32 異 変
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父親の件から数日後、ダンジョンで狩った素材を納品しにギルドへと来たら、応接室に呼ばれた。
話したいことがある──と。
またか~。
そして応接室には、やっぱりギルドマスターのザグルがいる。
「あの……今度はなんですか……?
すぐ帰りたいのですが……」
「そう言わずに話くらい聞いてくれ。
断るのは自由だからよ」
でも、絶対に面倒な話なんでしょ?
働きたくないでござる! 働きたくないでござる!
でも、話を聞くまでは帰してくれそうにない。
それにギルドに物を売って収入を得ている立場としては、ギルドの機嫌を損ねて買い取り拒否なんてことをされたら、自分で販路を開拓しなければならなくなる。
できればギルドとは、仲良くしておいた方がいいのも確かだ。
私は溜め息交じりにソファーに座った。
マルガとキエルもそれに倣う。
「……で、どのような話なんです?」
「最近、ダンジョンの魔物が増えていることは知っているか?」
「今、私達が狩り場にしているのは、70階層の近くですが、確かにその傾向はありますね。
……まさか、上層の方でもそうなのですか?」
「……そうだな。
近頃では、魔物がほぼ駆逐されたはずの1階層でも魔物が現れる。
2階層から這い出てきたのだろうが、それだけ魔物が増えている証拠だ。
その結果として、新人冒険者の中から死人も何人か出ているし、深い階層に潜ったまま帰還しないパーティーもいる」
「それは問題ですね……」
ダンジョンで全体的に魔物が増えている……ということか?
おそらくは魔族の仕業なんだろうけど、目的はこれ以上のダンジョン攻略を阻止する為か、それとも魔族の存在が人間に知られたので、潜伏をやめて本格的に人間と敵対するつもりなのか……。
「最悪、ダンジョンから魔物が溢れ出して、町に被害を与えるなんてことも有り得る」
ああ、スタンピードね。
異世界ではよくある、よくある。
「……その際は、町の防衛の為に我々も力を貸せ……ということですか?
それならば、我々も生活や家を守る為に吝かではないですが……」
「うん、そうだね」
「にゃ」
この辺はキエル達も同意である。
しかしザグルは、
「それもあるんだがな……。
だがお前達には、ダンジョンの攻略を進めて欲しい。
現状、60階層より下へと気軽に行って、平然と帰ってこられるのが、お前達しかいないんだ」
そんなことを提案してきた。
何言ってんだ、お前?
「それは……状況を悪化させる可能性があるのでは?
魔族がダンジョンの攻略を嫌がっているからこその、現状でしょう?」
「それもそうなんだがな……。
しかし原因が正確に判明していないから、これがいつまで続くのかも分からないし、何もしなくても更に悪化する可能性もある。
ならば何が地下で起こっているのか確かめて、その元凶を取り除いた方がいいってもんだ。
それに魔族は、いつまでも放置できるような問題ではないからな。
もたもたしていたら、魔王が復活して世界の危機……なんてことも有り得る」
あ~……魔王関係の問題はあるかもなぁ。
そしておそらく、今魔王に勝てそうな人間って、私だけなんだろうなぁ……。
その辺を見越して、ザグルが私に頼ってくるのも分からないではない。
でも危ないところに、マルガとキエルをあまり連れて行きたくはないんだよなぁ……。
かといって私1人で行って戦うと、「乗っ取り」を発動させるリスクが常につきまとうし……。
「……攻略は勿論進めますが、あくまで無理をしないペースで……ですね。
私達も命が大事なので……」
「まあ、俺らも強制する権限がある訳ではないから、それでいいけどよ……。
でも、なるべく急いでほしいということは、頭の隅にでも入れておいてくれ。
成果次第で、一代限りの爵位である騎士爵を得られるよう、国に働きかけてやってもいい」
「……いえ、国とは一切関わり合いになりたくないので、結構です」
いいからそういうの……。
本当に今更……そういうの……いいから……。
「……ですが、なるべく急いでほしいという件は、考慮しておきます」
と、私はこれで話は終わり……とばかりに立ち上がった。
「おう、よろしく頼むぜ!」
私達はギルドを後にした。
全く……面倒臭いことになったものだ。
しかしこうなると、マルガとキエルの強化が急務だなぁ……。
せめてキエル単体で、あの悪魔に勝てるくらいレベルを上げないと……。
「ふむ……」
私は2人の方を見た。
「あっ、なんか嫌な予感……」
「にゃあぁ……」
「みなさん、明日から強化合宿ですよ!
ダンジョンに籠もって、実戦訓練です!」
「やっぱりぃ~!」
「うにゃ……」
まあ、2人が嫌な顔をするのも分かる。
でもこの魔族の問題は放置すると、もっと酷いことになりかねないからなぁ……。
私達の気ままな冒険者生活は、犠牲になったのだ……。