27 報酬問題
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ギルドマスターと面会してから、既に10日ほどが経過していた。
その間、我ら3姉妹は、60階層から70階層の間を狩り場にして、素材の採取とレベリングに勤しんでいる。
さすがにそろそろ転移魔法にも慣れてきたので、パッと60階層まで転移して、日帰りで行ける所まで行って帰ってくる感じだ。
なお、70階層よりも先はまた悪魔が出てくる可能性もあるので、当面は踏み込まないようにしている。
今はまだダンジョンの攻略を進めるよりも、マルガとキエルの育成の方が急務だ。
とは言っても装備を刷新したので、戦力はかなり向上しているのだけどね。
キエルには町の武器屋で1番良い剣を買ったので、彼女の技は今まで以上の切れ味を見せるようになった。
あとは技術の向上次第で、あのゴーレムの装甲だって切り裂けるようになるかもしれない。
一方マルガは、下層の魔物には殆ど弓矢が通用しないので、いっそそれは捨てて、これまた武器屋で1番良いナイフを2本購入して、両手に装備させることにした。
キエルよりも数段落ちる攻撃力を、手数で補うようにした訳だ。
両手に武器を装備しての2回攻撃、いいよね……。
まあ、盾が装備できないので回避率は下がるが、某最後のファンタジーの2作目みたいに、文字通り致命的なまでの不利が生じるなんてことはないだろう。
現実はゲームとは違うのだよ、ゲームとは!
実際、マルガには素早さがかなりあるから、ある程度ならその俊敏さだけで敵の攻撃を回避できるだろうし、最終的には音も無く敵の背後に忍び寄って、急所を一刺しするような忍者スタイルを目指してもらいたい。
あ~、今度武器屋にお願いして、手裏剣を作ってもらおうかな……。
ともかく、パーティーの戦力強化は進んでいる。
現状、資金力に物を言わせて、装備に頼っている感は否めないが、勝てばよかろうなのだァァァァッ!!
だが、それでダンジョン攻略が楽になったということは、全く無かった。
「ふにぃ、敵が多いにゃ……」
「レイちゃん、疲れた……。
もう帰ろう」
2人から泣き言が聞こえてくる。
しかし実際に、敵の数は以前よりも増えているような気がする。
あの悪魔は、これ以上私達にダンジョンの奥へと進んで欲しくなかったみたいだし、人間の接近に焦った何者かがいることは間違いなさそうだ。
で、これ以上の攻略を阻止する為に、ダンジョン内の魔物を増やした……と。
いずれにしても、今後も厳しい戦いは予想される。
無理はしない方がいいな。
「じゃあ、今日は帰りましょうか」
そして町に帰ったら、この前ギルドに納品した新種の魔物達の代金を、そろそろ請求しようか。
前金で貰った額は装備の新調でかなり使ってしまったから、財布の中身が少し寂しいのだ。
冒険者ギルドへと訪れた私達は、まず素材の納品をする為に買取カウンターにきた。
「ぅええ~、またですか?
まだ前回の支払いも終わっていないのに、こう次から次へと……」
係のお姉さんに嫌な顔をされた。
解せぬ。
「ここだけの話ですね、あまり高額の素材を連続で持ち込まれると、支払うお金が無くなるんですよ……!」
「……私達が持ち込んだ素材は、売れていないんですか?」
冒険者ギルドは、納品された素材を商人に転売して収益を得ている。
冒険者が直接商人と交渉をしてもいいのだが、それだと手間がかかるし、学が無い者だと商人に言いくるめられてしまい、素材を安く買い叩かれてしまうことがあるので、冒険者の多くはギルドに一任している。
「全く新しい素材だから、買う側にも知識が無くてねぇ……。
どんなに良い物だとしても、二の足を踏むのよね」
「あ~~~」
……なるほど。
新商品には、宣伝が必要ということか。
だけど冒険者ギルドがそんなことに力をいれるとも思えないし、口コミで評判が良くなることを期待するしかないのか?
「それと、在庫がある素材を大量に持ち込まれると、希少価値が下がるので、買い取り価格も下がります。
だから長期的に見れば、需要が無くならなくて相場が安定している食材に獲物を絞った方がいいかもよ?」
なんと!?
無闇に魔物を乱獲しても、効率が悪いってことだな……。
「それでもこの前持ち込まれた素材は、資料的な価値など諸々も含めて、金貨900枚が支給されます。
今はこれ以上支払えないので、今回までに納品された素材の代金は、暫く待ってください」
と、お姉さんは頭を下げた。
「きゅうひゃっ!?」
今まで交渉事があまり得意ではない所為で黙っていたキエルが、悲鳴のような声を上げる。
日本円だと4500万円相当だもん、そりゃあ驚く。
「し~、キエルさん。
他人に聞かれたら、狙われますよ?」
「あ……ごめん」
「これから用意しますから、応接室でお待ちください。
そこで支払います。
それと、ギルドマスターも待っていますよ」
え~……。
面倒くさい……。
で、応接室に行くと、ギルドマスターのザグルが本当に待っていた。
「よぉ」
「にゃっ!」
片手を上げて挨拶するザグルに、マルガだけが手を上げて答えた。
私とキエルは、そんなに親しくしたい相手でもないので、軽く会釈をしただけだ。
まあ、マルガも単純に人見知りしないだけで、親しくしたい訳でもないのだろうけど。
「それで……今回は何の用なのですか?」
ソファーに座ると、私の方から話を切り出した。
するとザグルは、少し言いにくそうに答えた。
「魔族の件だがな……国の反応が鈍い」
何故? 今そんな話を!?
私に言われても……。
「……情報を信用していないということですか?」
「それもあるだろう。
まだ悪魔の現物を見せてないからな。
それに今まで、200年以上もほぼ現れたことが無い連中だ。
今更魔王なんて、おとぎ話の中の存在で、脅威では無いと考えているのかもしれない」
「しかし楽観視していい相手では、なかったと思いますがね……。
人間の言葉を理解する知能の高さもありましたし、仲間も召喚しますし……。
厄介さで言うのなら、竜に匹敵するんじゃないですか?」
「……だが、直接見ていない連中にはそれが分からないし、中央の貴族なんかは魔物と戦う機会も少ないから、遠い世界の話──程度にしか考えていないようだな」
平和ボケをして、安全保障を疎かにしているということか。
……つまり、どういうことだ?
この話の着地地点はもしかして──、
「……まさか、また魔族が出た時には、私が対応しろって話ですか?
国には頼れないから……?」
「話が早くて助かる」
ザグルは強く頷いた。
「嫌ですよ、面倒臭い!?」
「一応他の地域のギルドにも声をかけて対応を考えている途中なんだが、現状ではお前しか頼れる奴がいないんだよ」
「ええぇ……」
「報酬は弾むし、可能な限り何でもするからよ」
今、なんでもって言ったよね?
「もう……仕方が無いですねぇ……。
でもその代わり、いい物件を紹介してください。
これから支払われる報酬で、家を買おうと思っていたので。
大きなお風呂付きがいいです」
「おお、いいね」
「にゃっ」
いつか大金が手に入ったら、拠点となる家を買おう──と、キエル達と話し合っていた。
それがまさかこんな早く実現するとは……ね。
「お……おう。
そういうことなら、商業ギルドに問い合わせるように手配するが……」
「お願いします」
そんな訳で、近々宿を引き払って、新居へと引っ越しすることになった。