30 お引っ越し
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屋敷に住み着いていた妖精は、どうやらブラウニーのようだ。
確か前の世界の伝承では、民家にいつの間にか住み着いて、人知れず仕事を手伝ってくれるという存在だったと思う。
日本で言うところの、座敷童みたいな存在だと言えるのかもしれない。
ただ、気難しいところもあり、扱い方を間違えると、すぐに家から去ってしまうという。
しかしこのブラウニーと話した印象では、人懐っこくてそんなに面倒臭そうな感じではないな。
彼女(彼?)の話では、昔からこの屋敷に住み着いていたそうだ。
そして勝手に屋敷の管理をしていたらしいが、いつの頃からか住人がいなくなってしまい、どうしたのだろう……?とは思っていたらしい。
細かいことは気にしない性質なのか、何があったのかは全く知らないそうだが……。
まあ、屋敷の外から確認できた霊の行動を見る限り、殺人事件があったのは確実だろうけどね……。
『私達、この家に住もうと思っているのですが、いいですか?』
と、確認してみたところ、ブラウニーは頷いた。
そして決まり事は無いのかと聞いてみたところ、家を酷く荒らしたりしなければ、特に問題は無いようだ。
しかも掃除や洗濯などは、お願いすればブラウニーが全部やってくれるという。
この物件、良すぎない……!?
報酬はいらないのか?……と、聞いてみると、たまに食事を分けてもらえれば嬉しい──という、ささやかな要求だった。
伝承上のブラウニーも過度な報酬を与えると、気分を害してしまうという。
純粋な善意でやっていることを、報酬の為にしているとは思われたくないのだろう。
なので小さな神棚でも設置して、お供えをしようと思う。
あとは……、
『暇があったら、マルガ……あのネコの子と遊んでやってくれませんか?』
見た目の年齢は同じくらいだし、マルガに友達がいてもいいと思うんだよね。
私? 私は見た目と精神年齢のギャップがあるので……。
ブラウニーは目を丸くしてから、コクコクと忙しなく頷いた。
どうやら彼女も、寂しかったらしい。
今まで妖精の姿が見える人間は、あまりいなかったのだろうな。
ただ、マルガは妖精の言葉を知らないので、それはちょっと問題ではあるけれど、まあ子供同士なら、フィーリングでどうにかなるんじゃないかな。
勿論、簡単な言葉は、これから教えていくけれど。
さて、ブラウニーとの話もついた。
次はキエル達に説明する番だ。
──説明中──
「はえ~……レイちゃん、妖精の言葉も話せるんだ。
なんでも知っているんだね」
「何でもは知らないんですよ。
知ってることだけです」
キエルは妖精の存在を聞いて、怖がるのをやめた。
私からすれば幽霊とそんなに差があるとは思えないのだが、彼女からすればおとぎ話の中の存在として、憧れがあるのかもしれない。
いずれにしても、この家に住むことへの抵抗感は無くなったようだ。
それなら早く契約を済ませて、引っ越し作業を始めよう。
「マルガ~?
一旦帰りますよ~」
「う、もうかにゃ?」
マルガはブラウニーと追いかけっこをして、遊んでいた。
ブラウニーは自由に家の中を瞬間移動できるらしく、マルガのスピードでも捕まえることは難しいようだ。
あれは私の使っている転移魔法とも、少し違う印象だな。
どちらかというと本体が別にいて、分身を任意の場所に出現させている……というか。
いずれにせよ、マルガが追いつくまで待っていたら、日が暮れてしまいそうなので、ここで切り上げてもらう。
『じゃあ、ブラウニーさん、また後でね』
私達は、ブラウニーに別れの挨拶をして、家を出る。
玄関まで見送ってくれたブラウニーは、笑顔で暫くの間、手を振り続けていた。
そして3時間後──。
引っ越し作業は終了していた。
屋敷の売買手続きさえ終えてしまえば、荷物は空間収納で運べるのであっという間だ。
しかも役所へ書類の届け出とかも必要が無いようだし、水道や電気・ガスも無いから、それらのライフラインの関係会社と契約する必要も無い。
実に簡単なものだ。
まあ、家具はまだ揃っていないが、それらは後日買いに行くことにしよう。
一通り揃えようとしたら、選ぶだけでも1日くらいかかってしまうだろうしね。
まあ、さすがにベッドなど、今日からすぐに使うようなものは購入して運び込んだが……。
なお、屋敷に部屋は沢山あるけど、寝室は私達3人で同じ部屋を使うことにした。
1人1室では、広すぎて落ち着かないのと、キエルが独りでこの家で眠るのは、まだ少し怖いらしい。
まあ、さすがにベッドは、3つ用意したけれどさ。
あとお風呂には、あらかじめお湯をいれておいた。
本来は井戸から水を汲んで湯船に貯めて、薪を焚いてお湯にするのだが、それでは手間がかかる。
そこで水魔法で水を生み出して貯めてから、そこにビームサーベルを突っ込んだら、火傷しそうなほど高温の水蒸気が発生して酷いことになった。
……うん、最初から水と火の魔法を組み合わせて、お湯が出るようにすれば良かった……。
どのみち温度の調整が難しく、今はお湯を冷ましているところだ。
で、私達は今、寝室でくつろいでいた。
「うにゃあぁぁ~、気持ちいいにゃぁぁ~」
マルガは私の膝の上で、毛繕いを受けている。
「あの、レイちゃん……?
マルガちゃんが、子供がしちゃいけないような、甘い声を出しているような気がするんだけど、大丈夫なの……これ?」
キエルが視線を逸らしながら、恥ずかしそうに聞いてきた。
あ……宿屋では部屋が別だったから、キエルがこれを見るのは初めてなのか。
傍目には実質セッ●スに近い行為に見えるのかもしれん。
「普通に毛繕いをしているだけですから、問題無い……はずですよ?」
私もちょっと自信が無い。
「なんでしたら、キエルさんにも同じように、これからお風呂で頭を洗って上げましょうか?」
「えっ!?」
私は冗談のつもりで言ったのだが──、
「う、うん、いいよ……」
「へ?」
なんとキエルは承諾したのだ。
あまりにマルガが気持ちよさそうにしているので、自分も試してみたいと思ったのかもしれない。
なんだかんだで、えっちなことにも興味があるお年頃なのか!?
……その後、お風呂場であったことについては、私だけの記憶にとどめておきたいと思う。
頭を洗っただけなのに、キエルがちょっと凄いことになってしまったので、他人には見せられないよ!
なお、私も鼻血を吹いて倒れてしまったので、引き分けだと言えるだろう。
感無量でした……。