28 スウィートホーム
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今日は引っ越し予定の家を見に来た。
所謂ところの、内見というやつである。
価格は金貨150枚。
日本円だと750万円くらいかな。
日本だと750万円で新築は建てることは難しいが、こちらは土地も安いしそこそこの一軒家が建てられる額である。
……が、新築を待っていたら1~2年はかかりそうなので、私達が選んだのは中古の物件だ。
こちらの基準だと、中古で金貨150枚は少し高めな印象だが、欠陥住宅を掴まされても困るので、多少値が張ってもいいから、しっかりとした造りの家を紹介してもらった。
雨漏りがしていて、壁一面にカビが生えているような家とかだと、洒落にならないからね。
……で、その件の家だが──。
「豪邸だ……」
「豪邸だね……」
「大きいにゃ」
いやいや、サンバートルの領主の館ほどではないけど、これは結構な豪邸だよ?
庭も広いし、プールまである。
これで金貨150枚はおかしいでしょ!?
これは冒険者ギルドの方で、なにかしら特別な配慮がなされたのか、あるいは──、
「ねえ……これ事故物件じゃありませんよね?」
私はこの物件を案内してくれた、商業ギルドのおじさんに質問する。
「いえ……そんなことありませんよ?」
おじさんは露骨に目を逸らした。
嘘だっ!!
う~ん、まあ……私は今更気にしないけどさぁ。
色々と凄惨な現場は見てきたし、霊だって見えるようになっているので、慣れてしまった。
お、マルガも……館の窓をじっと見つめている……。
ああ、うん……いるな。
貴族っぽい男が、妙齢の婦人の首を絞めているのが見える……。
また変なの見ちゃった。
おそらく霊が、死んだ時の状況を再現しているのだろう。
なんでそんなことを繰り返しているのか分からないけど、おそらく違う結末になるのを望んでいるのかもしれない。
ただ低級の霊って、知能も生前より大幅に下がっているから、試行錯誤ができない所為で生前と同じ行動を取って、結局同じ結末に至る……という感じになっているっぽい。
だからいくら惨劇をループしても、そこからは抜け出せないんじゃないかなぁ。
どこのヒナ●ザワだよ……。
「それでは、中を見せてもらいましょうか」
「え、入るの、ここ?
マジで?」
あ……キエルが駄目そうだ……。
霊とかが苦手っぽいからなぁ。
ただ、私としては悪くない物件だし、霊については後で処分すれば問題無いと思っている。
「中を見てみないと、住み心地も分かりませんからね」
「えぇ~……、なんかここ、気味が悪いんだけど……」
「たぶん害は無いですよ。
なんなら、私だけで確認してきましょうか?」
「いや……そういう訳には……。
うちも行く……」
キエルは渋々とだが、一緒に行くことを承諾した。
たぶん私のことが心配なので、それが霊への怖さに勝ったようだ。
なんだかんだで面倒見がいいからなぁ……。
それが分かったので私は、
「ありがとうございます」
と、礼を言っておく。
それと──、
「マルガ、ここで人間ではないものが見えても、キエルさんには内緒ですよ。
怖がるので」
そう耳打ちする。
「了解にゃ」
「それでは行きましょう」
私達は屋敷の玄関へと向かう。
すると──、
「あ、鍵です」
と、商業ギルドのおじさんが、鍵を手渡してきた。
「……あなたは、案内してくれないのですか?」
「いえ、私は少々用事がありまして……。
1時間ほどしたら戻ってきますので、鍵はその時に返却してください。
それまで、自由に見学していただいて結構です」
そう言って、おじさんはそそくさと去って行った。
嘘だ!!
……露骨に屋敷に入ることを嫌がっているなぁ……。
仕事をしろよ、おっさん……。
まあいいや、いても邪魔なだけだし。
それよりも……、
「え……これ大丈夫なの?
ホントに……?」
なんか、キエルがブツブツと言っている。
既にヤバイな……。
ええい、もう面倒臭い。
私は屋敷全体に対して、浄化の魔法をかける。
この術は、汚れを落とすだけではなく、不浄な不死系の魔物にも効果があるのだ。
これで低級の霊は消滅しているはずだ。
しかも汚れも落ちているから、見た目の印象が劇的に変化する。
「「おお~!」」
キエルとマルガが歓声を上げる。
屋敷の見た目が、新築同様になったのだから当然か。
いや、さすがに塗装が落ちたところは目立つけどね。
「これ、レイちゃんがやったの!?
凄いねぇ!
ここを、本当に私達の家にしていいの?
夢みたい……!」
ふふ……。
さっきまで怯えていたキエルが、小さい女の子みたいにはしゃいでいる。
これからこの豪邸で、新しい生活が始まるのだから、楽しみなのは私も同じだ。
「さあ、中がどうなっているのか、見てみましょう」
「うん」
私達は、意気揚々と屋敷の中へ踏み込んだ。
「わぁ、中も綺麗だねぇ」
「広いにゃ」
そうだな、これで金貨150枚なら安いものだ。
いい買い物をした……と、まだ契約もしていないのに、私は上機嫌だった。
その時──、
バタン。
と、開けっぱなしにしていた玄関の扉が、勝手に閉まった。
…………おやぁ?
風の所為かな……?