方が少なく、不利に見える。
まあ、上層の魔物程度なら、熟練の冒険者にかかれば1人で何十体も倒せる。
だから防衛線は、まだ暫くの間は突破されないはずだ。
だけど下層の魔物が出てくれば、冒険者達は一気に劣勢に陥るだろう。
事実上、70階層以上に出現する魔物と戦えるのは、我ら3姉妹しかいないが、その私達だって集団が相手では分が悪い。
だから他の冒険者たちならば、あっという間に倒されて、戦線は瓦解するに違いない。
いや、私が本気を出して参戦すれば、話は別だが。
……こりゃ、早く援軍に駆けつけないとヤバいな。
私は下に転移する。
「魔物が地上に出てきたようです!
今から現場に向かいますよ!」
「えっ、ヤバイじゃん!?
う、うん、分かった」
「竜じゃないのなら、頑張って倒すにゃ!」
それじゃあ転移で──、
「あ、ちょっと待ってください」
私は家に駆け込んで、取り出した帽子を深々と被り、マントで全身を覆った。
某最後のファンタジーの黒魔導師みたいな見た目に、偽装したという訳だ。
「なに、その格好……?」
「私が本気を出したら、さすがに隠密のスキルを使っていても目立ちますからね……。
あまり好奇の目に曝されたくありません」
ダンジョン内なら人目は少ないが、何百人も目撃者がいる場所で実力を見せると、面倒なことになりかねないからなぁ……。
というか、ただでさえSランク冒険者として、貴族から目を付けられる可能性が高い状態なのだから、これ以上の名声は邪魔なだけだ。
まあ、この程度の変装で私の存在を隠し通せるのかは怪しいが、他人に追及されても「別人です」と言い張る理由にはなる。
いざという時は、ギルドマスターが庇ってくれるかも……だし?
そして最悪の場合、この身体を捨てて逃げればどうにでもなるが、キエルやマルガと別れて今の生活を捨てるのは忍びないし、できればレイチェルの存在が完全に死んでしまうようなことにはなって欲しくない。
だからこの町の人間には、正体不明の人物に救われたと認識させるのがベストだ。
「それでは行きますよ!」
私達は、戦場から少し離れた場所に転移した。
転移直後に、戦闘へ巻き込まれたら危ないからね。
で、戦場の方を見てみると、そこは地獄と化していた──と言うほどでもないが、冒険者側にも結構な被害が出ているようだ。
そしてこのままでは、冒険者が全滅に追い込まれて、町に魔物がなだれ込むのも時間の問題だろう。
そうなってしまえば、本当の地獄が出現する。
そういえば、国の軍隊はいないのかな?
見たところ、冒険者の部隊の指揮をしているのはギルドマスターやドラグナのようだし、騎士団の姿は見当たらない。
ふむ……このクラサンドの町に領主が住んでいるという話は聞いたことが無いから、別の土地に住んでいる領主に報告が行って、実際に軍隊が動くまでにはまだ時間がかかるということだろうか。
だとすれば、援軍は間に合わないだろうな。
まあ、私がなんとかするが。
「キエルさんとマルガはあまり先行しないで、他の冒険者の援護をしてください。
|ダンジョンの出入り口付近《奥の方》にいる魔物は、私がここから対処しますので」
「うん、レイちゃん、お願いね!」
いいですとも!
さあ、パワーを「結界」に!
まずダンジョンの出入り口付近を、「結界」で覆う。
これで無限とは言わないまでも、延々と湧いてくる魔物の侵攻を押しとどめる。
迎え撃つ冒険者達の負担も、かなり減るはずだ。
ただ、悪魔や竜クラスの存在が集団で現れたら、「結界」を破壊される可能性があるので、今のうちに魔物の数は減らしておこう。
みんな星になってしまえー!!
私は結界内の魔物に対して、転移の魔法を使った。
上空数百mまで、魔物の団体をご案内──。
当然、飛行能力の無い魔物は、そのまま転落死する。
まあ、転移を使うのなら、相手の急所だけを転移させて即死を狙う手も使えるが、複数の標的を相手にそれを狙うのはちょっと面倒臭い。
なのである範囲内の存在を、まとめて転移させた訳だ。
そしてこの戦法を使ったのには、もう1つ理由がある。
術に抵抗してその場に残った者や、新たにダンジョンから出現した者の上に、上空に転移させた者達を爆弾のように落とす為だ。
名付けて、魔物流星群殺法!
魔物には巨体の者が多いから、それの落下に巻き込まれれば、大抵の存在は無事では済まないだろう。
更にダンジョンの周囲に積み上がった魔物の死体はバリケードとなって、新たに出現した魔物の侵攻を遅らせてくれるはずだ。
──と、思っていたのだが、突然発生した大きな爆発が、魔物達の死体を吹き飛ばした。
というか、まだ生きていたのもいただろうに酷いな!?
いや……、魔物達を墜落させた私が言うのもなんだけど……。
「どうやら、下層の魔物が出てきたようですね……」
しかも私の結界が上空までカバーしていないことに気付いたのか、それとも魔物流星群殺法に対応したのか、新たに出現した魔物達は、次々と上空へ飛び上がった。
これは統率がとれているなぁ……。
何処かに指揮を執っている者がいるのかな?
だとすれば、それは魔族だということで間違いないだろう。
いよいよ、戦いは本番だ。