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6 暗黒要塞

 ブックマークありがとうございました。


 そして、ようやく話が動きます。

 次に私の視力が戻った時──その視界に、大きな違和感を覚える。

 世界が心なしか、以前よりも大きく見えるのだ。

 草や木などのあらゆる物体が、今まで見てきた物とはスケール感が違うし、色の見え方も少し違うような気がする。


 私は何事かと思い、周囲を確認しようとしたが、その前に妹ちゃんの悲痛な鳴き声が聞こえてきた。

 しかもその声は、今までに聞いたこともないほど大きい。

 私はその声の方に、目を向けてみる。


 えっ────!?


 妹ちゃんは、一匹の子ギツネにすがりついて鳴いていた。

 倒れた子ギツネを揺さぶったりして、必至に目覚めさせようとしているようだ。

 しかしその子ギツネは、目を見開いたまま、全く動こうとはしなかった。

 あれはもう、死んでいるのではないか?

 

 というか、妹ちゃん達の身体が、見上げるほど大きいのだが。

 今までの倍以上のサイズに、膨らんだかのようだ。


 ──いや、これは私の方が縮んだのか?


 しかも、妹ちゃんがすがりついている子ギツネの姿を、私は初めて見る。

 他の兄妹達とは特徴が違うし、ママンを含めてこの場には全員いるから、誰かを誤認している訳でもない。


 ということは……もしかしてあれは、私……なのか?

 私の身体が死んでいる?

 じゃあ、この身体は?


 手を見てみると、今までの肉球のある可愛い手とは違う。

 細長い指があって……これはどう見てもネズミです。

 本当にありがとうございました。

 

 ……もしかして私、ネズミの身体に乗り移っている!?

 えええ……なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ──どうしてこうなった!?


「ヂュウゥー!?」


 あ、声も今までと違うわ……。 


 あ……ありのまま今起こったことを話すぜ!

 私はネズミにトドメを刺したと思ったら、いつのまにか私がネズミになっていた。

 な……何を言っているのかわからねーと思うが、私も何をされたのか分からなかった……。


 ──本当に全く訳が分からない!

 分からないけど……このままだとヤバくないか?

 目の前には、ネズミを餌にするキツネ達がいる。

 このままでは、私が美味しくいただかれてしまうかもしれない(性的ではない意味で)。


 でも、元の身体に戻れるのか、これ?

 元の身体は、もう死んでるっぽいんだけど……。

 少なくとも、ネズミの精神と入れ替わった訳では無いよな……。

 本来のネズミの精神というか、魂というかが死んでいるのだとすれば、再びそれと交代するというのは不可能だろう。


 どのみち入れ替わりを試すのならば、元の身体に近づいて触れなければ駄目だと思うが、それを家族達が許すだろうか?

 私がちょっと元の身体に近づくと、妹ちゃんがこちらを見た。


「ギュルルルルル……!」


 妹ちゃんが、今まで聞いたことが無いような声で唸って、私を威嚇してくる。

 その目は怒りに燃えていて、今にも私に飛びかかりそうだ。


 こんな妹ちゃんは、見たくなかった……。

 笑顔を守れなかったよ……。


 ともかく、これでは元の身体には近づけない。

 ただ、幸か不幸か、家族達が今すぐ私を攻撃しようとする気配も無い。

 私の元の身体が突然死亡したので、このネズミの身体に毒か何かがあるのではないかと、警戒しているのかもしれない。


 だが、いつまでも安全だとは限らない。

 怒りで我を忘れた妹ちゃんに攻撃される可能性はあるし、どのみち意思疎通の手段が無いのならば、もう家族達とは一緒に暮らせない。


 でも、これから独りで生きるのか?

 こんな無力で小さなネズミの身体で、大自然の中を独りで?

 無茶だ、数日生き延びることができるかどうかすら怪しい。

 でも──、


「ギャン! ギャン!」


 妹ちゃんが吠える。

 私に対して迂闊に手出しできない状況が悔しいのか、目に涙を浮かべながら、私に向かって吠え続ける。

 そんな妹ちゃんの姿を、私はもう見ていられなかった。


 だから私は、その場から逃げだした。

 アテも無い、暗い森の奥へと逃げだした。


 ……家族とは、もう二度と会えないかもしれない。




 私は地面に掘った穴の中にいた。

 暗い(くら)い穴の中。


 何処をどう走ったのか分からないが、自然とこの場所に辿り着いたのだ。

 もしかしたら、このネズミの身体に残っている記憶が、この場所を安全地帯として覚えていたのもしれない。


 ただ、ネズミの記憶容量が小さいのか、このネズミについての詳しい情報は分からなかった。

 少なくとも、何故身体が入れ替わったのか、その真相を知る為に役立ちそうな情報は無いようだ。


 おそらくこの入れ替わりは、ネズミが元々持っていた能力が原因ではないのだろう。

 漫画とかでは希に、自身を倒した相手の身体を乗っ取って復活するという、ほぼ不死身じみた能力を持つキャラが出てくるけれど、それにしては元の私の身体の方に、ネズミの精神が移っていないのはおかしい。


 ……まあ、遺伝子さえ残ればいいというノリで、身体の生存だけを優先する能力である可能性もあるが……。

 実際、私の兄妹にいたぶられた末に、私にトドメを刺されたはずのこのネズミの身体には、現在全くダメージらしいものが無い。

 精神か魂を犠牲にして、敵の生命力を根こそぎ奪うスキルというのも、可能性としては有り得る……か?


 だが、別の種族である私の精神を乗り移らせて生き延びたところで、他のネズミと子孫を残そうとするかというと、それはまず有り得ないから、これも生物としてはおかしい。

 野生動物にとって至上の使命は子孫を残すことだろうから、ネズミにとって、私の精神を乗り移らせてでも生き延びるメリットが全く見えてこないのだ。


 となると、可能性は(おの)ずと限られてくる。

 おそらくこれは、私の転生特典のスキルによって引き起こされた現象だ。

 たぶん殺害した相手の身体を奪うという、酷く使いどころが限定された能力なんだと思う。


 ……これなんて『レ●クス』?

 なんで理不尽な難易度を誇っていた時代のレトロゲーみたいな、酷く扱いにくい能力なんだよぉ……。

 こんなのほぼハズレ能力じゃん。


 確かに身体を乗り換え続けることで、永遠に生きることも不可能ではないし、使いようによっては便利なのかもしれないけれど、これでは食べる為の獲物を狩る度に身体を乗り換えることになるから、デメリットの方が大きい。


 それにこの能力を駆使すれば、人間の身体を手に入れることも不可能ではないのだろうけれど、その為には殺人をしなければならない訳で……。

 特に美少女の身体を手に入れる為には、私が愛すべき存在であるはずの美少女を殺さなければいけないことになる。


 そんなの、私には無理だ……。

 この家族との別れのエピソードを書いたのは結構前なのだが、私の家族が入院して会えなくなった(コロナ対応の為、原則面会禁止)直後のタイミングで公開することになろうとは……。


 なお、土曜深夜(日曜0時過ぎ)は、『おかあさんがいつも一緒』の更新予定なので、こちらの更新はお休みします。

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[一言] さようなら家族…; ;
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