31 再 会
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引っ越しの翌日──。
私達は町の商店街に来ていた。
新居で使う家具や、日用品を買う為にだ。
購入した家具は、タンスにテーブル、机、本棚……等々。
それと、冷蔵庫だ。
そう、冷蔵庫。
異世界にもこういう便利アイテムはあるんだな。
ただ、冷気を発するレアな魔物の素材を使って作るらしく、値段は金貨17枚で、日本円にすると約85万円と高額だ。
まあ日本でも、冷蔵庫がまだ一般家庭に普及していない時代なら、このくらいしてもおかしくはなかったのだろうし、価格としては適正なのかもしれない。
そもそも今の私達なら、出せない金額ではないしね。
お金を持つ者は、積極的に使って経済を回すのも、社会への貢献だ。
あと買わなければならないのは……食器類と、食材と……それからトイレ用のスライムだな。
私の浄化魔法でも処理はできるんだけど、私がいないと処理ができないようでは困るだろうし……。
ともかく、買わなければならない物は、まだまだある。
「今日は引越祝いにご馳走を食べましょうか。
マルガ、好きな食べ物を買ってあげますよ」
「大きなお魚がいいにゃ!」
「お魚ですか……」
お魚を食べると、頭がよくなりますよね。
某お魚の天国的に。
だけど、入手がなぁ……。
クラサンドの町の近くにも、小川が一応あるので、魚は捕れる。
しかしあの川には、あまり大きな魚はいなかったような……。
ただ、ダンジョン内には水路がある階層もあって、そこには魚の魔物も出現する。
そいつが入荷していればいいが……。
まあ、売っていなかったら、私が転移でサッと行って、パッと狩ってくるか。
そっちの方が鮮度はいいしね。
「うちはお肉がいいなぁ」
「お肉ですね」
キエルのリクエストはお肉だ。
その胸部のお肉も、お肉を沢山食べて育てたんですかね!?
じゃあ、私も沢山食べるよ!
A5和牛クラスの高級お肉をさぁ!!
でも……ここでは何の肉が高級なのだろう?
オークはちょっと嫌なんだが……。
まあ、肉屋で聞けば分かるか。
……あとは米があればいいのだが、今のところ見たことがない。
米があれば、色々な丼が作れるのに……。
ともかく私達は、色々な食材を買い漁った。
冷蔵庫があるから長期間の保存はきくので、遠慮無く買える。
「……さて、買う物も買ったし、この辺で帰りますかね」
「うん、我らのお家に帰ろう!」
「にゃ~!」
これから楽しい共同生活が始まる。
これだよ、私が求めていた異世界の生活は!
こんな生活がず~っと続けばいい──、
「あ」
「急に立ち止まって、どうしたの?
レイちゃん?」
「あの……っ、ちょっと先に帰っていてください!」
「あっ、レイちゃん!?」
私は駆けだした。
あの雑踏の中に見えた人の姿は、忘れもしない。
間違いなく、絶対にあの人だ!
こんなところに、いたんだ!
私はずーっと会いたかった。
そして、言いたいことがあったんだ。
「待ってください!」
私はその人物に追いついた。
そして声をかけた私の姿を見て、彼はきょとんとした表情をした。
私のことが誰なのか、一瞬分からなかったようだ。
こいつ……レイチェルのことを、忘れてやがったな!?
「こんなところで、なにをやっているんですかっ!!」
「お前は……」
「お父さんっ!!」
こいつだけは、いつか必ず殴ると決めていた!!
「お前……レイチェル……か?
まさか……生きていたのか?」
「……私が生きていたら、おかしいですか?」
「い、いや……」
こいつ……あの領主の元では、レイチェルが助からないと確信していたな?
だからレイチェルを助けるのも諦めて、逃げたのか。
「す、すまん!
許してくれっ!!
俺も生きるので精一杯で、お前を助ける余裕なんて無かったんだっ!」
まあ、その言い訳は本当だったのだろう。
あの借金取りに追われる生活は、相当厳しいものがあった。
そしてその頃のレイチェルの記憶よりも、今のこの男は痩せていて、服装も見窄らしい。
いつこの町に逃げてきたのかは分からないが、その後の生活も楽なものではなかったことは、すぐに察せられた。
きっとレイチェルを見捨てたって仕方がなかった。
貴族や奴隷商を相手に、一般庶民が対抗できるはずなんてなかった。
だから逃げたって良かったんだ。
だけど、どうしても許せないことがある。
「お父さんが借金を作って私を売ったことも、私を見捨てて逃げたことも、今更責める気はありません……」
「そ、そうか……。
俺たち親子だもんな。
今からやり直そう!」
何都合のいいこと言ってるんだ。
こいつなら、「また売れる」と思っていてもおかしくない。
「それは有り得ません!」
「……え」
「逃げるのならなんでっ、お母さんも一緒に連れて、逃げてくれなかったんですかっ!!
お父さんが逃げた後、お母さんは1人で頑張って、頑張り続けて……病気になって死んでしまったんですよっ!
私は、それだけがどうしても、許せませんっ!!」
「そっか……あいつ……死んだのか……」
こいつ……それすら知らずに、今までのうのうと生きていたのかっ!
私は思わず、父親の頬を平手で張った。
「ガフッ!?」
かなり手加減しているが、歯が何本か吹き飛んでいるから、こいつが受けたダメージは結構なものだろう。
おそらく回復魔法で歯を再生させなければ、もう硬い食物は食べられないかもしれない。
まあ、それは私の知ったことではないが。
「なんで、お母さんを助けてくれなかったんですかっ!!」
「そ……それは、あいつがどうしても残るって……。
俺だって、母さんを連れていこうとしたんだよ?
だけど、どうしてもお前を助ける……って」
それは……たぶん本当なのだろう。
そのまま死ぬまで戦い続けた母の献身を、私は疑わない。
「でも……私は手遅れでも、お父さんにはお母さんを助けることができた。
お母さんだけは……見捨てて欲しくなかった……っ!!」
私にはそれが、自分のことのように悔しくて、悔しくて悔しくて、いつの間にか涙が溢れ出ていた。
「レイちゃん……大丈夫?」
「! キエルさん……」
先に帰ってと言っておいたのに、私を追ってきていたのか。
「レイ姉……」
マルガが心配そうに見上げながら、私の手を取った。
「マルガ……」
私に寄り添ってくれる2人を見て、改めて今の私の家族は、この2人なのだと実感する。
だから──、
「……お父さん、できればもうあなたの顔は見たくありません。
次に見かけたら、殺したくなると思います。
……だから、早々にこの町から立ち去ってくれると嬉しいですね」
実の父に決別の宣言をした。
レイチェルの親だから殺しはしないが、もう2度と会いたくなかった。
次に会う時は、どちらかが死ぬ時だろう。
「レ……レイチェル、お、俺は……ひいっ!?」
父は歯が何本か無くなった口で、若干フガフガしながら何かを言いかけたが、私は殺気の籠もった視線で睨んで黙らせた。
てめーはもうそれ以上喋るな!
「さあ、帰りましょうか……マルガ、キエルさん
事情は後で話しますね……」
私は涙を拭いて、キエルとマルガに微笑みかける。
「「うん(にゃ)」」
嫌なことは忘れて、私達の日常に戻ろう。
……だが、この騒動を見ていた野次馬の中に、とある人物がいたことを、余裕を無くしていた私は気付けなかった。
そしてそいつが、私の大切な日常を壊すことになるということにも……。
いよいよ第3章も終盤です。今、エピローグを書いています。
なお、次回は明後日更新の予定です。